『鳴潮』の高評価から考える、“中国発”ゲーム制作の現在地 アプローチと環境の特異性が勢いの原動力に
5月23日、『鳴潮 (Wuthering Waves)』(以下、『鳴潮』)がサービス開始となった。
その本格的なゲーム性から、同タイトルはすでに高評価を獲得しつつある。なぜ中国からは次々と人気のモバイル向けゲームが生まれているのか。同国におけるゲーム制作の現在地を考察する。
KURO GAMESが放つ新作オープンワールド・アクションRPG『鳴潮』
『鳴潮』は、『パニシング:グレイレイヴン』などのタイトルで知られる中国のゲーム企業・KURO GAMESが開発・発売するオープンワールド・アクションRPGだ。プレイヤーは大災害によって崩壊したのちに文明が再構築された世界で、記憶喪失から目覚めた「漂白者」となり、「共鳴者」と呼ばれるキャラクターたちと出会いながら、失われた記憶を探す冒険へと旅立つ。
特徴となっているのは、スマートフォン対応のゲームらしからぬ本格的なアクション性と、美しいグラフィック。SNS上では、そうした要素やシステムの細部、プレイインプレッションなどを踏まえ、同ジャンルの人気タイトルである『原神』と比較する声が相次いでいる。サービス開始から約1週間が経過した現時点での評判は上々であるため、将来的には、同タイトルの対抗勢力となっていく可能性もありそうだ。
基本プレイ無料・アイテム課金型で、PC(Windows)とAndroid/iOSに対応する。公式は今後、macOSでもリリース予定であることをXで明言している。
#鳴潮 がMac App Storeに登場予定!🎊
iPhone、iPad、Macで
鳴潮の壮大な冒険に没頭しましょう。今後のアップデートもお楽しみに!
今すぐ事前登録▼ https://t.co/P0CK4EDozh pic.twitter.com/aFxM3GUFS9
— 鳴潮 (Wuthering Waves) 公式 (@WW_JP_Official) May 19, 2024
中国発のモバイルゲームが世界を席巻中、その理由は?
昨今のモバイルゲーム市場では、中国にルーツを持つタイトルの台頭が著しい。アメリカの調査会社・Sensor Towerが発表したデータによると、2024年4月の全世界におけるモバイルゲームパブリッシャー売上高ランキングでは、上位100社に39の中国企業がランクインした。売上高の合計は20億7,000万ドル(2024年5月30日時点のレートで約3,250億円)で、全体の40.2%に及ぶという。同調査からは中国発のモバイルゲームが全世界で影響力を強めている現状が見えてくる。
うちTOP3となったのは、テンセント、ネットイース、miHoYoの3社。各社はそれぞれに爆発的な人気を誇るIPを抱えている。『鳴潮』の比較対象となっている『原神』は、miHoYoの開発・発売によるもの。同タイトルは2024年4月28日でPlayStation 5版が3周年を迎えている。このタイミングにあわせて配信された新バージョン「双界に至る炎、熄えゆく赤夜」が好評を博したことも躍進の一因となった。Sensor Towerによると、アップデートの当日には2024年における日次売上高の最高額を更新したという。4月全体では前月比68%増となり、こちらも2024年で最高の数字となった。
なぜ中国発のモバイルゲームの好調ぶりがここまで浮き彫りとなりつつあるのか。そこには、ゲーム制作に対するアプローチや環境の特異性がある。
中国では初めから、マルチプラットフォームに展開することを前提としているケースが多い。そのため、CS機とモバイルでマネタイズモデルを含めたゲームデザインが異なる例は少なく、それゆえにコンテンツがもたらす根本的なユーザー体験が重視される傾向にある。本稿で紹介している『鳴潮』や『原神』、さらにはおなじくmiHoYoが開発・発売する『崩壊:スターレイル』、Hypergryphの『アークナイツ:エンドフィールド』もこれに当てはまる。『鳴潮』のユーザーレビューにおいては、「モバイルプラットフォームでは最高のパフォーマンスを享受しづらい」との声もあるが、このことは同タイトルがスマートフォンを対象にしつつも、最も性能の高いプラットフォームと考えられるPCでのプレイを照準に開発が進められたことを裏付けている。
また、環境面では、ゲームを含むコンテンツ制作に対する政府の支援体制の差もある。立命館大学映像学部教授の細井浩一氏によると、中国は実質的な官民一体で、外貨が稼げると判断すれば、国も支援を惜しまない土壌があるという(※1)。そのため、特定のIPがヒットすれば、すぐにその他の分野へとメディアミックスが展開されるケースも多く、そうした仕組みづくりが完成されていることで、内容のともなった本質的なコンテンツが生まれやすい側面もあるようだ。同氏はこのような中国の制作環境を「コンテンツ魔法陣」と表現している。
なお、お隣の国である韓国も中国と同様で、「コンテンツ振興院」という政府系機関がゲームを含むあらゆるエンターテインメント産業のバックアップを行っている。直近、同国からは『勝利の女神:NIKKE』や『ブラウンダスト2』などの人気タイトルが生まれている。どちらもモバイルプラットフォーム向けらしからぬゲームデザインが好評を博しており、現在はPCにも展開されている。
『鳴潮』に集まる高評価は、大半が本格的なゲーム性に関するものだ。5月28日、miHoYo傘下のブランド・HoYoverseが新たにリリース日を明らかにしたモバイル/PC/PlayStation 5向けアクションRPG『ゼンレスゾーンゼロ』もまた、同様の方向性から界隈の注目をほしいままにしている。
中国発のモバイルゲームがマーケットを席巻する時代はいつまで続くか。ここにまたひとつ、その勢いを象徴するタイトルが生まれた。
※1:https://friday.kodansha.co.jp/article/347990
リアリティあふれる設定と映像が高める“没入感” 推理ADVの佳作『東京サイコデミック』プレイレビュー
5月30日、『東京サイコデミック 公安調査庁特別事象科学情報分析室 特殊捜査事件簿』が発売となった。本稿では、リリースされたばか…