「悪魔城ドラキュラ」シリーズ復刻の“最大の壁”を乗り越えた『ドミナスコレクション』 制作陣への感謝とプレイのススメ

 8月末のことになるが、『Castlevania Dominus Collection』(以下、ドミナスコレクション)がNintendo Switchを始め、複数のプラットフォームで販売開始となった。

 ニンテンドーDSで発売された「悪魔城ドラキュラ」シリーズ3作を1本にまとめ、現行の環境への最適化と巻き戻し(リワインド)を始めとする便利機能の搭載、そしてボーナスコンテンツを収録したタイトルである。

『Castlevania Dominus Collection』ローンチトレーラー

 このタイトルの初報を見て、筆者が抱いた感想は「ついにこの時が!」だった。ニンテンドーDSで発売された『悪魔城ドラキュラ』シリーズ3作は、長らく現行環境への復刻が待ち望まれていた。

 しかし、すでに復刻を果たした過去作と違い、ニンテンドーDSのシリーズ3作には復刻においての“壁”とも言える課題が存在した。とりわけ大きかったのが『悪魔城ドラキュラ 蒼月の十字架』(以下、蒼月の十字架)における、タッチスクリーンの操作を必須とするシステムだ。

 残る『悪魔城ドラキュラ ギャラリーオブラビリンス』(以下、ギャラリーオブラビリンス)、『悪魔城ドラキュラ 奪われた刻印』(以下、奪われた刻印)にも同様のシステムは存在するものの、あくまでも本編とは別のおまけ要素&簡易操作。『蒼月の十字架』は探索にボス戦など、ゲーム本編の根幹部分に深く食い込んでいて、素早い操作も要求されることから、現代の環境で復刻させるなら、関連するシステムにメスを入れることが避けられない。

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 そのようなことを2023年、『奪われた刻印』にフォーカスした記事終盤で言及したが、今回の『ドミナスコレクション』の誕生によって、見事その大きな課題は解決された。同時に中古価格の大幅な高騰によって、年々手が出しにくくなりつつあったニンテンドーDSのシリーズ3作がお手頃な価格で購入・体験可能にもなった。

 発売されたのが8月末だったため、いまさらの感もあるのだが、それでも言わざるを得ない。新作を作るのと同等の労力が必要とされたと思われる復刻に尽力した開発のM2、そして販売と制作を決断したKONAMIの方々、本当にお疲れ様でした。こうしてゲームボーイアドバンス時代の「悪魔城ドラキュラ」シリーズ3作も含め、探索型の「悪魔城ドラキュラ」が体験しやすくなって、すごくいい時代になったように思う。

オリジナル版当時、夢物語だったボタン操作でほぼ完結する『悪魔城ドラキュラ 蒼月の十字架』の誕生

 復刻における最大の関心事たる『蒼月の十字架』の最適化に関しても、「そこまでやるとは……」と、驚かされるものだった。とりわけ印象的だったのは「魔封陣」。『蒼月の十字架』の象徴的な要素で、ボスにトドメを指す時に描くことが要求される魔法陣だ。

 仕組みとしては、画面上に出る指示に沿って特定の操作を実行していく「クイック・タイム・イベント」(QTE)に近い。オリジナル版はタッチペンで下画面のタッチスクリーンに直接、決められた順序に沿って線を描き、魔法陣(魔封陣)を完成させるという形だった。ボタンによる操作は一切不可能。必ず、タッチペンを使って描かなくてはならない。

 ニンテンドーDSの発売間もないころは、こうしたタッチスクリーンに代表されるハード独自の機能をやや強引な形で活用するゲームの例が目立った。

 『蒼月の十字架』もそのひとつで、それまでの探索型の『悪魔城ドラキュラ』シリーズが、ボタン操作で完結する作りだったこともあり、発売当時は賛否を呼んだ。結果的に次作、『ギャラリーオブラビリンス』からは本編クリア後のモードで要求されるものになり、操作自体も簡易なものに落ち着いている。しかし、このようなシステムをゲームの根幹部分に食い込ませてしまったがため、現行環境への復刻に当たっての大きな課題が生まれることになってしまった。

 もし、復刻するとなればボタン操作に対応させる変更を施すか、あるいはクリア後要素「ユリウスモード」のように、タッチ操作自体をなくす力技を実行することが考えられた。それらの可能性に対し、『ドミナスコレクション』はどんな回答を出したのか?

