それは前のめりで情熱的な音楽愛――『Rocksmith+』が“音楽学習サービス”と銘打たれるワケ

『Rocksmith+』に込められた情熱的な音楽愛

 6月16日、フランス発祥の音楽イベント『フェット・ド・ラ・ミュージック 2024』が京都・関西日仏学館で行われた。ジャズやシャンソン、フランス伝統舞曲に管楽アンサンブルなど、さまざまなジャンルのアーティストが一堂に会し、陽光降り注ぐ祭典を彩った。時たま雨がパラついたが、概ね天候にも恵まれ、当日はさながら南仏・プロヴァンスのような雰囲気だった。建物内には、「ファークライ」や「アサシン クリード」シリーズで知られるUbisoftの専用ブースが設けられ、来場者は同社がリリースした音楽学習プログラム『Rocksmith+』やダンスゲーム『ジャストダンス2024エディション』を体験プレイできた。

 音楽ライブにはRocksmith+の開発に協力しているアーティスト、Dr. CapitalとAssert Failedの2組が出演しており、本イベントは同社のファンにとっても重要な機会だった。本稿ではライブパフォーマンスとブースの体験を含めた当日の模様をお伝えする。

 まずは簡単に『Rocksmith+』の概要から説明しよう。6月7日にリリースされた本作は、アコースティックギター、エレキギター、ベース、ピアノを多彩な楽曲を使って練習できるサブスクリプション形式の音楽学習サービスである。PlayStation 5(PS5)、PlayStation 4(PS4)、Windows PC(Ubisoft Store、Steam)、スマートフォン(iOS、Android)に対応しており、さまざまなデバイスでプレイすることができる。

 今回の特設ブースではPCに楽器がつながれ、ワークショップとしてUbisoftのスタッフが本作を試遊するユーザーにレクチャーを施していた。ドラムしか楽器経験のない筆者も体験させてもらったが、結論から言うと大変楽しめた。まず収録されている曲の幅が広い。数は拡張段階にあるというが、ジャンルに関してはかなり多様なベクトルに対応している。海外アーティストではParamoreやシャロン・ヴァン・エッテン、Museなど、国内からはちゃんみなやゲスの極み乙女。、あいみょんなどの楽曲が収録されており、音楽ファンの多様なニーズに応えられるだろう。

『Rocksmith+』日本リリース決定 アナウンストレーラー

 置かれていたベースを手に、『Rocksmith+』の画面に向き合う。UbisoftのスタッフにParamoreが好きであることを伝えると、「Franklin」を薦められた。本作では、開放弦のチューニングから体験できる。クロマチック・チューナーのようなUIが画面に表示され、奏者はそれをもとにペグを緩めたり閉めたりしながら、音をあわせていくわけだ。

 そうして選んだ曲を実際に演奏するフェーズに移行する。プレイヤーはギターとベースなら「3次元譜面」と「TAB譜」からUIを選択でき、自身の上達具合にあわせて練習方法を開拓できる。『Rocksmith+』は音楽学習プログラムという扱いだが、Ubisoftはゲーム会社なだけあって楽器を遊ぶように学べるのが大きな特長だ。「3次元譜面」の感触はかなりゲームに近い。

3次元譜面
3次元譜面
TAB譜
TAB譜

 楽曲単位で難易度を調整できるので、「この曲は難しいから今は弾けない」という状況が少ない。その点もやはりゲーム的だ。くわえて、難しいパートを繰り返し練習できる機能「リフ・リピーター」が実装されている。筆者は手先が不器用なのでアルペジオっぽい運指が困難なのだが、この機能はそういった箇所をピックアップしてひたすら集中的にトレーニングしてくれるのだ。

