新作『8番のりば』と『8番出口』はどう違う? 本家続編が提示した“新たな遊び心”の面白さ

 5月31日、『8番のりば』がリリースとなった。

 前作が広く評価されたことから、話題を呼んでいる同タイトル。『8番出口』のように多くのフォロワー作品を生むことができるだろうか。おなじシリーズに分類されながら、やや異なるゲーム性を持つ『8番出口』と『8番のりば』。その違いについて考えていく。

『8番出口』のヒットが記憶に新しい「8番」シリーズから最新作『8番のりば』が登場

8番出口の続編「8番のりば」トレーラー

 『8番のりば』は、2023年11月にリリースされ話題を集めた『8番出口』の続編にあたるタイトルだ。舞台となるのは、永遠に走り続ける電車。乗客のひとりであるプレイヤーは、おなじような風景が続く不気味な車内で、車両を移動するたびに起こる怪現象を避けながら、脱出方法を模索していく。

 『8番出口』と同様に、「リミナルスペース」(※1)にインスパイアされたゲーム性を特徴としており、おなじみの“おじさん”もふたたび登場する。その一方で、「異変の有無によって進退を決める」という間違い探し的な側面があった前作とは異なり、今作では「怪現象の回避方法を考える」という脱出ゲーム的な性質が強くなっている。開発・発売元のコタケクリエイトによると、「前作をプレイしていると、よりお楽しみいただける」とのこと。攻略を進めることで、「8」という数字以外にも両者の共通項がみつかる作りとなっているようだ。

 対応プラットフォームはPC(Steam)のみで、価格は470円(税込)。公式は「8番」シリーズが今作で完結する予定であることを明かしている。

※1…簡素さ、静けさによって見慣れた場所が非日常的で不気味なものと感じられてしまう現象を指すインターネットミーム。『8番出口』では地下鉄駅の出口へとつながる通路が、『8番のりば』では地下鉄の車両が、同現象を想起させる空間として扱われている。

前作と今作で異なるゲーム性。コレクティブな遊び方が新たな魅力に

8番出口

 『8番出口』と『8番のりば』はともにウォーキングシミュレーターというジャンルに分類される作品だが、先にも述べたとおり、異なるゲーム性を持っている。言うなれば、前者は「ウォーキングシミュレーター×間違い探し」、後者は「ウォーキングシミュレーター×ホラーADV」だろうか。期待の続編ということもあり、『8番出口』の初動以上に広く手に取られたであろう『8番のりば』だが、前作からの“正統進化”を望んでいたプレイヤーにとっては、やや予想外とも言えるインプレッションがそこにあったはずだ。YouTubeなどにおける実況・配信では、特にゲームの序盤で(『8番出口』のプレイから得たノウハウを生かし)風景を記憶しようとしたり、起こる異変を探そうとしたりするストリーマーの姿が見受けられた。

 とはいえ、こうした変化はなにもマイナス要素であるというわけではない。なぜなら、『8番のりば』には『8番出口』には盛り込まれていなかった長所があるからだ。そのひとつが異変への対処を間違えた際の演出である。

 『8番のりば』では車両を移動するたびに、本来はおなじ風景が続くはずの車内にさまざまな異変が発生するが、それらへの対処を間違えることで、プレイヤーにはジャンプスケア(※2)的な恐怖が襲いかかり、ゲームが振り出しへと戻されてしまう。このような恐怖を煽る演出は『8番出口』にはあまり見られなかった。この点は『8番のりば』における明確な進化ポイントだと言えるだろう。「掛け合わせられるサブジャンルが別のものとなった結果、ゲーム作りの方向性が変わった」。そう総括できるのではないか。

※2…特にホラージャンルの映像作品において、突然大きな音を出したり、画面に恐怖の対象となる存在を大きく表示させたりすることで、受け手の驚きを煽る演出。ただびっくりさせるというシンプルな仕組みを持つため、短絡的と見なされることもあるが、現代においてもなお、最も効果的な演出のひとつとして広く取り入れられている。

 この変化は「8番」シリーズに新たな遊び心をもたらしている。手に取ったプレイヤーのなかには「(遭遇した異変に対し、あえて間違いと見込まれる行動をとることで)すべての演出を体験したい」と考えた方もいただろう。前作は(少なくとも今作ほどは)、このようにコレクティブな遊ばれ方はされていなかったように思う。決してプレイボリュームがあるとは言えない『8番のりば』だが、人間の収集欲を上手に刺激したことが、より長い時間、プレイヤーを熱中させる結果につながった。根幹となるゲーム性を変えてもなお、同タイトルが評価されているのは、このような構造がもたらしたコストパフォーマンスの高まりによるものと考えることもできるはずだ。

 斬新なアプローチから広く評価された前作は、その成功によって多くのフォロワー作品を生み出し、2023年末から2024年にかけてを代表するトレンドを巻き起こした。『8番のりば』もまた、同様のムーブメントの起点となる可能性を持ったタイトルだと言えるだろう。上述の遊び心は、まだ見ぬ後発タイトルに共通していくであろう重要なエッセンスとなるに違いない。『8番のりば』が与えたインプレッションを超えるフォロワー作品は現れるだろうか。1人の「8番」シリーズファンとして、今後の展開を楽しみにしている。

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