歌広場淳×こく兄“おじリーガー”対談 「優しさ」と「恩返し」がつなぐ、格ゲーマーたちの輪
大のゲームフリークとして知られ、ゲーマーからの信頼も厚いゴールデンボンバー・歌広場淳による連載「歌広場淳のフルコンボでGO!!!」。今回は、eスポーツチームREJECTに格闘ゲーム部門プロデューサー兼ストリーマーとして所属する、こく兄との対談を行った。
ふたりは、『おじリーグ』(※1)にて、互いに“おじリーガー”としてのプライドを懸けて刃を交えた間柄でもある。長きにわたって格闘ゲームシーンを見守り続け、「冬の時代」をも経験した“おじ”たちは、『ストリートファイター6』(以下、『スト6』)の発売をきっかけにかつてない盛り上がりを見せる格闘ゲーム業界になにを思うのだろうか。
※1……こく兄が主催する格闘ゲームイベント。格闘ゲームシーンに携わる裏方のおじさん格闘ゲーマー(おじリーガー)たちを集め、「誰がイチバン強いのか、誰がイチバン弱いのか」を決めるべく壮絶なリーグ戦がくり広げられる。
歌広場淳のフルコンボでGO!!!
第1回:歌広場淳の中で変化した“格ゲーへの向き合い方”と、救われた「逃げんなよ」の言葉
第2回:歌広場淳×どぐら“古参格ゲーマー”対談 時代が求める「理想のプロゲーマー像」とは?
第3回:歌広場淳が考えるオフラインイベントの魅力 格ゲーの“裾野拡大”に「貢献できるのは光栄」
「ウメハラと加藤純一とSHAKAの友だち」として
歌広場淳:『スト6』の発売からそろそろ10か月が経過しますけど、こく兄はここまでいかがでした? 2023年4月にはREJECTに格闘ゲーム部門プロデューサー兼ストリーマーとして加入されるなど、お忙しくされていたと思うんですが。
こく兄:いや、僕はそんなに変わっていないと思うんですけどね。いつも通りやっている感じかな。『スト6』が発売されたからといって特別なにかをやるってこともないし……。REJECTには入ったけれど、基本的には配信などをずっと続けているだけなので。
歌広場淳:おお、こく兄はそう感じているんですね。格ゲー業界の方々だと、『スト6』の発売をきっかけにストリーマーさんやVTuberさんといっしょになにかをする機会が増えたりして、「やっと格ゲー業界に日の光が当たったよね」と喜んでいる人も多い印象なんですけれども。
こく兄:ああ、そこは同感です。めちゃめちゃ脚光を浴びてるなって感じます。ありがたいことに。やっぱり格闘ゲームって狭いコミュニティだったから、VTuberやストリーマーが絡んでくれるようになったおかげで、彼らのファンの方々も格ゲーを見てくれるようになったから。ウチらとしてはすごくうれしいことですよね。
歌広場淳:こく兄って、これまでの戦歴を見れば、めちゃくちゃレジェンド級の格ゲーマーだということは言わずもがななんですけど。なんと言うか、僕らのような一般カジュアル格ゲーマーからは「プロないし有名勢の周りになぜかいつもいる人」っていうイメージを持たれがちだと思うんですよね。
こく兄:おっしゃるとおり(笑)。コバンザメみたいにね。
歌広場淳:だから、「こく兄の肩書きってなんだろう?」と考えていたことが、勝手ながらありまして。いまでこそ、“REJECT格闘ゲーム部門プロデューサー兼ストリーマー”という輝かしい肩書きがあると思うんですけど……アレっていまはもう言っていないんですか? 「eスポーツアスリートのこく兄です!」ってやつ。
こく兄:アレはさすがに、もうやめたね(笑)。あのころは「eスポーツ」という言葉で格ゲーで儲けようとする人たちがいて、「なにそれ?」くらいのノリで言っていたから。いまは、そうやって格闘ゲームをeスポーツとして盛り上げようとしてくれている人たちへのリスペクトもあるし、茶化すようなことを言うのはやめておこうかなと。
歌広場淳:こく兄の肩書きの変遷として、もしスタート地点があるとしたらなにになるんだろう。最初はやっぱり、『闘劇'05』(※2)の『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』(以下、『ストIII 3rd』)部門での準優勝ですかね。『闘劇』上位勢の人たちのことをなんて言うんでしたっけ……?
