ゲームクリエイターの創作ファイル:第4回
『ドキドキAI尋問ゲーム』などを手がけたヤマダを支える「誰かを喜ばせる」という目的 アイデア出しに苦悩し、努力し続ける実像とは
リアルサウンドテックの連載「ゲームクリエイターの創作ファイル」では、“ゲーム作り”にフォーカスしてクリエイターたちにインタビュー。その真髄に迫っていく。
第4回は、『ドキドキAI尋問ゲーム』『ウーマンコミュニケーション』といった話題作をひとりで開発したヤマダ氏にインタビューを行った。スクウェア・エニックスやディー・エヌ・エーでゲーム開発に携わり、独立してふんどしパレードを設立。現在は個人でゲームを開発するという多種多様な経歴を持つヤマダ氏の等身大の苦悩や努力、そして今後の活動について話を聞いた。(堀江くらは)
AIの不完全さを逆手に取った『ドキドキAI尋問ゲーム』の設定
――ヤマダさんはこれまで、さまざまなゲームに携わってこられたと思いますが、まず直近で完全版をリリースされた『ドキドキAI尋問ゲーム』について伺います。リリースした手ごたえはいかがでしたか?
ヤマダ:『ドキドキAI尋問ゲーム』は複雑な経緯を辿っていて、過去に2回、無料公開していました。それに加えて完全版リリース時はChatGPTのブームからも1年近く経っていたので、お金を出して買ってくれる人はあまり多くないのではないかと思っていたのですが、予想以上に多くの人が購入してくださったり、配信もしてくれたりで、『ものすごくありがたい』と感じています。ただ、本作は海外でのヒットを狙っていたのですが、そこは上手くいかず悔しいですね。
――たしかに、本作のようなインディー作品を海外でヒットさせるのは難しそうですね。
ヤマダ:日本の場合はSNSで話題になって、それをメディアさんが取り上げてくれて、さらに配信者の方のプレイしてくれたら、ほかの配信者がさらにプレイしてくれたり、視聴者の方が買ってくれたりといった循環があると思うんです。その循環に本作や『ウーマンコミュニケーション』はある程度乗ることができたと感じています。でも、海外では作ったゲームに対する認知を広げる道筋がまだ掴めていなくて、今後どうしていくかはちょっとした悩みです。
――『ドキドキAI尋問ゲーム』はChatGPTを用いています。ChatGPTを用いたゲームを作ろうと思ったきっかけを教えてください。
ヤマダ:2023年の春ごろのChatGPTが大流行していたタイミングで、これを活用すれば独自性のあるゲームを作れるかもしれないし、もしできたら注目してもらえる可能性もあると思い、ゲームのアイデアを考えていました。それに、当時からChatGPTのAPI(※)も公開されていましたから。
※API…アプリケーション・プログラミング・インターフェースの略。ソフトウェア同士が情報をやり取りする際に使用するインターフェース。APIを活用することにより、『ドキドキAI尋問ゲーム』ではゲーム内の尋問にChatGPTのシステムを導入している。
――そんななかで『ドキドキAI尋問ゲーム』のアイデアが浮かんだんですね。
ヤマダ:はい。世に出ていたAIを使ったゲームを見てみると、すでに人間で実現できていることを、AIに置き換えた形のものが多い印象がありました。Q&A方式のものや、AIにゲームマスターをやってもらうタイプのものですね。こうしたゲームは「人間とやったときの面白さ」とあまり変わらず、しかもAIの挙動が不完全だと減点されていきがちで、作る面白みを感じづらかったんです。そういったものより、AIを用いることでそれまで実現できていなかった体験や、AIの挙動が不完全でも逆に面白くなるようなゲームを提供できないかと考え、たどり着いたのが『ドキドキAI尋問ゲーム』です。
――尋問という舞台設定のアイデアはどこからでてきたのでしょうか?
ヤマダ:AIを使わないと体験できないことをあれこれ考えるなかで、自然と尋問というアイデアにたどり着きました。
――本作をプレイして「スタンフォード監獄実験(※)」を連想しましたが、これもキーワードに含まれていたのでしょうか?
