猫とバターがくっついて…空を飛ぶ!? ジョーク発の秀逸なパズルゲーム『CATO: Buttered Cat』レビュー
「バター猫のパラドックス」という思考実験がある。
バタートーストが落下すると必ずバター面が床にくっつく……猫がどんな風に落下しても必ず四つ足で着地する……というふたつの仮説がある。では、バタートーストを背負った猫が落下すると、どちらが床に着くのか? もしや永遠に空を飛び続けるのではないか? というものだ。
もちろん、パラドックスだの思考実験だのとかっこつけてはいるが、これはただのジョークである。だが、このジョークを真に受けたTeam Wollという開発会社が、猫とトーストが大冒険するパズルゲームを作ってしまった。それが『CATO: Buttered Cat』である。
トーストと猫のタッグチームで、大量のパズルを解こう
本作は、謎めいたセリフを吐くニヒルなバタートーストと、ちょっと太った猫が主人公のパズルゲームである。全編通してダウナーな音楽が流れ、グラフィックスタイルもレトロ調で、良い感じの雰囲気が醸し出されている。
ミルクを作る機械が壊れてしまったため、次元移動装置のようなものであらゆる空間に向かい、機械の修理を試みるというストーリーだが、それはあまり重要ではない。
大事なのは、150以上ものユニークなパズルステージだ。バター猫はドッキングしている状態だと空を飛べるが、Xボタンで分離し、それぞれに動き回れる。ぶつかれば再びドッキングが可能だ。
猫は左右に歩き回ることしかできないが、赤いボタンを押したり、液体になってパイプの中に入り込んだりすることができる(猫は液体であるというネットミームが由来だろう)。また、バタートーストは左右に跳ね回ることができて、黄色いボタンを押したり、トースターに入って勢いよく飛び出したりすることができる。
ようはそれぞれに役割の違ったふたつのキャラクターを操作するタイプのパズルゲームというわけだ。
正直言って、このゲームがバター猫のパラドックスである必要はまったくなく、このキャラクターだからこういうことになる……といった納得感はない。パズル自体のギミックにもモチーフとしての整合性は見当たらず、全体の統一感や美しさを求めるタイプのユーザーにはあまり刺さらないかもしれない。
しかしながら、パズル自体の出来はとても秀逸だ。ほぼすべてのステージが1画面に収まっており、バター猫状態でワープゾーンに突入するという大前提は変わらない。ドッキングすれば縦横無尽に動き回れるものの、分離してしまうとそれぞれは大したことができないというのが何とももどかしく、頭を使うポイントだ。
ボタンを押すと重力が逆転したり、ドッキング状態だと潜り抜けられない霧が出てきたりと、ひとつひとつはその他のゲームで見たことのあるギミックが多いが、これらがほどよく複合されて、良い塩梅の難易度に調整されている。
また、いくつかのステージに関しては、キャラクターのジャンプや跳ね返りによってゴリ押しでクリアできるものもある。そうしたズルもちょっとは許容してくれるあたりも、筆者の好みだった。
ミニゲームやボスステージ 味変やユーザビリティにも気を遣っている
本作は全体で5つのマップが用意されており、それぞれに30面前後のステージが用意されている。最初こそ簡単なステージが多いが、徐々に難しくなっていき、パズル自体に慣れていくように設計されている。
だが、どうしても答えがわからず、パズル自体を投げ出してしまうような瞬間も出てくるだろう。その点においても配慮がなされており、オプションにステージのヒントという機能が付いている。これをオンにしてみると、そのステージのあいだだけ、トーストや猫をどこに配置したらクリアに近付けるかという画像が表示されるのだ。
あくまでヒントなので、ではどうやってそこに置けばいいのか、までを教えてくれることはない。ちょっとだけ助けてほしいけど、全部聞きたいわけじゃない……というパズルゲーマーの気持ちに寄り添った素敵な機能である(この機能を使用してから1分が経つと、ステージをスキップする機能も選択できるようになる)。
また、マップの最後には、スケボー系ゲームのような3Dのコースターステージが遊べたり、「ロックマン」シリーズのようなボス戦が楽しめたりする味変も用意されている。コースターはユルい難易度で適度な疾走感が楽しめ、ボスはなかなか歯応えのあるバトルになっており、どちらもそれぞれに完結した楽しさがあった。
マップクリア後は、拠点の右側にミニゲームが追加されるので、気が向いたら触ってみるのも悪くない。他にも、隠しステージの先に猫とトーストのコスチュームがあり、やり込み要素もちゃんと用意されている(バタートーストがクロワッサンに変わるコスチュームもあるのだが、それではどっちからでも落ちるのでは……? とかそういう野暮なツッコミはしてはいけない)。
一発ネタのミニマルなパズルゲームかと思いきや、本編もサイドコンテンツもボリュームたっぷりで、とても満足感のある一本だった。最後までバター猫がモチーフでなければならなかった理由は見当たらなかったが、そんなことがどうでもよくなるくらいオススメのパズルゲームである。
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