 しかも本作は全体的にそれほどスパルタ教育でもなく、ユーザーに対してあの手この手で教えてくれようと試みる。リフ・リピーターは単純に反復練習させるだけでなくスピードを変えたり、ノートの数を増やしたりする。それらはすべて自動で行われ、こちらが真剣にプレイしているとその変化に気付かない。つまり、弾いていれば勝手に上手くなっているわけだ。こう書くと胡散臭く思われそうなのだが、体験として「Franklin」の簡単な一部のフレーズは弾けたのだから仕方ない。

 そのあと「ほかにはどんな音楽を聴きますか?」と聞かれたので、「ダンスミュージックが好きです」と答えた。するとファンクの練習曲を勧められ、憧れのチョッパー奏法にチャレンジすることに(もちろん基本だけ)。Ubisoftのスタッフの方によると、ジャンルごとの練習曲はすべて『Rocksmith+』制作チームによるオリジナルだという。ファンクの練習曲はオーセンティックなニュアンスを孕みつつ、しっかり曲としてカッコイイのでぜひ聴いてみてほしい。

 さらに筆者はピアノ(シンセサイザー)にも触らせてもらったが、こちらはよりゲーム感覚で学べる印象を受けた。ピアノでは「3次元譜面」と「五線譜」からUIを選択でき、ノートに対応するように鍵盤を押してゆく様はさながら「キーボードマニア」である。このときはFeed Meの「Pumpkin Eyes」に挑戦したが、やはりアルペジオ的フレーズに苦戦し、同じように優しくリフ・リピーターにご指導を受けた。

 この曲は明確にエレクトロニック・ミュージックなので、ピアノの音がシンセサイザーでなければいけないが、選曲すると自動的に仕様が切り替わる。それだけでなく、自分用にカスタマイズもできる。クラシックを中心に弾きたいユーザーは、UIを五線譜にしてプレイするのも良いかもしれない。

五線譜
五線譜

 『Rocksmith+』の体験ブース隣のフロアでは、『ジャストダンス2024エディション』をプレイできる。本作は文字通りダンスゲームだが、苛烈さは感じない。画面に表示される“フリ”にあわせてプレイヤーは踊るわけだが、重要なのはコレオグラフィーの正確性よりもタイミングだ。曲にノれてさえいれば、ある程度高いスコアを出せる。しかし楽曲ごとの難易度に差がないかというとそうでもなく、ミディアムの「オトナブルー」(新しい学校のリーダーズ)とエクストリームの「Dynamite」(BTS)ではだいぶ異なる。手数が段違いで、しっかりレベル差を感じられた。そもそもフリの正確性もまったく無意味ではないので、極めようと思ったらそこにも意識のリソースを割かねばならない。

 控えめに言って大変面白かった。パーティーゲームとして優れており、当日はブースに老若男女さまざまな人たちの姿があった。アラサーの筆者はその日初めて会ったキッズとダンスバトルに勤しみ、気持ちの良い汗を流した。楽曲によっては難易度が異なるものが実装されており、たとえば先の「Dynamite」はエクストリームのほかにミディアムもある。このときは「Dynamite」のミディアムでキッズと戦い、大人げなく勝利をおさめた。お互いなかなか真面目に踊ったのだが、やはりフリよりもノリ重視でプレイできたことが大きいと感じる。そもそも「踊る」とは本来自由な行為なので、“ジャストダンス”という名が示す通り、これこそが本質的な体験なのかもしれない。それはダンスミュージックを生業とするライターとして強調しておきたい。

『ジャストダンス2024エディション』日本限定ローンチトレーラー

 時は夕刻、いよいよRocksmith+の開発に協力しているアーティストの出番がやってきた。日が傾きかけた頃、音楽系YouTuberとしても活躍するDr. Capitalがステージ上に姿を見せる。ベージュのセットアップにパープルのニューバランスをあわせ、いつものごとくお洒落な出で立ちで小粋なトークに花を咲かせた。彼のYouTubeチャンネルを見ているファンなら知っているように、この博士はチャンネル開設以降、自身の超絶技巧と共に多くのJ-POP楽曲を再解釈してきた。サカナクションの「新宝島」のカバー(2019年5月)がネット上でバイラルヒットしてから、数々の名解説で我々を驚かせている。

