話題の「AIカバー」「音楽生成AI」の法的現状とは? AI×知的財産に強い弁護士に聞く”問題点”

AIカバーの法的現状とは?弁護士に聞く

身近なケースも?AIカバー以外のパブリシティ侵害 

――驚きました。では「AIカバー」について、改めて法的にいかがでしょう。

柿沼:架空の楽曲についてプロの歌手の「声」を利用した「AIカバー」でお金儲けをするのは前述した「声」のパブリシティ侵害に該当する可能性が高いと考えます。そのうち日本でも訴訟が起こる気がします。

山城:「AIカバー」の場合は、アーティスト以外の第三者がアーティストの声を無断で使うのが問題です。ですので、例えば、アーティスト自身が、AIカバーにより自分の声を素材的に使用する分にはパブリシティ権侵害とはなりません。結局は他の生成AIの文脈と同様で、使われ方次第の話といえます。

――声優や政治家の声などをディープフェイク的に使用することについてはどうでしょうか?

柿沼:歌に限らず問題になってきます。むしろ政治家に嘘の発言をさせるような行為やディープフェイクポルノの方が社会に対する影響が大きいので、著作権以外の観点でも、これからなにかしらの理由で規制の対象になるのは間違いないでしょう。

山城:「声」という点にフォーカスしていうと、著名人ではない、一般人の声に顧客吸引力はありません。そのため、例えば一般人の声を使ってAIカバーが行われた場合に、著名人と同様に、パブリシティ権侵害の問題として捕捉することは困難です。このような一般人の「声」の使用について、例えば同じく肖像に関する判例上の権利である肖像権の拡張というアプローチで考えていくのか、あるいは新しい法律を作って立法的に対応すべき話なのかは今後の使用態様によって議論されていくべき課題と考えます。

――TikTokで「芸能人エフェクト」なども流行していますが。

山城:芸能人エフェクトもパブリシティ権の問題を孕んだトピックだと思います。TikTokで芸能人エフェクトを利用したユーザーの動画は、動画上に「AI生成動画・エンタメ目的のみ」という注記が出る仕様となっています。この注記はつまり芸能人の顧客誘引力を利用した商用利用目的ではない、という注記であって、パブリシティ権に配慮する形で記載されたものと考えます。ただ、このような注記をしたからといってパブリシティ権侵害に該当しない、と言うことにはストレートにはなりません。

――反対に、AIで生成した、実在の人間とは紐付かない「声」にパブリシティ権が認められることは考えられますか。

山城:通常はないと思われます。パブリシティ権は、著名人の顧客吸引力について認められる権利であるためです。似たような話だと、現状、AIには著作者になれないと整理されています。このあたりは、後半のAI生成楽曲の話にも関連しますが。

柿沼:この先、実在の人間ではない、有名なAI声優やAIシンガーが出てきて、その声を勝手に使ったとしてもパブリシティ権の侵害になることはないと思います。ただ仮にAIの声が商品やなにかと結びついているような場合、別の考え方をする可能性はゼロではないですが。

――では実際に生成された声は似ていないけど、著名な歌手の声がAIモデルのデータセットに使われている場合はいかがでしょう?

柿沼:ここは興味深いポイントです。AIモデルによる生成の順序を考えると、①色々な声を集める、②当該声によるデータセットを作成する、③それをAIに学習させてAIモデルを作る、④音声を生成するという流れ。先ほどまでの話は④に当たりますが、その前段階の①~③の行為がパブリシティ権の侵害かは現状ほとんど議論されていません。

 いろいろな考え方が成り立つところですが、①~③の過程においては、単なる内部的な準備行為なので顧客吸引力は利用されているといえず「パブリシティ権とは関係ない」という見方もありえるところです。これから議論が必要なポイントといえるでしょう。

山城: 著作権の場合には、著作権の侵害要件に「類似」性という要件があります。他方、ある著名人の声が学習用データセットに含まれるAIから、当該著名人と声質が似た声が生成された場合に、その著名人のパブリシティ侵害になるかどうかは、そもそもパブリシティにおいて著作権法のように「類似」という侵害要件が求められることになるのか自体も明確にはわかりません。

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