任天堂イズムあふれる『ニンテンドーミュージアム』は、“ゲームカルチャーの夢の国”となりうるのか

 任天堂は8月20日、『ニンテンドーミュージアム』の続報を届ける番組「ニンテンドーミュージアム Direct」を配信した。

 任天堂の新しい取り組みとして、話題をほしいままにしていた同施設。新たに公表された情報から、成功の可能性と今後の展望を考える。

ついにヴェールを脱いだニンテンドーミュージアム

 ニンテンドーミュージアムは、任天堂が1989年の創業から135年の歴史のなかで発売してきた数々の商品とその資料などを展示する博物館だ。2021年6月、同社宇治小倉工場の跡地に「任天堂資料館(仮称)」として建設されることが発表され、2023年度内の完成を目指していたが、当初の予定を延期。2024年3月期の決算説明資料のなかで、今秋の開業が明言されていた。

 番組内では、そのオープン日が2024年10月2日に決定したことが明らかに。同時に公開された公式サイトによると、入場チケットは抽選による事前予約制で販売され、価格は、大人(18歳以上)が3,300円、中学・高校生が2,200円、小学生が1,100円、未就学児が無料になるという。発表以降、ゲーム以外の界隈からも広く注目を集めてきた同施設。開業を間近に控え、ようやくその全貌が見えつつある。

ニンテンドーミュージアム Direct

 とはいえ、多くの人が本当の意味で気になっているのは、オープン日やチケット料金などではなく、ニンテンドーミュージアムがどのような博物館になるかだろう。今回の配信では、同施設に盛り込まれるさまざまな展示やアトラクションなどもはじめて公表された。

 なかでもとりわけ目を引いたのが、最初に紹介された2階の展示フロアだ。ここには、任天堂が過去に発売してきたゲーム製品がハードごとにまとめられ、ズラリと並べられている。各ショーケースの上部には10数台のモニターが設置されており、代表的なタイトルを映像で振り返ることもできる。スピーカーには、限られたスペースでもそれぞれのサウンドが干渉しないよう、正面に立ったときに音が明瞭になる仕組みが採用されているのだという。展示物を区別しやすいよう、各ハードの本体やコントローラーを模した巨大オブジェクトが吊り下げられている様子もとても印象的だった。

 一方の1階は、インタラクティブな体験ができるフロアになっているようだ。個人のスマートフォンを用いて「百人一首」で遊べるスペース、電動でピンポン玉を射出する家庭用バッティングマシン「ウルトラマシン」を活用したカジュアルなバッティングセンター、「ザッパー」「ウルトラスコープ」といった光線銃で「スーパーマリオ」シリーズに登場する敵を撃ち抜くシューティングゲームエリア、さまざまな任天堂ハードの巨大コントローラーを2人で操作し、おなじみの人気作品をプレイするエリアなど、そのバリエーションは多彩だ。資料館としてのカラーが強い2階に対し、1階は任天堂の遊び心を体現したフロアと言えるのではないだろうか。

 ニンテンドーミュージアムにはそのほかにも、カフェスペースやグッズショップ、さまざまなワークショップを体験できるエリアが併設されるという。「ミュージアム」という名称でありながら、その実は「アミューズメントパーク」のようであるとも言えるのかもしれない。

ニンテンドーミュージアムは、価格以上の体験価値を盛り込んだ施設に

 私は2024年5月、任天堂の業績について書いた記事のなかで、ニンテンドーミュージアムの成功分岐点が「コストに見合った収入を得られるか」「来場者の期待に見合った体験価値を提供できるか」の2点にあると述べた。今回配信された内容をここに照らし合わせると、同施設の成功の可能性は高まったと考えられる。少なくとも、紹介されたエリアやそこにあるコンテンツは、市場のトレンドである体験価値へとフォーカスされた魅力的なものばかりだった。ネット上の反応を見るかぎりは、フリークたちもまた同様の感想を持っていたように思う。

 また、その入場料に関しても、消費者が妥当、もしくは割安と考えるであろう水準に設定されていたのではないか。無論、この点については、実際に足を運んでみて初めて適切な判断が下せる部分ではある。しかし、この手の施設にとっては、一度行ってみたいと思わせられるかが肝であることは間違いない。

 公式サイトでは、ニンテンドーミュージアムを「任天堂のものづくりへの想いとこだわりを知る、感じる」場所であると謳っている。特にコロナ禍以降、私たちは同社のゲーム制作に対する姿勢から、そうした“イズム”を強く感じ取ってきた。ニンテンドーミュージアムは、任天堂の矜持をわかりやすく具現化し、消費者へと伝える場所となっていくのではないか。そこで得られる体験はファンにとって、ひとつの答え合わせのようなものとなっていくのだろう。

 一人のフリークとして期待するのは、同施設やそこに盛り込まれた体験型のコンテンツが想定以上の反響を獲得し、さらに規模を拡大していく未来だ。いつか上述のシューティングゲームや巨大コントローラーのアトラクションなどを集めたテーマパークが完成したら、その場所は、ゲームカルチャーにおける夢の国のような存在となっていくのではないか。もちろん、そのためにはいくつもの大きなハードルを越えなければならないだろうが、今回の配信には、そうした未来へとつながる断片を感じ取ることができた。実現すれば、それは任天堂によるIPの再利用の集大成ともなっていくのかもしれない。

 ニンテンドーミュージアムは、2024年10月2日の開業を予定している。8月23日現在、公式サイトでは、10月と11月の予約を受付中だ。

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