 前者、ボタン操作に対応させる形を取った。魔封陣(魔法陣)の起点それぞれに固有のボタンが割り当てられ、それを決まった順番通りに押して完成させられるようにしたのだ。ちなみにタッチ操作にも対応しており、Nintendo Switch版は携帯モードでのプレイ時に使える。また、Steamで販売されているPC版では、マウス操作も使える設計となっている。

 正直、魔封陣のボタン操作対応は、オリジナル版当時からすれば夢物語に近かった。たしかに対応すればプレイヤー的にはうれしい。だが、オリジナル版にない操作を追加することは、新作を作るのと同等の労力が必要と推測される。果たして、やすやすと実現できるものなのか? 生々しい話だが、実現するにも予算を始めとする高い壁が存在するのではないのか? そのような懸念があった。

 『ドミナスコレクション』はそのような壁を乗り越えた。それを成し遂げただけでも、繰り返しになるが開発のM2、制作を決断したKONAMIには感謝と労いの言葉を送るばかりだ。まさか、ボタン操作でほぼ完結する『蒼月の十字架』が遊べる日が来るとは、夢にも思わなかった。

 また、これは『ギャラリーオブラビリンス』『奪われた刻印』の2作にも共通する事柄だが、1画面内に3つの情報が表示されたレイアウトになったのもうれしいところだ。オリジナル版は下画面にメインゲーム、上画面にマップ、ステータス情報が表示される仕組みとなっていた。ただ、上画面のマップとステータスは同時に表示することができず、基本的にセレクトボタンで切り替える形だった。

 『ドミナスコレクション』では、当時はできなかった同時表示も可能になり、2つの情報を見ながら遊べるようになった。これは地味ながらも大きな進化である。実質、オリジナル版を超える快適なプレイ環境が構築されたといっても過言ではないだろう。

 ほかに『蒼月の十字架』には、タッチ操作関連の要素で「バロール」なる、特殊な水色のブロックを破壊できる能力があった。こちらは右スティック+ZRボタン(※Nintendo Switch版の例)による、疑似的なタッチ操作の再現でカバーされている。ただ、「ユリウスモード」だとブロックを直接攻撃で破壊できたことを思うと、同じ仕様を入れてみるのも面白かったように思う。とは言え、一部のブロックの配置がタッチ操作前提の攻略を想定している都合、逆に難しくなった可能性も考えられるので、これが最良の形だったのだろう。

 そんな具合に遊びやすさが向上した『蒼月の十字架』だが、逆に「魔封陣」はボタン操作対応による弊害も生まれている。魔封陣は本編の進行に応じて強化版が手に入り、それと共に描く図形が複雑化していく。この影響で特に複雑な「魔封陣」の4~5は、ボタン操作では記憶力試しとも言える、ほぼ脳トレ同然のゲームと化してしまっているのだ。

 タッチ操作なら、単純に線の順序と完成形を覚えるだけで済むが、ボタン操作だと押す順序という情報が増えてより難しくなる。このような難題が生まれるようになって、結果として難易度が高まってしまった。一応、間違えても巻き戻し機能を使えば簡単にやり直せるため、深刻な問題点にはなっていない。しかしながら、情報量の差が生じる事象を見ると、ボタン操作に対応すれば、必ずしもすべてが良くなるとは限らない真理(?)を認識させられるところだ。ニンテンドーDSが当時、提唱したタッチ操作のすごさもまた然りである。

探索型シリーズの進化と発展、そして熟成に至る歴史を体験しやすくしたコレクション2作の大きな功績

 『蒼月の十字架』に焦点を当てたが、『ギャラリーオブラビリンス』と『奪われた刻印』の2作も、最適化と便利機能の搭載によって遊びやすくなっている。特に『奪われた刻印』は、2023年にスポットライトを当てた記事を執筆した身としては、現行の環境で体験できるようになったことを大変うれしく思うこのごろだ。

