話題呼ぶ『グノーシア』のTVアニメ化 成功を予感させる“好相性”な組み合わせ

 12月1日、『グノーシア』のTVアニメ化が発表された。

 その独創的な切り口から、人狼派生作品のなかでも、稀有の輝きを放っている同タイトル。満を持してのメディアミックスは、原作に恥じない評価を獲得できるだろうか。本稿では、『グノーシア』のTVアニメ化が業界のトレンドに持つ意味と、成功の可能性を考えていく。

人狼ジャンルから派生したSFアドベンチャー『グノーシア』

『グノーシア』PS4/PS5/Xbox/Microsoft Store版 発表トレーラー

 『グノーシア』は、同人のゲーム制作サークル・プチデポットが開発を手掛けた人狼系SFアドベンチャーだ。舞台となっているのは、宇宙を漂流する1隻のスペースシップ。同船の乗組員である主人公は、同僚のセツとともに、タイムリープを繰り返しながら、船内に紛れ込んだ人間を消してしまう存在「グノーシア」を排除するための議論へと参加していくことになる。なぜ2人は過ぎた時間を繰り返してしまうのか。巻き戻った先に必ずグノーシアが潜伏している理由とは。横たわるさまざまな謎を進行とともに解き明かしていくことが、同タイトルのゲーム性だ。

 発売は2019年6月。当初はPlayStation Vitaのみで展開されていたが、高評価の声が相次いだことも影響してか、翌年2020年には、グラフィック/サウンドのアップグレードとさまざまな機能追加を施したNintendo Switch版がリリースを迎えた。その後は、同版がSteam、PlayStation 4/PlayStation 5、Xbox Series X/S、Xbox One、Microsoft Storeへと移植。接点の増加がさらなる評判を呼び、瞬く間にジャンルを代表するタイトルに数えられるまでとなった。

 今回のTVアニメ化にあたり、アニプレックスのプレスリリースには、プチデポット代表の川勝徹(めづかれ)氏のコメントと、原作イラストを手掛けたことり氏のお祝いイラストが寄せられた。『グノーシア』公式Xアカウントによると、放送は2025年を予定しているとのこと。発表にあわせ、ティザービジュアルとティザーPV、公式サイトも公開となった。

『グノーシア』のTVアニメ化、成功が業界トレンドにもたらすもの

TVアニメ『グノーシア』ティザーPV | 2025年放送開始

 ゲーム市場では昨今、サブカルチャーとメインカルチャーの境界が曖昧となりつつある。かつては大手企業によって開発/発売されたタイトルが大半のトレンドの中心に位置していたが、ここ数年はインディー発のタイトルが界隈の話題をさらうことも珍しくない。『グノーシア』の成功は、ゲーム業界で増加しつつあるそうしたムーブメントの先駆けのひとつである。そのような作品が(エンターテインメントという括りではゲームと距離が近く、どちらかと言えば、メインカルチャーに分類されるであろう)TVアニメのジャンルでメディアミックスされることもまた、象徴的な出来事であると言えるだろう。

 実は、インディー発の人気作品がTVアニメ化に至るのは、これが初めてのことではない。直近では2024年7月、おなじく同人のゲーム制作サークルである、えーでるわいすによって開発された『天穂のサクナヒメ』が、テレビ東京系ほかにて放送されている。同作もまた、映像化が発表された際には、界隈の話題をさらった。結果として、ゲーム作品に匹敵するほどの高評価は得られなかったものの、文化的には意義の大きい挑戦となったことは言うまでもない。

TVアニメ「天穂のサクナヒメ」本予告【7月6日より放送開始】

 また、古くは『CLANNAD』も一連の文脈上にあるIPであると言えるだろう。ビジュアルアーツが抱えるゲームブランド・keyによって開発され、2004年にPCで発売された同作は、小規模で制作されたタイトルながら、2007年にTBS系列でTVアニメ化。その作品性が広く知られることとなった。

 「ノベル/アドベンチャーゲームからTVアニメへ」という流れは、その後、大きなトレンドとなり、いくつかの作品がゲーム史/アニメ史の両方に名を残す成功を収めた。5pb.(現MAGES.)によって開発された『STEINS;GATE』は、その代表的な例だろう。

 昨今のインディー発タイトルの躍進からは、まだこれらに匹敵するTVアニメ化の成功例が出ていないが、ひとつの前例ができさえすれば、上述の歴史と同様のトレンドが生まれるのではないか。『グノーシア』のTVアニメ化は、そのターニングポイントになり得るメディアミックスであると考えられる。

『グノーシア』はTVアニメ向き? それぞれの特性に横たわるポジティブな要素とは

『STEINS;GATE RE:BOOT』ティザートレーラー

 はたして『グノーシア』のTVアニメ化は成功を掴み取れるだろうか。発表されたばかりということもあり、大半はまだブラックボックスのなかだが、一部にはポジティブな要素も存在している。それは同IPとTVアニメの相性が良いと考えられることだ。

 先にも述べたとおり、『グノーシア』は、主人公たちのタイムリープと、グノーシアとの対峙をメインテーマとしている。作中では、ことあるごとに時間が巻き戻り、そのたびに2人はその時間軸に新たに潜伏するグノーシアとの議論に身を投じていくことになる。

 一方で、TVアニメは、3か月で区切られる1クールのなかで、30分弱のプログラムが12話ほど放送される特徴を持っている。多くの場合、各話には物語のヤマ場が設けられ、その魅力によって視聴者の興味・関心を次の放送へと向かわせる。このようなアプローチこそが、同メディアの定石となっている。

 そうした両者の特性を踏まえると、TVアニメ『グノーシア』は、一度(もしくはそれに近しい回数)のグノーシアとの対峙とそれに付随するタイムリープを、1話へとまとめるストーリー構成をとるのではないか。結果として視聴者は、物語の起承転結を感じやすくなり、作品の世界へと没入させられる。『グノーシア』とTVアニメの相性が良いと考えられる理由は、この点にこそある。

 上述のプレスリリースによると、原作者でありプチデポット代表の川勝徹氏は、TVアニメ版にもプロデューサーとして深く関わっているのだという。制作チームの立ち上げに携わったほか、プチデポットとしてデザインや世界観などを集約しつつ、内容の監修と最終承認を行っているそうだ。もしかすると、どこかの放送回で原作にはなかったシナリオが登場することもあるのかもしれない。

 TVアニメ『グノーシア』は2025年放送予定。大きな期待とともに、新情報の発表、放送の開始を待ちたい。

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