監督・山村浩二×原作・小川洋子が送るVR作品『耳に棲むもの』制作陣が語る、“新たな挑戦”

そもそも現実とは何なのか 物語が弱くても主体性を持てたら

--あらためて、今後はどのような作品を作っていきたいか。お2人それぞれの目標を教えてください。

山村:僕は、また機会があればぜひVRに挑戦したいと思っています。技術的にどうしても1人ではできないメディアなので、何か企画があればというところですが。実際に作っていて思ったのは、もっと容量の制限などが緩和されていったら、もっと深く世界を作り込んでいって、より見る側の主体性に任せられるような作品、そういう“世界だけ仕掛けて”おいて、好きなところを見てもらう。そんな、それぞれが全く違うところを見てしまうような作品を作れたら良いなと、漠然とですが思っています。

 自分が長くアニメーションを制作してきて、アニメーションがストーリーの方向に行くと、映画言語としてのモンタージュやフレーミングについて、自分の中で問題として考えるようになったんですが、VRにはどちらの問題もないんですね。もちろん、見てほしい方向性はきっとあるんですが、VRにはフレーミングで世界を切り取るところはなくて、360度どちらを見ても、提示したい世界やイメージが実現できる。

 アニメーションは頭の中にあるものなのでフレーミングはないはずなんですが、映画の言語で語ると、リニアに1方向に進んで、フレーミングして、モンタージュで意味を産み出して物語を紡ぐことになります。これが、VRだとシークエンスの変化が大きすぎるので、映画的なモンタージュは使えないということで、必然的に自分の中のイマジネーションをまるごと提示できる形になるのが面白いですね。

 僕としては、アニメーション表現の可能性を常に意識して作っているので、VRというメディアが想像以上に“アニメーション的なもの”に感じました。先ほどXRの話もありましたが、アニメーションはフィクションでファンタジーの世界だと思われがちなところ、昨今はよりドキュメンタリー的で、現実のささいなことを題材にした作品が増えてきていて、そもそも現実とは何なのかということを考えさせられます。

 もっといえば、今はAIでスゴくリアルなものが作れてしまう時代なので、本当か嘘か、技術者でも見分けがつかなくなってきています。僕は頭の中の想像も、外側にある「現実だと思っているもの」もリアリティの度合いは同じだと思ってきました。

『水棲』(1987年)

 大学の卒業制作『水棲』は、水に写った像と現実が混ざっていく様を描いて、その境界というものをテーマにしたアニメーションなのですが、イメージの世界と光のリフレクションと物として存在しているもの、「それら全てがリアルであるし、同じ価値を持っている」ということを伝えたかったんです。そういうことが今、世の中の技術革新とともに間近に起こっているなと感じています。

 つまり、肉体的に内と外に隔てられていたものがメディアによって壊されてきている時代になっているのかな、と。石丸さんが「小川さんはVR脳だ」とおっしゃられたように、想像力が豊かな人は、より自分の感覚と世界がつながりやすくなってきているとも思います。

石丸:講談社VRラボとしてはVRの仲間を増やしたいという気持ちがあります。色んな個性を持ったクリエイターたちとやりたいというのがあるんですけども、小川さんの作品を選んだみたいに、僕は基本的にストーリーから入ります。大体いつも脚本があって、それに合う監督を探して、という順番なのでこれは山村さんでないと作れないという脚本があれば改めてぜひご一緒したいと思っています! 

 ただ時々監督・アニメーション作家からスタートというのもあっていいとは思うこともあります。ストーリー重視にすると監督の作家性や突き抜けた感覚が発揮できない気がするからです。ただ作風を優先してしまうとVRを無視した作品になってしまうリスクもあります。そこは本当に難しいのですが、それゆえにトピック×世界観×VRのバランスを取ることが重要かなと思っています。

 どこからスタートしてもそのバランスをひたすら追い求めることで、VRならではの作品に落とし込めるのではないかと考えていますので、いろんなアプローチにチャレンジしたいです。

チャレンジといえば講談社VRラボは名前の通り「ラボ」なので、常にチャレンジすることを意識していますし、使命だと感じています。とにかく誰もやったことのないアイデアやトピックスはないかといつもアンテナを張っています。最近では多くの視聴者が役を演じることで成立する演劇みたいなコンテンツをやってみたいと夢想しています。

 過去の作品でいうと、アイドルのバーチャルライブを開催したのですが、ライブでありながら移動しながらゲームのようにミッションをクリアしていくコンテンツを作りました。会場に集まってライブを受動的に見る体験だと、VRならではの没入感は得られず、現実世界のライブと変わらないかなと。

 バーチャルの世界の物語にゆるやかにでも干渉でき、多くの視聴者が主体的に動き回れることができるライブエンターテインメントができれば、物語にもっと没入できてかつ多くの人たちとの共感や感動を共有できる新たなエンターテインメントが生まれるのではないかと、今はまだぼんやりとした構想段階ですがいつか実現したいと思っています。

 みんながVRゴーグルつけて集まっている絵面はスゴく面白いと思うので、参加者だけでなくその中継を外から楽しむみたいなコンテンツもできたらと思います。

ーーありがとうございます。今後のお二人のご活躍も楽しみにしています。

 『耳に棲むもの』は、映画祭での公開開始から1年が経過。10月中までは、新宿のXRコミュニケーションハブ・NEUUでも体験することができる。今後は一般公開に向けた準備も進んでいるとのことなので、引き続き情報をチェックしておきたい。

■VR映画『耳に棲むもの』
公式WEBサイト

アニメーション作家・山村浩二が監督するVR作品『耳に棲むもの』 原作・小川洋子とVRの親和性

アニメーション作家・山村浩二。これまでアカデミー賞の短編アニメーション部門にノミネートされた『頭山』(2002年)など数多くの作…

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