 だが、何よりもうれしい……というより、感慨深いのは探索型の「悪魔城ドラキュラ」シリーズの歴史を振り返りやすくなったことだろう。長らく限定的な復刻と、オリジナル版の中古価格高騰で購入のハードルも上がり続けていたシリーズ作が、今回の『ドミナスコレクション』と、その前作に当たる『Castlevania Advance Collection』(以下、アドバンスコレクション)で、幅広い環境で手軽に買えて遊べるようになったのだ。本当に「いい時代になった」の一言に尽きる。

 そして、あらためて『アドバンスコレクション』と『ドミナスコレクション』収録の全6作を再プレイして感じるのが、ゲームボーイアドバンスとニンテンドーDS時代の『悪魔城ドラキュラ』シリーズは、探索型のゲームデザインをさらに洗練させ、熟成させた作品だったということだ。

 特にニンテンドーDS向けの2作目『ギャラリーオブラビリンス』は、まさに『悪魔城ドラキュラ 月下の夜想曲』(以下、月下の夜想曲)から始まった探索型シリーズの極致とも言える作品だったと言える。2人の主人公キャラクターを使い分ける「パートナーシステム」、絵画の世界という悪魔城以外のロケーションの登場など、意欲的な試みも満載の作品だが、マップデザインと難易度の調整具合は探索型のシリーズの中でも随一。シリーズ初心者から上級者まで、幅広いプレイヤーが楽しめる「悪魔城ドラキュラ」の形を確立させた作品と言える完成度となっている。

『VAMPIRE KILLER(バンパイアキラー)』(『悪魔城ドラキュラ アニバーサリーコレクション』より)

 唯一、ストーリーにおいてはオリジナル版当時、「悪魔城ドラキュラ」シリーズ随一の稀少タイトルとの呼び声もあった『VAMPIRE KILLER(バンパイアキラー)』(メガドライブ)の続編という点で、高いハードルが存在したが。しかし、2024年現在は件の『バンパイアキラー』が『悪魔城ドラキュラ アニバーサリーコレクション』などで復刻されたため、ハードルは大幅に引き下げられている。それもまた「いい時代になった」の一言に尽きる。

 『蒼月の十字架』も魔封陣に代表される賛否の分かれる部分こそあるが、内容そのものは前作に当たる『Castlevania 暁月の円舞曲』(以下、暁月の円舞曲』)を進化・発展させた仕上がりで、高い完成度を誇る。前作『暁月の円舞曲』も、ゲームボーイアドバンスで発売された3作の中では最も『月下の夜想曲』に近い遊び心地と完成度を誇るほか、(『蒼月の十字架』もそうだが)シリーズ初となる日本人の主人公、敵の能力を自分のものとして活用する「タクティカルソウルシステム」といった豊富な見どころを持つ。

 ほかにコレクションで遊べるタイトルにも独自の魅力がある。『Castlevania 白夜の協奏曲』ならスピーディなアクション、『悪魔城ドラキュラ Circle of the Moon』ならゲームボーイアドバンス初期の作品とは思えぬ高音質のサウンドと、探索型の『悪魔城ドラキュラ』シリーズでは群を抜いて『メトロイド』らしさのあるマップ構成、そして『奪われた刻印』は探索型とステージクリア型のいいところ取りなゲームデザインだ。

『Castlevania 白夜の協奏曲』(『Castlevania Advance Collection』より)

 当時を踏まえれば、迷走しているように見える動向もあった。海外版と同じ『Castlevania』へとタイトル名を改めるも、消費者への混乱を招いたことから『悪魔城ドラキュラ』へと戻したのは代表的な出来事だろう。『蒼月の十字架』と『ギャラリーオブラビリンス』のアニメ調のキャラクターデザインも、『悪魔城ドラキュラ 血の輪廻』という前例こそあれど議論を呼んだりもした。

 ただ、ゲームとしての完成度は作品を重ねるたびに深まっていき、探索型の「悪魔城ドラキュラ」はニンテンドーDSの3作で完成形に達したと言える。そうした作品が現代の環境で快適な形で遊べるようになり、しかもその前の歴史にもさかのぼれるようになったこのごろ。長らく探索型の「悪魔城ドラキュラ」シリーズが気になって仕方がなかった人ほど、「この機会を利用しない手はない」と言ってもいいだろう。

