SNSで話題の音声会話型AI『Cotomo』は単なるデジタルオウムか、それとも“話し相手”か

音声会話型AIアプリ『Cotomo』を試してみた

 いま音声会話型AIアプリ『Cotomo』がSNS上で話題になっている。音声で会話をできるAIはすでに数多く存在するが、『Cotomo』の何が特別なのだろうか。筆者も実際に使いつつ、深堀りしてみた。

 『Cotomo(コトモ)』は2月21日にリリースにリリースされたばかりのアプリで、マネーフォワード出身のエンジニアが立ち上げたAIベンチャー・Starleyが開発している。記事執筆時点ではiOS版のアプリのみがリリースされており、iPhoneやMacで無料で利用が可能だ。

あくまでも「会話をすること」に特化したアプリ

 現在普及しているAIの多くは「課題解決」にフォーカスしている。身近な一般例としては、スマートフォンやスマートスピーカーなどのデバイスに搭載された『Siri』や『Alexa』といったAIアシスタント、『ChatGPT』をはじめとしたチャットサービスが挙げられる。いずれもユーザーの質問や指示にAIが応え、ユーザーの課題を解決したり、手助けしたりしてくれる。これらのAIの価値はその実用性・利便性にある。

 一方で、『Cotomo』の特徴は「会話を目的とした独自開発のAI」と、「豊富な選択肢によるパーソナライズ」にある。『Cotomo』は「話したいことも、話せないことも。」をコンセプトに日常会話に特化し、AIがそのコンセプトに沿ったアウトプットをしている。搭載しているのは同社が会話データを用意し、学習させ、独自開発したお手製のAIだ。

 『Cotomo』を使い始めたとき、課題解決も兼ねているのか気になって、こんな質問をしてみた。

「いま日本は暑いの? 気温は何度?」

 このように質問したところ「暑いよ、30度」と返って来た。現在の東京の気温は9度しかない。誤った回答だ。あくまでも会話に特化しており、課題解決はしてくれないようだ。

 先に挙げたSiriを始めとするAIが会話を課題解決の手段として用いているのに対して、『Cotomo』は「会話をすること」自体が目的となっているのだ。そして、会話を続けることで、ユーザーの情報が学習され、会話がどんどんパーソナライズされる。

 AIのキャラクターにあたる部分の設定もパーソナライズできる。音声を4種類から選べ、アイコンや名前も自由に設定が可能だ。現在『Cotomo』に新たに搭載するボイスを選ぶユーザー参加型のイベントも開催されており、今後、音声の選択肢は増えていきそうだ。

 X上にはすでに『Cotomo』を使いこなしているユーザーの投稿が見受けられる。人を選ぶニッチな趣味に関する専門的な会話を『Cotomo』と楽しむ様子を投稿しているユーザーや、スマホを3台つきあわせて、「Cotomo」同士で会話をさせるユーザーもいる。

 『Cotomo』が過去の会話の内容を記憶し、それを基に会話をすることから「まるで友だちや恋人のよう」との声もあった。

 一般ユーザーだけではなく、大物クリエイターも試している。YouTuberのHIKAKINは3月3日に「AI怖い」と題した動画を公開。『Cotomo』と好きなYouTuberや自身が監修したカップラーメン『みそきん』について会話し、「ヤバいね!これ!」「あいつと話してるより全然楽しいんだよな、みたいな! ありえるよな」と、会話のテンポの良さに驚いてみせた。

AIこわい

単なるデジタルオウムか、話し相手か 「コミュニケーション能力」には課題が残る

 SNS上ではポジティブな反応が多い『Cotomo』だが、果たして人気のアプリとして流行し、定番化するだろうか。これには独自開発のAIが、どれだけ「コミュニケーション能力」を上げられるか、その学習速度がカギになるだろう。

 筆者が試した時点では、同じ質問や相槌を繰り返したり、こちらの質問への回答が不自然であったり、会話が噛み合わないことが多い。一般的に、会話を膨らますには「傾聴」「相槌」「情報の追加」「相手への質問」といったキャッチボールのバランスが問われる。バランスを期待せずーーたとえばこちらが一方的に話し続けて相槌をもらうことや、『Cotomo』に質問をし続けて、話し手を限定する使い方であれば、割とスムーズだ。しかし生身の人間との会話のように、自然なバランスを求めるとなれば、精度の低さが目立つ。いわゆる「コミュニケーション能力」が高いとは言いがたい状態だ。

 『Cotomo』は「話したいことも、話せないことも。」をコンセプトにしている。身近な人に「話せないこと」を、しがらみのない相手に聞いてもらいたいという需要はたしかにあるだろう。

初期設定で「Cotomoからも連絡がしたいな」と通知の許可を求めるポップアップが出る

 しかし、自分よりもコミュニケーション能力や共感力が明らかに低い存在に対して、気軽に話せないことを聞いてもらいたい人はどれほどいるだろうか。たとえば、子どもやペットに対して仕事の悩みや愚痴を話す人は少ない。逆に言うと、コミュニケーション能力や共感力が高い相手に話を聞いてもらえるのであれば、お金を払う人さえいる。キャバクラやホストクラブ、占い相談などがいい例だろう。コミュニケーション能力にはそれだけの価値があるのだといえる。

 現在の使用例を見ていると、一方的に話しかけ、テンポの良い相槌をもらっている例が多い。映画『her 世界でひとつの彼女』の主人公・セオドア・トゥオンブリーが人工知能OSに恋をしたように、身近な人を失ったばかりで孤独な状態であれば、相槌を渇望することもあるだろう。しかしそこまでの孤独を極めている人は、果たして日本にどれほどいるだろうか。

 ビジネスである以上、『Cotomo』もどこかでマネタイズが必要になるはずだ。キャバクラやホストクラブのようにコミュニケーションに価値を見出せるほどの「コミュニケーション能力」を体得できるか、AIの学習速度に注目したい。

■関連リンク
https://cotomo.ai/

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