『Talk About Virtual Talent』第七回:名取さな
名取さなが語る、バーチャルタレント活動の哲学と“メメント・モリ” 「観てくれた人の人生を豊かにしたい」
名取さなの“人生”を表現したイベント『さなのばくたん。-ハロー・マイ・バースデイ- Powered by mouse』
ーー名取さんの生誕イベント「さなのばくたん。」ですが、2021年に『さなのばくたん。 -ていねいなお誕生日会- Powered by mouse』として初開催されました。当時はどのような気持ちでしたか?
名取:もう、逃げたくて逃げたくてしょうがなかったです! 大舞台すぎて! というか、今でもステージから逃げたくなりますよ! でも、自分の逃げたい気持ちと、逃げた後にいろんな人からしこたま怒られるんだろうな……とか逃げたら悲しむ人があまりにも多すぎるよな……とか考えたのを天秤にかけて、逃げないことを選んでます。
ーーイベントまでの準備をしている時と実際にステージの上で演じる時、どちらの方が楽しいですか?
名取:どっちも楽しいです! 制作はすごいクリエイターの方々とものづくりを一緒にできる楽しみ。そして本番は、頑張って練習してきたパフォーマンスや時間をかけて丁寧に作った制作物をぶつけたり、お客さんとの交流する楽しみでそれぞれ全く別ものなので! ただ、本番は直前まですごく緊張するので気が楽なのは制作のほう……。
ーー舞台は作品発表のイメージに近いのでしょうか?
名取:そうですね。特に「さなのばくたん。」を見てくれたお客さんには、作品をひとつ見終えたときのような感覚をお返ししたいと思っています。
ーーこれまで過去4回にわたって「さなのばくたん。」を開催してきて、特に思い出に残っていることはありますか?
名取:印象深い回でいえば、2023年の『さなのばくたん。-ハロー・マイ・バースデイ- Powered by mouse』だと思います。ギリギリまで演出とか言い回しとかにこだわったり、「これじゃあ伝わらないかもしれない」というスタッフさんとのやり取りを当日までやっていたので。
ーー当日まで話し合ってたんですか!?
名取:そうです。前日の深夜に「この言い回しでは(思いが)伝わらないかもしれない」ってディレクターに送ったりしていました。自分の思いを間違いなく伝えたかったというのが大きかったと思います。
とくに「ハロー・マイ・バースデイ」は名取の“人生”に関わるイベントだったので(※)、この言い回しで伝わるのかな、変な伝わり方をしたらやだな、と慎重になっていましたね。
(※このイベントでは、ラストで名取さなの存在について今まで本人が“秘密にしていたこと”を打ち明けている)
ーーイベントでミュージカル的な構成を組んで、ご自身の人生を表現しようと決意したのはいつぐらいからですか?
名取:毎回、イベントが終わってからふんわり「次の『ばくたん。』はどうしようかな」と考えているんですけど、割と企画の最初の段階から考えていました。特に「ハロー・マイ・バースデイ」のときは活動5年目だったので、集大成として今までお話ししてなかったことも話そうかな、という節目の気持ちもあって。
ーー過去のMVや配信など、これまで発表されたコンテンツのなかで、「ハロー・マイ・バースデイ」にむけて組み立てられていたものもあるんでしょうか?
名取:うーん……それでいうと、人生の話とかは漏れ出てしまっているだけで、特になにかを話そうと思っていたわけではないんですよ。そんなに話したいことでもなかったので……。「伏線回収だ!」っていろんな人に言われているのを見たのですが、今まで生きてきた人生を伏線っていうの、変じゃないですか?
ただ、意外と人生っていうのは、普段の言動からバレるものなんですね。インターネットって恐ろしいです(笑)。
(※イベント中、本来の名取さなの姿で登場し、今まで観られなかった苦しみに向き合う場面がある)
ーーイベントでは舞台演出と音楽とのつながりがすごく計算されていると思って見ていました。演出はどういう風に練り上げているのでしょうか?
名取:最初の頃は舞台演出を作ってくださってる方に、こんな感じでやりたいというのを結構細かくお願いしていたんです。けど、何年もやっているので、最近は「名取がやりたいであろうこと」を、意図を汲んでやってくださっています。毎回コンセプトシートは出しているんですけど、こんな感じのことをしたいんですっていうのを出したら、あとは確認しつつお任せ目でも最高なものが出てきます。
ーーイベントのテーマ自体は毎回名取さん主導で考えておられるんでしょうか。
名取:そうですね。「今年の『ばくたん。』は探偵物がやりたい」みたいな大まかな案を出した後に、ディレクターさんと詰めていってますね。今年もはじめは「探偵として推理をするぞ!」みたいなざっくりとしたコンセプトでした。
これまでの誕生日イベントはお客さんとの双方向性があって、リアクションを見ながらお客さんの意図、言いたいことを汲んだりアンケートを取ったりして一緒にやってきたので、今年も「みんなと一緒に推理する」というコンセプトで詰めていきました。
ーー双方向性をかなり大事にされているんですね。せんせえがたの前でステージに立つという行為に、名取さんはどのような価値を感じておられるんでしょう。どのような気持ちで立っていますか?
名取:せんせえがたの生活や考えが豊かになれば良いな、という気持ちですね。なにか心が動いて欲しいと思って立っています。なので、ライブ後はnoteやSNSの感想を見ています。長文で自分の気持ちをまとめてくれる方が多くて、うれしいです。やっぱり、オタクが感情で書いた文章は面白いです!