 筆者個人としても、その歴史を知れる『アドバンスコレクション』と『ドミナスコレクション』は強く推したい。もともと、探索型の『悪魔城ドラキュラ』は、シリーズが現役を終えて数年経ってから人気・注目度が高まった背景がある。それゆえ、遊びたくても高くて買えないといったもどかしい思いをした世代も多いだろう。ゆえに繰り返し訴えたい。この機会を利用しない手はないぞ。

『悪魔城ドラキュラ 月下の夜想曲』(『悪魔城ドラキュラX・セレクション 月下の夜想曲 & 血の輪廻』より)

 ただ、気がかりなのは、探索型の「悪魔城ドラキュラ」シリーズの始まりの1作たる『月下の夜想曲』が限定された展開に留まっていること。そして、探索型の始祖に当たる『ドラキュラII 呪いの封印』が英語版しか展開されていないことだが。

 特に『月下の夜想曲』は、現行の環境で遊べる最新版と言えるのがPlayStation 4向けに展開されている『悪魔城ドラキュラX・セレクション 月下の夜想曲 & 血の輪廻』と、Xbox One(Xbox Series X|S)の後方互換に対応したXbox 360版、そしてスマートフォン版ぐらいだ。Nintendo Switch、Steamといったプラットフォームにも展開する意義があるように思うのだが、いまだ音沙汰がないのが不思議なこのごろである。

気になる残されたタイトルの復刻と、突然の新作『悪魔城ドラキュラ Revisited』が物語るもの

 それに『ドミナスコレクション』の発売で、『悪魔城ドラキュラ』シリーズの復刻は概ね完了したかと言われると、そうでもない。復刻されていないタイトルはまだ多数あり、なかでもオンラインマルチプレイに対応した『悪魔城ドラキュラ Harmony of Despair』は、おそらくニンテンドーDSの3作の次に復刻が待望されているタイトルだろう。

『悪魔城ドラキュラ Harmony of Despair』(Xbox 360)

 実験色の強い3Dアクションの「悪魔城ドラキュラ」シリーズの復刻も進んでいない。それどころか、こちらはステージクリア型、探索型の2Dアクションのシリーズ以上に動きが見られない。中でも『Castlevania』については、ベルモンド一族とドラキュラの因縁や、シリーズお馴染みの聖鞭「バンパイアキラー」誕生の物語を描いた作品だけに、なんらかの形で蘇らないものかと思うばかりだ。しかし、この作品はカメラワークや操作性などに課題を抱えているため、単なる復刻では厳しそうな実態があるのだが。

 とはいえ、今回の『ドミナスコレクション』で『悪魔城ドラキュラ Revisited』なる、アーケード版『悪魔城ドラキュラ』の初リメイク作がさりげなく誕生したことを思えば、多少ではあるが、リメイクの期待ができそうなところもある。

 そもそも、『悪魔城ドラキュラ Revisited』はリメイクながら、家庭用ゲーム機では『悪魔城ドラキュラ ロード オブ シャドウ2』以来の新作でもある。こうした流れが起きたことを踏まえると、今後は新作の登場にも期待できそうだが……こればかりは今後の推移を見守るしかないだろう。

 いずれにしても、近年は復刻やインディーゲームとのコラボレーションなどが目立っていた『悪魔城ドラキュラ』。そのなかでも大きな壁とも言えた『ドミナスコレクション』を乗り越えた今後、シリーズはどんな未来を紡いでいくのか。

 願わくば、2024年3月に完全新作『魂斗羅 オペレーションガルガ』の発売が記憶に新しい、「魂斗羅」シリーズのような歩みを見せてほしいと願うばかりである。それまでは『ドミナスコレクション』と『アドバンスコレクション』、そして実は「悪魔城ドラキュラ」シリーズの楽曲への差し替えにも対応した『魂斗羅 オペレーションガルガ』を楽しみながら待ちたいところだ。

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