「目でいただく」不思議な料理に注目集まる 『空想料理店』のショート動画に魅了されるわけ

 2024年10月25日、Xで「電線に引っかかった満月を料理します」というショート動画が話題を呼んだ。電線に引っかかった満月を収穫しているのは、空想料理店の店長・蟹だ。満月はまず店に持ち帰り、たわしでゴシゴシと洗う。包丁で半分にカットすると月の断面が見え、何層にも重なっていることがわかる。薄くスライスして丸めてオーブンへ。店長は月を使ってクロワッサンを作ろうと思っていたのだが……?

 月が電線に引っかかっているという世界観、およそ食材とは思えないものを持ち帰って料理をする、謎の店。落ち着いたナレーションで調理を進めていく(ときどき様子がおかしいところもあるが)店長・蟹。どこか夢を見ているような世界観で、毎話1品、不思議な料理が完成していく。ブラウン管に映った卵や、野生化したアコースティックギター、討伐したスライムキューブなど、使用する食材も魔法の世界のようだ。

 未知の食材がどのような工程で調理されていくかも、動画では丁寧に描かれている。ちなみに使われる調味料や調理器具も、この世界にしか存在しえないものたちばかり。完成した料理は美しく、どんな味や食感なのか、視聴者の想像を掻き立てる。空想料理店のメニューは、まさに“目でいただく”のが正解なのだろう。

黎明期から活動しているVTuber

空想料理店 蟹って何者!?

 この料理店の店長・蟹は2018年1月にVTuberとして活動を開始。自己紹介動画では、活動開始当初はまだ「VTuber黎明期だった」と語っている。活動を開始してから23万円のモーションキャプチャを購入して動画制作をしていたものの「まったく芽が出ず」(本人談)。しばらくの下積み時代を経て、2019年9月に「空想料理店」をオープン。独特な世界観が話題を呼び、2024年3月には登録者数5万人を突破。そこから約8か月後の2024年11月現在では、登録者数24万人を突破するなど、メキメキと認知度が上がっているのだ。

 VTuberとして動画を投稿しているだけではなく、コントアニメやMVの制作など、映像作家としての一面を持つ蟹。VTuberといえば生配信を主軸に、“語り”で人気を集めるクリエイターがほとんどだが、蟹はクオリティの高いショート動画で人気になり、VTuberであり映像作家でもある稀有な存在だ。

 絶妙な画質の粗さはどこか懐かしさもあり、夢っぽさを演出している。ローポリゴンのキャラクターや背景はレトロさも感じることができ、最新のグラフィックにはない“愛らしさ”がある。

本バーガーを作ってみた

 もっとも再生されている料理は「本バーガーを作ってみた」だ。画面が上下に分かれており、下の画面ではなんとリアルで本バーガーの調理を再現している。視聴者の「現実で作ったらどうなるんだろう……?」を、本人が実践してくれているところが驚きだ。493万回再生されたこの動画は、自身も「あれ以上のものは出ません」というほどの作品になっており、チャンネルのなかでも発想力が光っている1品だ。

 練られた世界観や作り込まれた映像ではあるのだが、視聴者としては何も考えずに、寝る前に見たくなる心地よさがある。現実から離れ、ちょっと不思議な世界に飛びたくなったら、ぜひ「空想料理店」のドアを開けてみてほしい。

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