世界から大きく水をあけられた日本のライブコマース市場、その課題を突破する方法とは? 17LIVE・事業責任者に聞く“越境EC”の可能性

 海外で急激に広まっているライブコマース。近年、日本でもライブ配信を活用して物を販売するこの市場に各企業が参入している。

 2019年、日本国内最大級のライブ配信シェアを誇る17LIVE(イチナナ)は、その強みを活かして、一足先にライブコマースソリューション「HandsUP(ハンズアップ)」をローンチした。

 リアルサウンドテックでは今回、ライブコマース事業責任者である村井宏海氏にインタビューを実施。「HandsUP」が規模を拡大できた要因やライブコマース市場の海外と日本の現状、新しくローンチ予定の越境ソーシャルコマースプラットフォーム「HandsUP Crossborder(ハンズアップ・クロスボーダー)」を含む、今後の展望についても語ってもらった。

ライブコマースとは、“EC”であり“エンタメ”である

ーー村井さんは2020年の2月に17LIVEにジョインされています。このタイミングで入社された経緯を教えてください。

17LIVE ライブコマース事業責任者 村井宏海氏

村井:自分がジョインしたのは、まさにこれから「HandsUP」を世の中に売り出していくタイミングでした。入社の1週間前に当時のCEOから「『HandsUP』の事業を手伝ってくれないか」と相談を受け、いろいろ状況を聞くうちに手助けできそうだなと思い、すぐに入社を決めました。

ーー前職の楽天でのECコンサルタントや、営業職のマネジメントのご経験が活かされた形でしょうか?

村井:そうですね。前職の楽天では営業組織のマネジメントに加えて事業開発・事業企画部門で新サービスの立ち上げもいくつか行いましたし、学生時代にスタートアップで働いていたこともあったので、ビジネスの立ち上げにおける勘所みたいなものは押さえていました。

ーーただECとライブコマースでは、アプローチが少し異なるかと思います。入社当初、ライブコマース事業にはどんな印象をもっていましたか?

村井:2016〜17年頃、各社がライブコマースにチャレンジしては、撤退していきました。僕なりの仮説ですが、ライブコマースは、ECでありながらエンタメコンテンツでもあり、その両方を成立させないといけないと思うんです。だけど当時のライブコマースは、集客力がありそうなインフルエンサーが行っていました。彼らの画像を編集したり、伸びそうな時間帯に適切に投稿したりする能力と、ライブで話をしたり物を売ったりするという能力はまったく別モノで違うテクニックが必要だから、いわゆるインフルエンサーとしての能力がそれほど成り立たなかったのだとと考えています。そのため、入社後は、この2つをどうやって両立させるかをずっと考えていました。

ーーなるほど。仮説をふまえて、どのような戦略を立てられたんですか?

村井:まずは2つのことを試しました。1つは、ライブコマースをすでに成立させている人たちにアプローチすること。ただ一人ひとりに声をかけるのは骨が折れるため、どうやってより多くの人と接点をもつことができるか、を考えました。

 もう1つはライブというコンテンツと、eコマースとして魅力ある商品の販売を成立させること。この2つを成立させるのはかなり難しいですが、販売力があって社員さんの能力が高く、ECも強い企業の場合、ライブのノウハウを教育すれば、うまくいくかもしれないと思いました。美容部員さんやアパレル販売員さんがより適任ですね。

ーーその戦略がうまくハマったなと感じた瞬間はありましたか?

村井:両方ともうまくいったと思っています。前者でいうと、ライブコマースを元々やっている人たちのコミュニティにガッツリ入り込んで、その中心人物とインスタライブをしました。結果的に、1回の配信で一気に80人程度にアプローチができ、50人ほどの成約を得ることができたんです。

 後者に関しても、1番最初の顧客が化粧品・健康食品メーカーのファンケルさんだったのですが、この立ち上げが上手くいったことで、ほかの企業さんにも興味をもっていただけるようになりました。

ーーライブコマース市場は、海外と日本とでは状況が大きく異なると思いますが、村井さんにはどう映っていますか?

村井:圧倒的に差がありますね。日本のEC化率は12〜13%なのに対し、トップの中国の約45%を筆頭に、イギリスが約36%、韓国が約30%です。なぜ日本ではこんなに低いのかというと、オフラインでのショッピング体験が快適すぎるからだと思うんです。

参照:経済産業省「令和4年度電子商取引に関する市場調査」

 日本、特に東京では、どの駅で降りてもデパートなどの商業施設がありますが、海外では、主要な街にしかありません。海外で個人店に行くと値引き交渉が当たり前で、正規価格での販売でないことも多いです。交渉の手間もかかるし、騙される可能性もある分、ECへの信頼度は高くなります。日本はその逆ですね。どこへ行っても最初から正規価格で、ぼったくられることなんてほぼないですから。

ーーオフラインでの買い物が安全すぎて、逆にECが成り立ちにくいと。それでも「HandsUP」は400社以上に導入されていますが、ここまで規模を拡大できた要因はどんなところだと考えていますか?

村井:導入後の伴走型コンサルティング支援に本気で取り組んだことだと思います。最初のピボットを経た後の導入自体は正直結構うまくいったのですが、次に直面したのが、導入後にいかに定着させるか、という課題でした。そのときはチームで週に1回、2時間のミーティングを設定して、みんなでライブコマースのアーカイブを見ながら、アイデアや改善点を出し合いました。地道な分析とトライアンドエラーですね。

ーー顧客の満足度を上げることで、ライブコマースの評判が広がり、さらなる案件獲得に繋がりそうですね。いまでは多くの企業が参入していますが、特に現代自動車(ヒョンデ)の事例はとても興味深かったです。

村井:地道な分析を続けて、チーム内に蓄積されたノウハウが1番良い形で昇華できたのは、ヒョンデさんの例だと思っています。我々としても正直なところ、ライブコマースで車を扱うことのポテンシャルは未知数でした。ただライブってタイパが悪い手法なので、それでも見に来てくれる人は、相当高いモチベーションをもっていると思ったんです。その人たちが、どうしたら見積もりや購入などのアクションをしたくなるか、必死に考えました。

ーーその結果、1時間の配信で販売が3台、見積もりが10件と、十分な成果を出せたんですね。

村井:1番の勝因は、リアルタイムでの番組作りを意識したことだと思います。事前に番組の流れを決めておきつつも、視聴者さんからのコメントを拾ったり、彼らの温度感を感じ取ってすぐに反応したりするようにしました。

 ライブの空気を変えるきっかけとなったのが、「いまから嫁を説得してくるわ」というコメントですね。すぐにMCにこのコメントを取り上げてもらい、「嫁の説得頑張れ」といった応援コメントでユーザーを盛り上げるように促しました。その結果、1台売れたんです。人が車を買うところなんてほとんど見ることがない。ユーザーにとっての非日常体験を提供できたので、かなり盛り上がりました。買った方も、1人でひっそりと買うよりも、みんなが見ている場で買う方が、配信の中でヒーローになれてより気分がいいですよね。1台売れると、それに続くようにさらに2台売れました。

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