一見すると『マリオ3』、しかしその本質は!? “身体能力が低いマリオ”のジャンプアクション『Kitsune Tails』に挑戦せよ
これはマリオだ。しかもマリオ3だ。大きな長靴に身を包み、針山の上を飛び跳ねるのだから間違いない。それに、タヌキマリオのようなスーツもある。水中面はサメスーツ、ツバメスーツで空も飛べる!
『Kitsune Tails』は“任天堂ハードでなくても遊べる『スーパーマリオブラザーズ3』”だ。見た目は和風の世界で、主人公のユズは女の子に化けた子キツネだが、アクションはジャンプの効果音からしてマリオ3オマージュである。あまりにマリオ3すぎて不安になるが、プレイを続けると本作ならではの魅力をたっぷり味わえるので安心されたし。
その魅力のひとつが独自の物語である。主要人物はフルボイスで、マリオシリーズにはない物語を繰り広げる。ユズちゃんと幼なじみのキリ、そして新しい友人のアッコ、その3人でゲーム開始早々から女の子同士の三角関係にもつれ込むのだ。そこから、生き方や友情といった人生観へ着地するのが面白い。ガールズラブに狙われたストレートの運命は? かなり難しいけど挑みがいがあるステージを乗り越え、恋路の行く末を見届けよう。
スーパーユズちゃんワールド
子どものころはマリオシリーズを遊んでいたけれど―― というゲーム遍歴を持つ人は『Kitsune Tails』で久々のマリオを楽しんでもらいたい。もちろん、マリオ3をリアルタイムで遊んだ人にもオススメだ。画面からほとばしるオマージュに笑みをこぼすと約束しよう。
踏んで丸まったノコノコ、ならぬアルマジロをつかんで運び蹴り飛ばす。パタパタならぬクワガタが宙にいるので、ジャンプで踏んでさらに高くジャンプする。下り坂でしゃがむとケツ滑りして敵をはじきとばす。土管ならぬ井戸から出てくる、パックンフラワーならぬろくろ首をやりすごす。野を駆け谷を越え、足場から足場へ飛び渡り、右へむかって進みゴールの鳥居をくぐるとステージクリアだ。ワールド(マップ)で次のステージに移動し、ボス戦で勝利し、物語の続きを追おう。
上記で本作の内容をほぼすべて網羅した。ここから先はプレイヤーとなって体験してもらいたいが、まだ食指が動かない人にむけて見どころを紹介しよう。主人公のユズちゃんは精霊の力を借りて、具体的にはスーツを着て特殊アクションを得る。
武者スーツは槍の攻撃で敵を倒せる、だけでなく槍を壁に刺して足場代わりにできる。ほかにどんなスーツがあるのか楽しみだ。このスーツの出番が多く、マリオ3で感じた「もっとスーツで遊びたい」欲を満たしてくれる。
BGMも聞き心地がよい。派手さこそないが、軽快な足取りを思わせるメロディでステージ踏破をかき立ててくれる。琴や尺八を模した音色も和風ステージにマッチし、いつしかマリオの世界ではなくユズちゃんたちの世界だと感じるだろう。第一印象こそ「ジェネリック・マリオ3」なのだが、たしかな個性を宿している。いや、キツネだけに“化けている”というべきか。その正体は、マリオシリーズ随一の高難度ゲーム『スーパーマリオブラザーズ2』のオマージュである。
マリオ2のルイージより滑る!
昨年発売の『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』を遊び尽くしたにもかかわらず、「2Dアクションのマリオ」と聞いて飛びつくゲーマーにも『Kitsune Tails』を手にしてもらいたい。『スーパーマリオメーカー 2』でマリオ職人が作成したステージを楽しむゲーマーにもオススメしよう。ゲームパッドさばきの要求精度が高く、新たな気持ちでジャンプアクションを楽しめるはずだ。
というのも、ユズちゃんはマリオより身体能力が低いのである。本作は平凡なジャンプでも簡単にミスとなる。敵を踏み損ねてダメージを受け、キツネ(ちびマリオ状態)に戻るのはしょっちゅうだ。ダッシュの勢いがつくと急に止まれず、足場を跳び渡った着地で滑って奈落へ投身する。かなりイラっとさせられるが、無限残機のおかげで「死にゲー」ライクにチャレンジできた。
ゲームパッドさばきを試すステージも秀逸だ。本作は平易な代替ルートがなく、プレイヤーの実力でアクション課題を克服しなくてはならない。後半ステージになるとアバウトなダッシュ&ジャンプも許さない。足場を飛び渡るだけでも苦労するのに、ジャンプとダッシュの最大入力をとがめるよう敵を置いてあるのが心憎い。
ワールド最奥のボス戦も難しい。ボスの攻撃を見切り、さらした隙を踏んで倒す……というマリオ3でおなじみの様式だが、どのボスも攻撃が個性的で見切りにひと苦労する。また、ボスのひるみ時間が短く、踏んだあとにすぐ逃げないと反撃でやられてしまう。残心をかかさず次の攻撃に備える、真剣勝負めいた緊張を味わえる。
本作のダッシュ&ジャンプは思った以上に難しい。ここがポイントだ。見た目よりも難しいから挑戦心をかき立てられるのである。チャレンジするからこそ成功の喜びがあり、挑戦と克服の繰り返しでゲームパッドさばきを育んでいる。
それと並行し、主人公ユズちゃんも物語上で精神的に成長していくのが面白い。この先に何があるのか、ステージと物語への好奇心が最後まで続くと請け合おう。
成長してこそのオマージュ
『Kitsune Tails』は「昔ながらのアクションゲーム」を懐かしいだけでは終わらせない、成長を感じるオマージュだ。マリオ3に似ているところはたくさんあるが、違うところもたくさんある。プレイヤーと一緒に主人公も成長している。そうした意外な喜びで最後まで楽しませてくれた。
意外性の最たる例が2周目の主人公キリだ。1周目と同じステージを攻略するが、アクションは『ロックマンX』仕様である。スライディング・壁ツカミ・斬り攻撃など、高い身体能力でさんざん苦しんだステージを攻略できるのが快い。もうひとつの物語で恋の三角関係が思った以上にこじれていくのも、2周目を走った甲斐がある。
もっと難しいアクションゲームをクリアしてきたぞ! というゲーマーはエクストラステージに舌鼓をうってもらいたい。高難度テクニック「甲羅ジャンプ」を用いるステージ、と聞けばマリオ職人の血が騒ぐだろう。先述のとおりユズちゃんは敵を踏み損ねがちなので、そうやすやすと甲羅ジャンプは決まらないぞ。
不老不死社会の暗部を暴く『Nobody Wants to Die』がもたらす、POV映画のようなゲーム体験
『Nobody Wants to Die』は不老不死が実現した近未来で殺人犯を追うアドベンチャーゲームだ。タイトルを訳すと「誰も…