懸念される“AI格差社会”の訪れに備えて——生成AIフレンドリーに生きる手立てを考える

“AI格差社会”で生き残る術を考える

AIは「国家内」と「国家間」両方の経済格差を広げる?

 IMFレポートでは、AIによる収入変化に関する未来予測も行っている。未来予測は、AI導入効果が穏やかな場合、AI導入効果が急激な場合、AI導入が急激かつ生産性も向上する場合の3つのシナリオを想定して行った。なお、この未来予測は典型的な先進国の一例としてイギリスを対象としている。

 3つのシナリオにおける収入変化を表したのが、以下の3つのグラフである。横軸には全労働者を年収帯の低い順から高い順に左から右にならべ、縦軸は収入の増減率としている。左側が、AI導入が穏やかな時のグラフである。全労働者が収入を増やしており、なかでも高収入な労働者が大きく増やしている。

 AI導入が急激な時のグラフが中央である。高収入な労働者が収入を増やしている一方で、低収入な労働者は収入を減らしている。こうした予測は、AI導入が急速に進んだ場合、AI損組に属する低収入労働者の仕事がAIによって代替されて行き場をなくしてしまうことにもとづいている。

 右のグラフが、AI導入が急激かつ生産性も向上する場合である。全労働者が収入を増やしているなか、高収入な労働者が大きく収入を増やしている。

 ちなみに、グラフの青色部分は労働による収入を表し、オレンジ色は資本からの収入を意味している。高収入な労働者ほど資本収入が増えるのは、労働よりもAIによる投資から収入を得るようになるからだ。

 IMFは、各国の将来的なAI導入速度についても考察している。AI導入速度を推定するのに使われるのが、「AI準備度(AI Preparedness index)」と呼ばれる指標である。この指標は、AIを導入できる体制の完成度をデジタルインフラや雇用状況などから算出したものである。以下のグラフは、縦軸にAI準備度、横軸にAIによる影響を受けやすい労働者の割合として、各国をプロットしたものだ。

 以上のグラフでは、先進諸国がグラフ右上、低所得諸国が左下、新興国がこれらの2グループにはさまれている。この分布から経済力の大きな国ほどAI準備度が高く、またAIによる影響を受けやすい労働者が多い傾向がわかる。したがって、経済力が大きい国ほどAIを早く導入して、その恩恵を得られやすいと言える。

 IMFレポートはAIと労働の関係をさまざまな角度から考察しているが、そうした考察から導かれる結論は以下のような2項目に集約されるだろう。

(1)専門職や管理職といった高収入な職業ほど、AIによって得をする。
(2)AIの導入が進むと、国家内および国家間の経済格差が拡大する。

 以上の結論が示唆する “AI格差社会”の到来に対して、各国政府は行き過ぎた経済格差を緩和するための政策を立案・施行すべき、と警告してIMFはレポートを締めくくっている。

 続けて、次項からはこうした“AI格差社会”を生き抜くための手立てを考えていこう。

生成AIフレンドリーになる手立ては“すでに揃っている”

 前項でも結論づけたように、世界で生成AI導入に関する圧力がますます強くなっていることから、IMFレポートが警告するAI格差社会の到来は避けられない、と筆者は考えている。日本政府が進めているAI教育やAIに関するリスキリング(学び直し)の政策が施行されたとしても、AI格差はなくならないだろう。

 しかし一方で、「押し寄せるAI格差社到来の波の前では、為す術がないのか」と問われれば、否と答えられるだろう。生成AI普及の波に飲み込まれるのではなく、乗りこなせばいいのである。そして生成AIに慣れ親しめば、むしろそれはAI格差社会を生き抜く仲間となり、武器にさえなる。

 幸いなことに、生成AIに慣れ親しむ手段は現時点ですでに整備がされている。無料で使える対話型AIだけでも、『ChatGPT』『Gemini』『Copilot』と、これだけのプロダクトが揃っている。

 まずはこれらのAIを使い込んでみて、飽き足らなくなったら有料版にアップグレードするとよい。そうなった頃には、立派な生成AI上級ユーザーになっているだろう。

 生成AIに関して体系的な知識を習得したいのであれば、「生成AIパスポート試験」の受験を検討するのもよい。この試験には公式テキストが用意されており、このテキストを眺めるだけでも、生成AI入門者から脱却する第一歩を踏み出せる。同テキストには、生成AIの技術的背景から生成AIを使いこなすために必要なプロンプトエンジニアリングの基礎が解説されているからだ。

 もし自分が生成AIが役立ちそうもない仕事に現在就いていたとしても、生成AIの知識が無駄になることはないだろう。というのも、生成AIは日進月歩の勢いで進化し続けているからだ。

 ほんの数年前までは考えられなかったようなこと、たとえば「ウェブページのデザイン画面からウェブページのプログラムコード(HTML)を生成する」といったことが今ではAIによって簡単にできてしまうように、言語処理、画像生成、画像認識、動画生成などそのユースケースは今なお広がり続けている。たとえ今はAIを自身の仕事の活用できない状況であっても、将来は使えるようになるかも知れないのだ。
(参考:https://front-end.ai/

 生成AIに慣れ親しむためにもっとも必要なことは、生成AIを面白いと思う好奇心である。こうした好奇心をもって生成AIフレンドリーな日々を送っていれば、AI格差社会が本格的に訪れたとしても恐れることはないだろう。

(※1)IMFブログ記事「AI Will Transform the Global Economy. Let’s Make Sure It Benefits Humanity.

〈サムネイル:Unsplash

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