連載:エンタメトップランナーの楽屋(第十回)
Mrs. GREEN APPLEが見せた快進撃の裏側、そして海外進出続くJ-POPの未来を考える FIREBUG 佐藤詳悟×ライブプロデューサー大田高彰対談
ミセス・セカオワ・Vaundy 三者三様のライブプロデュースの関わり方
佐藤:日本のアーティストはどんなプロデュースを大田さんに求めているのでしょう?
大田:基本的にライブのプロデュースは、アーティストと1から一緒に曲や演出を決めていくやり方もあれば、アーティストが構想を決めて「こんなことをやりたいけど、どうしたらいい?」と相談から始まることもあります。
たとえば、Perfumeの場合は演出振付家・MIKIKOさんやクリエイティブチームのライゾマティクスが関わるパッケージで、日本国内では通常1万人規模のLIVEを実施している。じゃあ、その国内のパッケージを元に、海外の2000~3000人規模の会場ではなにができるかということを考えるんですね。あとは海外のマーケットでは何がウケるかも大事になってくるので、そこの戦略も練ったり。
佐藤:やはりアーティストファーストなんですね。自分から提案できる人が売れる時代なのかもしれません。
大田:ますます加速していくと思います。
佐藤:コミュニケーションはどのように取るんですか?
大田:近年は直接アーティストと話すことがほとんどです。そして、ソロだったらわかりやすいけど、グループの場合は誰がインスピレーションを固めていくかが一番重要ですね。
佐藤:Mrs. GREEN APPLEにはいつから、どのように関わっているんでしたっけ?
大田:2018年頃からライブプロデュースで関わり始め、いまはアーティスト活動全体を支えるマネジメントに携わっています。ユニバーサルミュージックと連携しながら、僕は特にモノづくりや世の中に対する面白い仕掛けなどのクリエイティブ部分を担当しています。タイアップもこちらで動くときもあるので、総合的にご一緒している感じ。
佐藤:「こうしたい」と提案するのは大森元貴さんなのかな。
大田:彼のインスピレーションをみんなで膨らませていくことが多いです。2023年でいうと「結成10周年」というテーマがあって、なにか面白いことをしたいと。そこから「対バンををしよう」などのアイデアが出てきました。アイデアが出たらすぐに会場を抑えて、内容や対バン相手などを一緒に吟味して、ももいろクローバーZさんやPEOPLE 1、フジファブリックさんらとの「Mrs. TAIBAN LIVE」の開催に至りましたね。これは一例に過ぎませんが。
佐藤:彼らは2年間の活動休止を経て、2022年に「フェーズ2」として再始動しています。心機一転がプロデュースのミッションとしてあったのでは?
大田:そうですね……コロナ禍を含めて色々ありました。それが結果として花開いたのが昨年だったような気がしています。もともと一緒にライブを作りながら、「邦楽、ロックなどといったジャンルや概念にとらわれないスタイルをとっていて、どこか洋楽にある自由な雰囲気も持ち合わせているし、ミセスは日本だけで聴かれるべきではない」という意識がありました。活動休止についても伺っていましたし、今後のビジョンについてもかなり前から語り合っていました。
ミセスは音源もライブのクオリティもずば抜けて高いし、どこか考え方が海外に近い。だから「邦楽」や「邦ロック」というカテゴリを崩して、総合エンタテインメントのアーティストとしてさらに幅を広げるのが次にやることだなと。その間のビルドアップを活動再開で発揮し、フルスロットルで駆け抜けたのが2023年だったのかなと思います。
佐藤:事前に目標を立てて動いていったの?
大田:もちろん。まだまだこれから控えていることはたくさんありますが、フェーズ2では総合的に仕掛けていこうという目標を掲げていました。その流れで「日本レコード大賞を取る」、「『紅白歌合戦』に出る」、「テレビで露出をする」などといったことは休止中から想定していた内容だったので、ひとまずそれらは昨年実現できてよかったです。もちろん色々なご縁を頂いたり、機運もあったと思います。
佐藤:SEKAI NO OWARIのライブ制作手法も気になります。
大田:そもそも彼らはいわゆるロックバンドという形態ではないので、エンタテインメント性が高く、存在自体がキャッチーで、、世界観がしっかりあり、いつも挑戦しがいがありました。特に記憶が強いのが、ドームツアー『Tarkus』の発表をした日に、Fukaseくんがすごい長文のストーリーをスタッフに送ってきた時です。あれは驚きましたね。
そこに1から10まで描いてあるので、内容に沿って会場レイアウトを含めた全体演出の構成が進んでいきました。彼の強く明確なインスピレーションをどうエンタメとして拡大するかをみんなで考えたのは楽しかったです。いまではSaoriちゃんが台本を書きますが、当時は放送作家の鈴木おさむさんに脚本のお手伝いをお願いさせて頂きました。そこからまた一気にアイデアが広がって。大変でしたが、クリエイティブな仕事でした。
佐藤:Vaundyは?
大田:彼はこの新しい時代をまさにいま作っているアーティストで、かなりクリエイター気質な方だと思います。アーティストであると同時にデザイナーであり、確固たる感覚を持ちながら、「面白いと思ったらOK」というような間口の広さも持ち合わせています。クリエイターとしての秀逸な感覚値と考え方をもったトップアーティストで、これからが本当に楽しみです。
アジアから海外進出する突破口
佐藤:大田さんから見て、世の中に刺さっている人の共通はなんですか?
大田:個人的に感じるのはなにかしらの反骨精神だったり、強い意志やバイタリティを持っているということでしょうか。世の中には色々な反応があるし、タイアップだったら起用する側の意見があるし、事務所の意見だってあるじゃないですか。だから自由に制作できない環境だったりすることもあるけど、そこに敢えて、きちんと自分達の正解を見いだして、作りたいものを提案して、それが結果としてヒットに繋がるというパターンが多い気がしてます。
佐藤:初めからそういうキャラクターの人が多いんですか?
大田:そうだと思います。特に最近はそのフェーズの若いアーティストと多く関わらせて頂いているので、そう感じるのかもしれません。大御所のアーティストだとまた違うはずです。
佐藤:なぜ若いアーティストが大田さんと仕事をしたがると思いますか?
大田:どうなんでしょうか(笑)。たまたまご縁があるとしか言いようがないですが、年齢的にも、海外を含めた経験値は多少はあるので、具体的な提案だったり意見交換がしやすいというのはあるかもしれません。僕が海外のアーティストを少なからず見てきた、見ているということがあるのかもしれません。
佐藤:海外を見ている点は共通していると。どんなアーティストを参考にしているんですか?
大田:時代によって変わっていきますが、これまでだとジャスティン・ビーバーやテイラー・スウィフト、ケイティ・ペリー、The 1975などですかね。海外の方が圧倒的にアーティストがアイコンになっているし、やっていることがキャッチー。そういったアーティストの方々と実際にお仕事をさせて頂いた経験値は大きいと思います。
佐藤:意識しなくても海外に飛び出していく感じはありますね。いきものがかりも現在、海外のユーザの再生数が多くなってきています。
大田:洋楽の要素がありつつ、自由な構成を持つK-POPが垣根を壊したと思います。欧米はここ数年ボーイズ/ガールズグループが不在だった。
そこに音楽的には最前線の洋楽で、ダンスもバキバキで現れたBTS。「アジアってカッコいい」というイメージが刺さった。マーケティング的には完璧ですよね。