着実な成長を遂げるメタバース産業との交錯 有識者が予測する“2024年のバーチャルシーン”

「バーチャル」の2023年を有識者が振り返る(後編)

メタバースの「幻滅期」は訪れず、むしろ盛り上がりを見せるXR業界

――バズワードでなくなった時の「幻滅期」が来ると思っていたら、意外とそうでもなかったという感じでしたね。これに関してはAppleが『Vision Pro』を発表したことも大きかったと思います。これによって一気に「次の時代」の到来を予感した企業は多いのではないでしょうか。

浅田:今年のXRデバイスに関するビッグニュースでいえば、『Vision Pro』の発表と『Quest 3』の発売の2つがやはり大きかったですね。

たまごまご:『Quest 3』は良いデバイスですよね。大体買った人は喜んでますし。

浅田:でも、『Quest 3』を体験した人ですら、『Vision Pro』を体験した人は「『Vision Pro』の方が良かった」と絶対に言うんですよ。体験した人から口々に絶賛の声しか出てこないのが、もはや怖かったほどです。

たまごまご:どのあたりが絶賛されていたんですか?

浅田:外装の造りが良いのはもちろん、あまりにも使い勝手がいいみたいなんです。『Vision Pro』はこれまでのXRデバイスと違って、コントローラーが存在しないんですよね。自分の手と目で操作する。視線で選択し、手で確定するといった動作が、当たり前にできすぎると聞きました。

 それから、MRの体験の質に関しては、『Quest 3』ですらコンシューマー向けデバイスとしては現状最高クラスと言っていいくらいなんですよ。『Vision Pro』はそれを軽々と超えてくるようで、これが世に出た瞬間どうなってしまうんだろうと戦々恐々としているところです。ただ、ネックなのは50万近く(3,499ドル)する値段ですかね。

くさの:そこですよね。来年売り出しても誰が買うんだろうと薄々思っていました。

浅田:買う人は買うけれど、初期段階ではiPhoneのように手に取るようなものではないかもしれないですね。

たまごまご:あるいはiPhoneみたいに、分割払いのスタイルも出てくるかもしれませんね。

くさの:月々の支払い金額にもよりますが、50万から48万の分割ってなかなか時間がかかりますよね? ヘタすれば3年のうちに新しいものが2台は出ちゃいそうですね。

たまごまご:機種変更できたらいいですよね。『Quest 3』を買って『Quest 2』を持て余している僕からしたら、機種変更みたいな制度があればなあ、と思うところです(笑)。

――価格に関して言うと、Macも昔は50万、100万が当たり前の世界でしたから、普及につれて廉価モデルが出たりと、徐々に下がっていくかもしれませんね。「空間コンピューティング」という言葉についてはいかがでしょう?

浅田:Appleの『Vision Pro』展開における勝ち筋はまさに「空間コンピューティング」という言葉にあると思っています。Metaも同様の言葉を使っていましたが、突然出てきた「VR」ではなく「コンピュータの発展系」だとする方が、普通の人にとってわかりやすい認知レイヤーになるじゃないですか。

 「これをかぶると仮想世界に飛べます」とかいう話ではなく、「頭にかぶって操作するコンピューターです」と打ち出した方が、生活にどう使うといいのか、というイメージが伝わりやすいのかなと。今iPhoneって結構な値段しますけど、それでも買う人が多いのは、それが生活に役立つことが明白であるからだと思うんです。

 翻ってVRデバイスの場合、現状では「そこまで広く役立つものではない」と思っていると思うので、そこを強化していくのが今後のXR産業のカギになるんじゃないかと思います。

ーー今後また世間のXRに対する認識も変わってきそうですね。では、最後のトピックに移りましょうか。

浅田:「ソーシャルVRで遊ぶ・活動するVTuberが増加」というトピックですね。少なくとも、過去イチ増えているのは事実のような気がしています。ソーシャルVRというか、特に甲賀流忍者ぽんぽこさんとピーナッツくんが手がけた『ぽこピーランド』に行っている人がめちゃくちゃ増えていますね。あれがVTuberと『VRChat』の交錯点として象徴的なコンテンツになっているんですよね。