※2……2003年~2012年まで、毎年開催されていた日本国内最大級の格闘ゲーム大会。
こく兄:“赤絨毯”(※3)かな。
※3……『闘劇』決勝大会の会場にて、上位進出者たちが対戦するステージ上にレッドカーペットが敷かれていたことに由来する。
歌広場淳:そうそう、“赤絨毯”でしたね! こく兄も「赤絨毯ゲーマーです」なんて名乗っていた時期があったりしたんでしょうか?
こく兄:いや、自分から名乗るときはちょっとおもしろい感じのほうがいいかなと思うから。少し前までは「ウメハラ(梅原大吾)の友だちのこく兄です!」でやってきて、ここ最近は「ウメハラと加藤純一とSHAKAの友だち」に進化した。
歌広場淳:それが最終形なんだ(笑)。
こく兄:めちゃくちゃ小物感が出ていいでしょ(笑)。
格ゲー業界の“ご意見番”としての立ち位置
歌広場淳:“赤絨毯格ゲーマー”から始まり、“eスポーツアスリート”を経て、いまや“ウメハラと加藤純一とSHAKAの友だち”として活動しているという、まあグレードアップなのかどうなのかイマイチわからない遍歴をたどってきたこく兄なんですが――。
こく兄:間違いない(笑)。
歌広場淳:――格ゲー業界では、こく兄は“ご意見番”的なポジションにいらっしゃると思うんですよね。業界全体の盛り上がりを考えて、鋭い意見なども言える人だから。
『ストリートファイターV』(以下、『ストV』)の後期、「eスポーツが五輪種目になるかも!」と盛り上がった瞬間があったじゃないですか。あのとき、こく兄が「お前らここで盛り上がらなかったら(格ゲー業界は)終わりだぞ! マジでここで盛り上げようぜ」って言っていたこととか、僕は印象深いです。
こく兄:あれは本心だし、「やってくれるならぜひ!」って気持ちもあったんだけど、正直「五輪種目化は難しいんじゃないの?」とも思っていたかな。
歌広場淳:なんと。その心は?
こく兄:やっぱり、ゲームはルールが変わっちゃうから。マラソンやバスケットボールなんかは、ルールが絶対不変だからこそ観戦している人も楽しめるところがあるじゃない。その点、格闘ゲームはナンバリングが進むだけで、ルールもシステムもガラッと変わるでしょう。
それだと見ている層がついていけないけれど、そうは言ってもゲーム会社は新作を出さないと商売にならないわけだし。だから、「ゲームを五輪種目に」は難しいんじゃないか……というか、「別に無理してそこを目指さなくてもいいんじゃない?」とは思っていたんだよね。
歌広場淳:確かに、もしも種目に選ばれたとしても、たとえば開催年と同じタイミングで新作が発表された場合、選手たちは旧作をやり続けなければならない、みたいな“ねじれ”も生まれちゃうわけですもんね。
「Xは僕にとっての自作『プレイボーイ』」(こく兄)
歌広場淳:2023年6月に開催された『REJECT FIGHT NIGHT』や『Crazy Raccoon Cup』(CRカップ)を皮切りに、こく兄も選手やコーチ役としてイベントに引っ張りだこだったと思うんですが、振り返ってみていかがですか?
こく兄:『CRカップ』が『スト6』を取り上げてくれたことは、めちゃくちゃうれしかったよね。数万人規模の視聴者を集められるようなイベントで、まさか格闘ゲームを扱ってくれるなんて思わなかったから。欲を言えば、またやってほしいと思っています。
歌広場淳:あれだけ盛り上がったんだから、きっとまたやってくれるんじゃないですかね?