ヤマダ:そうですね。当時エンジニアの中ではやっていた「ChatGPTにどんなプロンプト(ユーザが入力する指示や質問)を投げれば良い回答を得られるか」といったノウハウのなかに「あなたは優秀な◯◯です」と最初に決めつけるものがあったんです。 「あなたは優秀なゲームクリエイターです。ゲームのアイデアを教えてください」みたいに質問すると、普通に質問するのとは違った返答がくるというものですね。自分もそういう風にChatGPTを使っていたんですが、あるとき「同じことを人間にやったら、ちょっと残酷だな」と考えたんです。
そこで、ある種の皮肉として、ゲームの冒頭でプレイヤーに対して「あなたは優秀な警察官です」と決めつける導入を思いつき、そこからスタンフォード監獄実験が連想されて、アイデアが膨らんでいったというところもあります。
※スタンフォード監獄実験…アメリカ・スタンフォード大学で行われた、心理学の実験。刑務所を舞台に、普通の人が特殊な肩書きや地位を与えられると、その役割に合わせて行動してしまうことを証明しようとした。
――「尋問」という設定は、多くの人が試したであろう「ChatGPTとの会話」をゲームに落とし込むのに最適な設定だと感じました。
ヤマダ:尋問を舞台設定にすれば、AIがトンチンカンなことを言っても怯えているようにも見えるし、突然英語で喋りだすような不完全な動作さえも笑いどころになると思ったんです。
とはいえ、AIだけの返答に頼ると、ただ言葉のキャッチボールをしているだけの捉えどころのないゲーム体験になりやすいと思ったので、ゲーム的な演出などでプレイヤーがゲームの進行や盛り上がりを感じやすいようにするための工夫は頑張りました。
たとえば尋問が進むごとに音楽が盛り上がる、キャラのモーションが怯えたように変化する、ナビゲーターが次の尋問のヒントを出してくれるなど、従来のゲーム的な演出で下支えすることで、AIとの対話をより楽しみやすく工夫しました。
――AIやChatGPTを使っていくなかで、難しいと感じたことはなんでしょうか?
ヤマダ:ChatGPTは一見すると優秀そうなんですが、思い通りに動いてくれないことも多いんです。たとえば、本当は隠されている事件の真実があって、ある条件を満たすとそれが明かされるとか、それをAIが嘘で隠そうとするーーそんな尋問を体験できるシナリオも模索したのですが、最初の質問で全部喋ってしまい成立しないなんてこともありました。
複雑なロールプレイをさせるのは難しいと思ったので、真実をプレイヤーが作っていくようなゲーム体験に寄せ、それに合わせて事件については『酒を飲んでよく覚えていない』ことにして、プレイヤーに聞かれたことをAIが返答で膨らませていくようにするなど、AIの設定を細かく調整していくことが必要でした。
「アイデア出し」に自信がないからこその修行
――『ウーマンコミュニケーション』についてもお聞きします。本作はゲーム配信を含めて大きな反響があったかと思います。最初に“バズった”当時はなにを感じましたか?
ヤマダ:当時の自分は、面白いと思えるゲームを作っても、ユーザーにとって面白そうに見えないと手に取ってすらもらえないという挫折を経験していて、『面白そう』なゲームのアイデアをひたすら考える修行みたいなことをしていました。
そんななかでたどり着いたのが『ウーマンコミュニケーション』のアイデアで、実際に世の中の人にはどう見えるかを試そうとXに投稿したところ、予想以上にバズり、ニュースサイトが取り上げてくれたり、Wikipediaに項目までできたりしました。『面白そう』に見えることが重要だとは思ってはいたものの、ツイートひとつでここまで人を動かすとは考えてもいなかったので、「バズるアイデアはこんなにバズるのか」ということを初めて身をもって学びました。
――『アイデアを考える修行』とは具体的にどのようなことをしているのですか?
