水溜りボンド・カンタが映像制作会社を立ち上げた理由 10年間「映像とプラットフォーム」に向き合い続けたクリエイターの“創作論”

カンタが映像制作会社を立ち上げた理由

「編集の虎の巻」を作って2時間プレゼン……カンタが“良い動画”の価値観を共有するうえで心がけたこと

ーーカンタさんやArksが今後目指していく方向性については、どんなクリエイターさんや映像制作会社をロールモデルとしているのでしょうか。

カンタ:最初に浮かんだのはkoeの関和亮さんですね。僕自身も大好きな監督ですし、実際に色々と教わりに行っていた時期もあるんです。秋山黄色くんの「サーチライト」で監督を務めたときも、同じくkoeの須貝日東史さんに入っていただいて、編集まわりを見てもらっていました。MVの監督については、2年前くらいから自分のチームを作って撮ろうと決めてからは、関さんに再び会いに行って、さまざまなことを教えてもらいましたし、背中を押してもらいました。

 あと、おこがましくはあるんですが、スタジオジブリに関しては、本を読んだり展覧会に行ったりして、すごく憧れている存在です。映画を撮るにあたって、当時はすごく小さな会社だったジブリがあんなに大ヒットを連発するまでの過程を知ると、すごく緻密に計算されているところがたくさんあって。普通のクリエイターの数十年の人生では到達できない領域まで一気に駆け抜けていったのは、そのクリエイティブとビジネスの両立と、それを成り立たせた熱量がすごいと思うんです。スタジオジブリになりたいというわけではなく、あの精神は持っていたいんですよね。

ーーありがとうございます。少し話題は変わりますが、ここ数年の活動といえば、個人チャンネル「カンタの大冒険【人間】」の登録者が130万人(6月時点)を超えたことがハイライトだと思います。一人での撮影や「ふーごん」チャンネルの制作など、このチャンネルのなかでも新たなトライをしていましたが、その背景などについても伺いたいです。

カンタ:個人チャンネルに改めて力を入れたきっかけは、先ほどお話しした映像制作会社とも関連があって。ちゃんと会社として動くからには、YouTube上の映像制作で一つの成果を出す必要があると考えて、チームのみんなに協力してもらいながら「100万人の登録者を持つ映像部門を1年で作る」という目標のもと動いていました。僕たちは映像の知識がすごくあったり、現場をいっぱいこなしてるわけじゃないけど、確実にSNSでバズることについては尖っているし、そこを映像の領域としてやっているチームは、海外にはいるものの、日本でやっている人たちはほとんどいないなと思ったので、そこを一度自分たちでやってみようかなと。

ーーそしてショート動画を中心に投稿を重ねたところ、大幅に登録者を伸ばし、短期間で結果を残しました。ショート動画といえば海外での再生数が多い印象で、実際にノンバーバルな表現も多いですが、このあたりはどうなのでしょうか?

カンタ:言語の縛りのない動画は作っていて、実際に海外の方にも一定数見ていただいています。一番再生されたのがデカキンさんとの動画で2.5億再生くらい(※取材時の6月中旬現在)ですが、デカキンさんは街中を歩いていて海外の方に話しかけられることもあるみたいで(笑)。

 一方で日本のユーザーさんも多いのがこのチャンネルの特徴だと思います。先ほどの動画は日本の方だけでも数千万回見ていただいてますし、最初に日本の方に一定数見ていただいて、そこから海外でヒットして、逆輸入的に日本でも見られるという形を戦略的に作ることができました。

ーー狙ってそういう動画を作り、実際に登録者も目標の期間で想定以上に伸ばす。改めてですがすごいことですよね。

カンタ:ありがとうございます。自分たちのなかでは今年のうちに会社の設立を発表するところまで来れたのは奇跡的だなと思っていて。登録者が100万人に乗る前提で動いていたものの、達成できるかどうかは未知数でしたし、その一歩目を踏み外したら先はないと言っていたので本当に嬉しいですし、結果的にチーム全体にすごく技術がついたと思っています。

 YouTubeって100人組手みたいというか、むちゃくちゃ日々再生数と向き合わなければいけないですし、見られなかったものはこの世に存在していないのと同じ評価になってしまう。検索する人もほとんどいなくなって、最初の10人の評判が悪ければ、僕のファンの方であっても自分のフィードに出てこない。すごくシビアな世界なのですが、そこを自分たちのチームで年間を通して向き合ったことは、今後の映像制作にとってもすごくプラスになると思っています。

ーー見られる動画・バズる動画のノウハウのようなものを、体系化して伝えることができたと。

カンタ:感覚的に自分のなかでの良い・悪いはあったんですけど、企画も編集も再生数も最終的なところは僕が見ていたので、言語化して伝えるというのはあまりやってこなかったんです。だから、すごく職人というか、頑固親父みたいになってしまっていたところはあります。当時の自分はそれすら気づいていなくて「なんかここの間が違うんだよな」と自分で全部修正していたのですが、今回の個人チャンネルの運営では「なんで間が違うのか」「なぜ高い効果音を多用してはいけないのか」といったことを編集の虎の巻みたいにして資料を作って、みんなに2時間かけてプレゼンをしました。

ーー言語化をして伝えることで、自分のなかで「こんなことを考えていたのか」という新たな気づきもあったのでは?

カンタ:それはすごくありました。大きいものだと、先ほども挙げた「高い効果音の多用」ですね。実際に他のYouTuberさんもあまり使っていなかったので、改めて理由を考えてみたんですが、「声の高さと帯域がぶつかってしまうから」だったんです。逆に低い音のほうが締まった感じもあって好みだったんですよ。ただ、それを伝えずに「この音はやめて欲しい」とだけ伝えると、違う高い音に変わってしまう。使うにしても、声と被らないようにして使わないといけないというのを、HIKAKINさんの動画を実際に見せながら話したりして。そういった色々な項目を話しつつ、最終的には「結果的に面白かったらいいから全部覆してもいい」と話しました。

ーーその“管理したいところ”と“想定外であってほしいところ”のバランスは、とても難しいですよね。

カンタ:僕自身、企画と撮影というYouTubeにおける60〜70%のウエイトを担う部分を担当していて。テレビだと部署が分かれることを一人でやってるからこんがらがってしまったんだと思います。本来、企画をしている人は、撮影をする人に「想像よりも面白いのを撮ってきて」と渡して、その想定を超えたら編集もサクサクいくけど、超えなかったら頭を悩ませながら編集をシビアにやっていくわけです。

 でも、編集をお願いする人にとっては、僕の撮影した動画が企画を超えたか超えてないかなんて知らないので、ある時は編集のボーダーラインがゆるいのに、ある時はシビアだったりするわけです。そこがスタッフからするとなぜ?と思うところだったみたいなのですが、自分の考え方を言語化して伝えることができたので、その後はいい雰囲気で仕事ができましたし、自分がいかにそれをやってきていなかったかに気づきました。

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