Dr. Capital
Dr. Capital

 この日のライブでは自身のオリジナル楽曲も披露され、その美技を遺憾なく発揮してきた。博士は『Rocksmith+』の開発にも関わっており、このとき歌われた「Leida」や「ブロンズの梟」、「朝3時41分のシリアル」は本作内でプレイアブル楽曲として実装されている。

朝3時41分のシリアル

 「朝3時41分のシリアル」では分かりやすく彼のテクニックが示されており、リズムとメロディをひとりで同時に弾きこなすという離れ業が実演された。これは「Dr. Capital節」と言っていいぐらい、博士の複数の動画でも披露されている技である。ちょっと練習した程度ではマネできそうにないテクニックだが、目の前で軽やかに見せられるとやはり憧れてしまう。もちろんアルペジオも健在で、本人がMC中に流暢な関西弁で「このおっさん、アルペジオ好きやなと思っとるやろ」と客席に問いかける程度には、その流麗なメロディと指さばきは随所で我々の耳を引いた。

 カバー曲としてSuperflyの「愛をこめて花束を」が弾き語られたが、このとき一瞬だけ降り注いだ雨がなんだか博士の演奏を一層ドラマチックに感じさせた。20分という短い時間だったが、我々の多くは彼の世界観を堪能できたと思う。

Dr. Capital
Dr. Capital

 ガーデンテラス・ステージのトリを務めたのは、同じくUbisoft所属アーティストによるバンドAssert Failedだ。『Rocksmith+』ブースで筆者にファンクの練習曲を勧めてきた“スタッフ”こそが、このバンドのフロントマン・Norio Kobayashiである。ワークショップではファンクやポップスに対応しながら、本人はメタルマナーのギターフレーズをかき鳴らす。ギタリスト3人から構成されるAssert Failedは、印象的なメロディフレーズにバッキングを織り交ぜながらリズム隊の不在を感じさせないパフォーマンスを続けた。時折鳴らされるブリッジミュートを聴くと、「『Rocksmith+』で習ったヤツや……!」と胸が躍る。

 重低音が印象的な彼らのメタルショーは、穏やかな雰囲気のマルシェをライブハウスに変えた。ブースで物腰柔らかな対応をしてくれたNorio Kobayashiの別の一面(むしろこちらが本職なのだろうが)を見て、かつてラウドパークで育んだメタル魂が呼び起されそうだった。

左からTimothy Reid、Norio Kobayashi、Haruka Kataoka
左からTimothy Reid、Norio Kobayashi、Haruka Kataoka

 『Rocksmith+』がゲームでなく音楽学習プログラムと銘打たれる理由が分かる1日だった。このプロジェクトに限らず、Ubisoftのゲームは常に音楽に本気である。『アサシン クリード ミラージュ』(2023年10月)ではロックバンド・OneRepublicとのコラボレーション楽曲「Mirage」を発表し、続く『プリンス オブ ペルシャ 失われた王冠』(2024年1月)ではイラン生まれの作曲家・Mentrixを起用した。同社はゲーム内で鳴る音楽を単なる装飾品ではなく、それ自体を作品と捉えているような傾向がある。それゆえ、今回のプロジェクトであらためて音楽にフォーカスするのは、むしろ“満を持して”という感覚すら覚える。

 本作に触れてみると実感してもらえると思うが、積年の思いが詰まっているだけあって、ユーザーは抜群のホスピタリティを感じられるだろう。「楽器に触れていただけますか! ありがとうございます! まずはこういう練習からどうですか?」といった具合に、極めて丁寧な印象を受けるはずだ。挫折しかけようものなら全速力で飛んできて、「まだ楽器を置かないで!」とあの手この手で引き留めてくれる。そういった前のめりかつ情熱的な音楽愛が、『Rocksmith+』に詰まっている。

 夏の入口に立った京都で、熱いミュージックラバーたちの存在を感じた。

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