こく兄:たぶん、すぐには難しいんじゃないかな。ストリーマーたちも最近はメキメキと腕を上げちゃったから、初心者枠の人を見つけてくるのが難しいと思うんだよね。
歌広場淳:そう言われるとそうですよね。みなさん触れてくれる&やり込んでくれるのは本当にうれしいけれども、興行として盛り上げるためには“やったことのない人”が必要だという。
こく兄:そうそう。だから配信者とか芸能人の中にも、本人としてはプレイしたいんだけれども、イベントで初心者枠として出場してもらうときのために、事務所とかから「まだ触らないで」って止められている人とか、いたりするんじゃないかって思う(笑)。
歌広場淳:これだけ『スト6』が注目されている現状を思うと、ないとは言い切れないかも(笑)。ちなみに、こく兄は『スト6』を通じて絡んでみたい人とかいるんですか? いまって、そういったオファーを通しやすいチャンスだと思うんですよね。
こく兄:たしかに。これまでだったら雲の上の存在だった人でも、この盛り上がりがあればイベントとかにゲスト出演してくれるかもしれないよね。
歌広場淳:じつはゴールデンボンバーでもそういうことがあったんですよ。僕らがメディアに出させていただく機会が増えてきた時期に、テレビ番組のスタッフさんから「いま会いたい人はいますか?」とか「いま興味のあることはなんですか?」と聞かれることが急に多くなったんです。
テレビ番組に出演させてもらうときとか、よく番組からのアンケートに答えたりするんですが、そこにも突然「会いたい人はいますか?」って項目が増えていて。当時の僕らはピンときていなかったから、わりと深く考えずに書いてしまっていた気がするんですけど。
いま思えば、あそこで制作サイドにも刺さるような回答ができていたら、別の企画で呼んでもらえたりとかしたんじゃないかなと。
こく兄:うわ、そういうことか。
歌広場淳:そうそう。だから、こく兄も好きなグラビアアイドルさんとかがいるなら、いまのうちに言っておいたほうがいいかもしれないですよ。コーチング企画に発展したりするかもしれないから。
こく兄:そう言われると惜しい気もするけど……。じつは僕、グラビアアイドルについては全然詳しくないんですよね。Xではめっちゃフォローしているけれど、本当にただフォローして目の保養にしているだけ。
歌広場淳:あれ、そうなんですか?
こく兄:失礼ながら、顔と名前が一致しないです(笑)。それに、そもそもグラビアアイドルさんとは逆に会いたくないんですよね。夢は夢のままでいい。
ハッキリ言って、Xは僕にとって自作の『プレイボーイ』を作るツールなんです。あれは僕のための写真集なんですよ。だから、うっかりグラビアアイドルと友達になって、Xが単なる友達の写真が流れてくるSNSになっちゃったら悲しいじゃないですか。毎日のささやかな楽しみがなくなっちゃうので。
あとはやっぱり、いくら流行っているからって無理にそういう子たちに格闘ゲームをやらせても、長く続けてもらうことは難しいじゃないですか。
歌広場淳:触れてもらえるのはうれしいけれど、「どうせ続けてくれないんでしょ?」とも思ってしまう?
こく兄:そうですね。そういうのは昔からよくあることなので。教えてほしいと言ってくださるなら僕はよろこんで教えますけど、最初から長く続けるつもりがないことが透けて見えてしまったりすると、次につながらないし、その子の見え方も絶対悪くなっちゃうから。少なくとも、こちらから「格ゲーやってみない?」とは声をかけづらいなと思います。
歌広場淳:なるほど。そういったお話からも、こく兄が『スト6』発売以前と以後でスタンスが変わっていないことがよくわかりました。そもそも、こく兄は『スト6』が発売されるよりもっと前から、FPS業界などとの橋渡し役をやってくださっていましたし、そういう意味でも変わらないのか。
こく兄:積極的に橋渡し役をやろうとしたわけではなくて、たとえば『PUBG: BATTLEGROUNDS』(以下、『PUBG』)を自分でやってみておもしろかったから「上手な人のプレイを見てみたいな」と思って有名なストリーマーさんの配信を見に行くことがあって。その人と、後々番組とかで共演して仲良くなるようなパターンが多かったので、たまたまと言えばたまたまなんだけどね。