 周りの話を聞いていると、『ぽこピーランド』に行きたいがために3Dモデルを用意した、みたいな人もいたりして。付随して、VTuberだけでなくそのファンが『ぽこピーランド』見たさに『VRChat』を始めるという話も結構耳にしますね。『VRChat』には初心者向けの案内をやられているユーザーがいるんですが、その方々も「明らかに『ぽこピーランド』ができてから初心者が増えた」と話していましたね。

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くさの:そう考えると、やっぱりぽこピーの影響力はすごいですね。

浅田:個人勢として真ん中を走っているコンビですし、あの二人に憧れてVTuberを始めた人も少なからずいるでしょうからね。

たまごまご:『ぽんぽこ24』で繋がっていったきっかけもいっぱいあるでしょうし、すごくいろんなところに影響を与えていますよね。

浅田:『ぽんぽこ24』も、ここ数年は『VRChat』に特設会場を用意してサテライト会場的な場を用意しているんですよ。去年の『ぽんぽこ24』の『VRChat』会場は僕も見に行ったんですが、たくさんVTuberさんがいらっしゃって。『VRChat』で活動している人と、一般のユーザーが当たり前みたいに同じ場所にいて、みんなで『ぽんぽこ24』をリアルタイムで見ているという奇妙な時間が結構あったのは印象深かったです。

 今年は『ぽこピーランド』がサテライト会場的な場になっていて、「みんなで24時間配信を見ながらこの大きな遊園地で遊ぼう」みたいなことをしている人が多かったですね。

ーー『VRChat』で活動されているタレントさんで、最近注目している方はいますか?

浅田:最近だとエンジンかずみさんというVTuberの方が『VRChat』を現場にしたドキュメンタリーを出していて。一般ユーザーへの体当たり取材をする動画がかなりウケていますね。

たまごまご:あれは面白いですよね。本当に現場の声、忖度ゼロですからね。

浅田:若干センシティブな話題にもどんどん突撃していて、「なんだかこの人、おもしろいぞ」という感じで、じわじわ注目を集めてますね。

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たまごまご:他にもウィンターズさん、オムライス食堂さん、93poetryさん、ゆめ心中さん、リロ氏さん……普段見かけるわけじゃないですが、のらきゃっとさんや九条林檎さんも活動されていますね。

浅田:のらきゃっとさんは先駆者ですからね。『ぽこピーランド』の件も踏まえて、少しづつVTuberの間でも『VRChat』に来る方が増えている印象です。現状のVTuber業界のような「爆発的な変化」が起きるタイミングがいつになるかは読めないので、長期的に見ていく必要がありますけど、早めに参入しておけばナレッジ的なアドバンテージも得られそうですし、そういう意味でもおすすめしたいところです。

たまごまご:急に来て入り浸れというわけではなくて、表現するときにソーシャルVRは便利だから使ってみてとか、たまにこっちでライブやってみない? とか、そんな気持ちですね。それから、目の前に観客がいる喜びを感じてほしいというのはすごくあります。

浅田:そうですね。「Project Little Lindo」というサークルのVTuberで、MIRA(鏡見みら)さんという歌の上手なバーチャルシンガーがいらっしゃるんですけど、ある日その方が『ポピー横丁』という飲み屋街風のワールドで路上ライブをしていたんです。

 最初は「めちゃくちゃ歌が上手い人だな」くらいにしか思っていなかったんですけど、プロフィールを見たら「え? 知ってる人だ」ってビックリしちゃって。「なんでここで歌ってるんですか?」と聞いたら、「目の前でリアクションがあるところで歌うのって、すごく楽しいんです」って言っていたんですよね。

CH4NGE / Giga 歌ってみた Covered by MIRA

たまごまご:『ポピー横丁』は本当に路上感のある場所ですもんね。

浅田:そうですね。ストリートだからこそできることもあるし、そこで積んだ経験がどこかに生きるんだろうなとは思います。

 今年、『VRChat』で活動する音楽ユニットたちが出演するライブ『VARTISTs』が下北沢のERAというライブハウスで開催されたんです。そのステージに立っていた人たちって、リアル現場がほぼ初めてなはずなのに、めちゃくちゃ堂々としてたんですよ。バーチャルな現場で積み重ねたものって、経験値の種類は違えど無視できない効果があると思います。

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