『FF14』ファンフェスでのコスプレが話題になった企業を直撃 メーカーとユーザーの“理想の関係”はなぜ生まれた?

 先日、スクウェア・エニックスが開発・運営するオンラインRPG『ファイナルファンタジーXIV』(以下、FF14)のイベント『ファイナルファンタジーXIV ファンフェスティバル 2024 in TOKYO』にて、一風変わった取り組みをしている企業が話題になった。

 大抵の企業ブースは製品やサービスのPRに終始していたり、キャンペーンガールが立っていたりするものだが、その企業は違った。どこかで見たような商人風のコスプレをし、液晶モニターを売っている男性に多くの人の視線が集まっていた。Xでも大きな反響があり、口調までそのキャラクターになりきっていたという彼のトークは「ロールプレイング商談」とまで呼ばれていた。

 イベント後も言及するポストを見つけ、その正体が気になってきた筆者は、実際に現地でコスプレをしていたアイ・オー・データ機器の広報宣伝部長である西田谷直弘氏にインタビュー。一風変わった施策の裏側に迫った。

2024年のファンフェス時。多くのヒカセンがアイ・オー・データ機器のブースへ集まっていた。

 はじめに今回の取り組みに至った経緯について掘り下げていくと、同社の出展は今回が初めてではなく、2016年、2019年と過去に2度ブースを出していたという。初回の2016年は西田谷氏曰く「普通の出展」だったようで「あくまでそこの会場で使ったモニターを安く売るだけだった」とのことだ。ただ、同氏はこのファンフェスの2ヶ月前に『FF14』そのものに興味が湧き、光の戦士(FF14プレイヤーの総称)としてエオルゼアに降り立っており、当日は制作チームとヒカセンが生み出したファンフェスの熱量に圧倒されたという。

アイ・オー・データ機器が2016年のファンフェスに出展したブース。たしかに一般的なブースの作りに見える

 そして、イベントを経て社内にも西田谷氏以外のヒカセンが十数名に増加。数年経った2019年に改めて出展を決めた際には「普通に出展するだけじゃなくて、一緒に楽しめるものがいい」と別の形を模索していたところ、同社のゲーミングモニター『GigaCrysta』の開発スタッフから「西田谷さん、あのキャラクターに似てるんじゃない?」と言われ、コスプレをする流れになったという。今回のコスプレのモデルになったキャラクターは、実際に商人のNPCであり、ちょうど直近のアップデートが関連していたということもあって、その格好でステージに立ったようだ。ちなみにこのときは台座を『FF14』仕様にした特別な『GigaCrysta』を販売し、同商品は完売となったらしい。

 面白いのは、ただ完売となっただけではなく、会場で購入したヒカセンたちが、ブースで西田谷氏と交流した思い出などを添えてその後にXへ次々と投稿していたこと。「売った」「買った」の関係性ではなく、そこには確かに“絆”のようなものが生まれていたわけだ。

2019年のファンフェスでは、ステージにも登壇。西田谷氏(左)はエモートのみでの出演となった。

 そして2020年。新型コロナウイルスの流行により世界は一変し、ファンフェスも中止に。翌年の2021年にオンラインで開催となったが、今回の取材にあたってXの投稿を遡っていると、2019年にモニターを購入したヒカセンが「また現地で会いたかったな」「ブースに行きたかったな」という投稿がいくつか目についた。このことを西田谷氏に話すと「もちろん見ていました。本当に感謝の気持ちしかなくて、嬉しすぎてエゴサが止まりませんでした」と笑いながら振り返ってくれた。

 ちなみに2021年は同じコスプレをした西田谷氏がFF14の公式番組内に推奨ディスプレイの告知CMを出したところ、用意した商品数は即完売。特設サイトも一時ダウンするほどアクセスが殺到したという。また、パッチ6.45に実装されるコンテンツを紹介した回のFF14公式番組内では、そのキャラクターの姿を目にしたヒカセンたちが「アイ・オー・データ」の名前を連呼する事態に。それに応える形で2024年のファンフェスにも出展するわけだが、同年の参加をXで告知したところ大反響。しかもパッチ6.45の内容も踏まえた六根山仕様の衣装とあって、その“アップデート”に反応するヒカセンも多かった。ちなみに2019年と2024年の衣装はいずれもアイ・オー・データ機器の本社がある石川県のレンタルきもの店が手掛けており、オーダーメイドで制作したという。だからクオリティが高かったのかと納得した。

 現地でも積極的にコミュニケーションをとった結果、550台用意したモニターはすべて売り切れ、ファンフェスでの累計販売台数は少なくとも1000台を超えたという。まさにファンマーケティングの成功例というべき取り組みだが、西田谷氏は「ファンマーケティングをしたというよりも、こちらが楽しみながらプロモーションしていたら、みなさんが会いに来てくれてコミュニケーションを取ってくれて、その熱量が上手い具合に持続しただけなんです」と答えてくれた。

2024年のファンフェス時に展開されたブース。どんどんクオリティが上がっている。

 たしかに、ファンマーケティング・コミュニティマーケティングという言葉はあるが、コミュニティに属する人たちは外部からあえて狙いに来ている人たちを見抜けないわけがない。だからこそ、結果的にファンマーケティングになっていた、という形が理想形であり、次の熱狂を生む材料になるのだろう。

 話を聞きながらそんなことを思っていると、西田谷氏は「コミュニティは『一緒に盛り上げたい』なんてマインドを欲していない。でも『一緒に盛り上がる』人のことは歓迎してくれるし、そこにメーカーだとか協賛社といった出自は関係ない」という、とあるゲームコミュニティの主催者から授かった金言を教えてくれた。

西田谷氏(左手前)とこの日のファンフェスを盛り上げたアイ・オー・データ機器のスタッフたち。

 実際に同社のスタッフたちは、一緒に盛り上がって色んなヒカセンたちとコミュニケーションを取ることで、次の製品開発へのヒントを得ることができたり、直接の交流を経てモチベーションが上がったりして、石川県への帰路に着いたという。

 それぞれの企業にとって大事にしている価値観があり、その形に正解があるわけではない。ただ、今回の取材では、アイ・オー・データ機器が持つファンマーケティングにおけるある種の正解と、そこに至るまでの考え方・マインドを知ることができた。ユーザー視点から見ても、製品をスペックだけでない判断材料で購入するうえで大事にすべきことを学んだような気がする。

 ファンフェスのような特定タイトルのイベントや『東京ゲームショウ』などの大型イベントを訪れる際には、これらの視点からさまざまなブースを見ると、よりイベント全体を楽しむことができるはずだ。

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