ヤマダ:主にやっていることは、面白そうだと感じたゲームやエンタメ作品をピックアップして、それがなぜ面白そうに感じるのかを分析し、抽象化して、その構造を使って別のアイデアを考えてみる、というトレーニングです。ゲームはもちろん、映画や漫画、アニメからドラマまで、ジャンルを問わずさまざまなジャンルのエンタメ作品に対してこれを繰り返し行っています。
これを続けていると、面白そうだと感じる構造のパターンみたいなものが見えてくるようになり、思ってもみなかったようなアイデアも出やすくなるので、非常に有効だと思っています。
――ヤマダさんのゲームは、ストーリー上でのまさかの展開や、ラストで打ち出されるメッセージなどが印象に残りますが、そうした部分のアイデアは制作のなかで生まれてくるものなのでしょうか?
ヤマダ:まずはユーザーがゲームに期待するであろう要素をしっかりと制作します。そのうえで、さらに良いゲームだと思ってもらいたいですし、個人的にプレイヤーを驚かせたいという気持ちもあるので、何らかの「裏切り」をあとから加えています。
「裏切り」の要素を考えるうえで、「期待値の黄金比」みたいなものがあると思っていて、それを意識しながら制作しています。ゲーム全体の7割くらいはユーザーがそのゲームに期待しているであろう内容で構成し、残りの3割で裏切るのがいいバランスなのではないかと考えているんです。その裏切りの中身は、2割がホラー要素のような、ちょっとダークなものにして、残りの1割はそのダークさを反転させるような、ポジティブだったり、ハッピーなものにすることが多いですね。
こうした考えを基盤として、裏切りのパターンを考え、盛り込んでいくことが多いです。自分が最近作った作品の中でそれが最もバランスよく収まっているのは『ぼくとAIのなつやすみ』という作品だと思います。
ぼくとAIのなつやすみ:https://unityroom.com/games/i_and_ai_summer
――ヤマダさんのゲームはどれも『アイデアがスゴイ』というイメージがありますが、こうしたトレーニングや、「期待値の黄金比」といった考えのなかで生み出されてきたんですね。
ヤマダ:『アイデアがスゴイ』と言っていただけるのは大変光栄ですが、自分はむしろアイデア力にまったく自信がありません。それでもゲームを作るうえで魅力的なアイデアが必要だと思っているので、必死にトレーニングをしてアイデアをひねり出しているような状態です。
『ドキドキAI尋問ゲーム』や『ウーマンコミュニケーション』はたまたま良いアイデアを生み出せましたが、それが自分のハードルになってしまっている気もしています。壁を越えようとすると、どんどんハードルは上がってしまうので、このあたりで一度、肩の力を抜いて自分のハードルを下げた方がいいのかなと、悩んでいるくらいです。
インディーゲーム制作では、配信文化の恩恵は無視できない
――少し話を戻しますが、制作されたゲームが話題になった際、多くの配信者がヤマダさんのゲームをプレイしました。ご自身のゲームの配信を視聴した感想をお聞かせください。
ヤマダ:普段はあまり配信を見ませんが、『ドキドキAI尋問ゲーム』や『ウーマンコミュニケーション』の配信はこっそり視聴しています。これまでいろいろな配信を拝見しましたが、優れた配信者さんはゲームを本物以上に面白く見せてくれる力があると感じました。自分で作ったゲームの配信を見ていても「このゲーム、こんなに面白かったっけ」「感動的なストーリーだなぁ」と思ってしまう瞬間が多々ありました。ゲームの面白いところはさらに面白くしてくれるし、退屈な部分はそうと感じさせないようにカバーしてくれる……。配信者さんは「その時間そのものを面白くするプロ」なんだと知ることができました。そういった配信を見て、私のゲームの内容を知った人は、実際に購入してプレイした人の数十倍はいるんじゃないかと思います。
ゲーム配信に関してよく、「配信の影響でゲームは売れるか、売れなくなるか」といった議論がありますが、「売上」ではなく、「評価」という面でもありがたい影響があるんじゃないかと最近は思っています。配信者さんの力によって、ゲームがより面白く、魅力的なものとして視聴者の方に届くこともありますから。
――特に印象に残った配信者はいらっしゃいますか?
ヤマダ:特定の配信者さんの名前はちょっと出しづらいのですが、ある方は配信スタイルが『ウーマンコミュニケーション』と相性がよく、プレイするなかで配信者さんの個性がいつも以上に発揮され、その結果配信が盛り上がっているように感じました。こんな風に、ゲームと配信者さんの間で化学反応が起きると、ゲームの作り手としてもうれしく感じます。
――ちなみに、配信者さん以外の、一般の方の反応で印象深いものはありましたか?
ヤマダ:日常のなかにある言葉に、うっかり淫語が生じてしまう現象が『ウーマンコミュニケーション』と呼ばれているのを見たのはうれしかったですね。
――ゲームのタイトルがそのまま現象の名前になったんですね。
ヤマダ:そうなんです。ゲームをプレイした人の日常のなかに、プレイ後もゲームが残り続けている。そんなゲームになったことがうれしいです。
――お話にあったとおり、ゲームの売上や評価に関して、配信は大きな影響を与えていますし、その影響力は日々増していると思います。『ウーマンコミュニケーション』に限らず、ゲーム開発において、どこまで配信されることを意識されていますか?
ヤマダ:『ウーマンコミュニケーション』のアイデアを考えていたときは配信についての知識がなかったので、あまり考えていませんでした。しかし、周囲の人から「このゲームは配信で盛り上がりそうだ」という意見をたくさんいただいて、そこからモザイク機能や診断機能などの配信向けの機能を追加していきました。
『ウーマンコミュニケーション』で配信の力を痛感したので、『ドキドキAI尋問ゲーム』ではより配信を意識して、フリーワード入力やキーワード縛りのハードモードといった機能を取り入れました。
――今後も配信を意識したゲーム制作を続けていくのでしょうか?
ヤマダ:今後作るゲームも配信のことは必ず念頭に置くと思います。ゲームは、主流のビジネスモデルと合致したものを作った方が戦いやすく、逆に言えばそれを外してしまうと戦いづらくなる可能性のあるコンテンツだと思っています。たとえば、日本のスマホゲームなら基本プレイ無料で、課金要素としてガチャがあるというのが“王道”で、そうでないものは相対的に成功事例が少ないと思います。同じように、インディーゲームにおいては、配信文化をしっかりと意識した方が恩恵が大きいと感じています。
そうした現状と方向性が合わないクリエイターもいるとは思いますが、自分は、先ほど話したように配信からさまざまな利益をいただいていることもあるので、ぜひ自分のゲームを配信してほしいですし、うまく配信文化と噛み合うようなゲームを作っていきたいなと思っています。
配信文化と上手くマッチさせるには「配信したくなること・配信が盛り上がること・配信を見てもなおプレイしたくなること」の3つが重要だと感じています。これをどう盛り込んでいくかは強く意識していますね。
――実際のゲーム制作のなかで、その3点をいかに実装していくのでしょうか? 特に「配信を見てもなおプレイしたくなること」は非常に難しく感じます。
ヤマダ:たしかに、その部分が一番難しいですね。私は配信で見たことがゲームのすべてではなく、配信を見た人に『自分がプレイしたらどうなるだろう』『自分でもチャレンジしてみたい』と思ってもらえることが重要だと思っています。たとえば『ドキドキAI尋問ゲーム』ではフリーワードで質問ができるので、配信者の尋問の手順などを見て、『自分だったらこんなワードで質問をする』『自分はもっと上手く尋問できる』と思ってもらって、そこからプレイにつながるのではないかと考えました。
ーー配信したくなること・配信が盛り上がることの2点に関しては、ゲームがバズるかどうかが重要になりそうですね。
ヤマダ:話題になっていて面白そうなゲームで、視聴者も見たがるゲームが、配信したくなるゲームのひとつではあると思います。配信の盛り上がりに関しては、プレイ中にその配信者さんの個性が発揮されるような場面があることが重要ではないでしょうか。これに関しても、フリーワード入力は相性がいいですね。