「日本のクリエイティブ発展に寄与したい」 Intelが主導するクリエイター支援プロジェクト『インテル Blue Carpet Project』の見据える未来

インテルがクリエイターを支援する理由

ーー安生さんのご経歴についても伺わせてください。インテルに入社してからBCPを立ち上げるまで、どのようなキャリアを辿ってきたのでしょうか?

安生:わたしは前職でメーカーの研究者をやっていたんですが、大学でコンピューターを学び、修士課程を卒業して研究所に入ると、周りの人はみんなPh.d.(博士号)を持っていたんです。はじめは別に持ってなくてもいいかと思っていたんですけど、入社二年目でアメリカのベル研究所に客員研究員として行く機会をもらったところ、周りにはMITだのバークレーだの、スタンフォードのPh.d.を持ってる人がいっぱいいて、幼稚園児扱いされたんですよね。本当にグローバルで活躍するには博士号って必要なんだとそのとき思い知らされまして、社会人ドクターに入学し、4年かけて仕事をしながら取得しました。その後2007年にインテルに入社し、組み込み系のシステムを担当しました。その後パソコンを担当することになって、メーカーさんをサポートするような仕事をするようになりました。初めて担当したのがソニーの『VAIO P』です。デフォルトOSがWindows 7になる頃ですね。

SONY『VAIO P』

ーー技術本部 部長・工学博士という研究畑の出自でありつつ、BCPのような企画を立て、今回のようなインタビューにも答えていただいているのはかなり珍しいことだと感じます。

安生:私が研究所にいたころというのは、メーカーの研究所の予算がだんだん削られてきて、「自分の研究がどうしたらビジネスになるか考えろ」と言われた時代でした。私はチップのアーキテクト(内部設計)をやっていたんですが、それを自分の手で売りに走り回りました。設計したチップ構想を持っていろんなメーカーさんに足を運んで、例えばプリンター、カメラ、ネットワーク機器など、いろいろなメーカーさんと直接話していると、「使い方を考えられないチップ・アーキテクトに未来はないな」と感じたんです。

 当時から製品を設計するときにビジネスプランも考えるようなことには興味があって、「研究一本で行こう」というような感じではなかったんです。そう思えるようになったのは自分でPh.d.を取った瞬間で、「ちょっと考え方や生き方を変えてみようかな」と。自分の仕事が、自分が設計したものを広げていくというよりは、人が作ったものに人が集まってきて、それで何か大きなことを起こしていく、というイメージに変わったんです。

 その後インテルに入社しましたが、今の私はまさにそういったイメージで仕事をできるポジションにいます。世界中の研究者・開発者が作り上げる新製品や新技術の情報が集まってくる。それを煮るなり焼くなりしながら日本のパソコン産業界に広げていくような仕事をしており、どうやったら日本のパソコン産業にポジティブな影響を与えられるかということを常にイメージしながら働いています。

ーー少し趣味のお話も伺えればと思いますが、ベーシストだとお聞きしました。楽器はずっと演奏しているんですか?

安生:ベースを始めたのは7・8年前ぐらいです。ロックが好きで学生時代はギターを弾いていたんですが、いつしか弾かなくなってしまって。「またやりたいなぁ」なんて思いながらもやらないまま過ごしていたんですが、40歳を過ぎた頃に「やりたいと思ってるならやらなきゃ駄目じゃん!」と思って、御茶ノ水に行って、ベースを買いました。今は趣味のバンドで演奏しています。

ーークリエイターに対して働き掛けるようなプロジェクトを主導するなかで、ご自身の趣味としての音楽が、プロジェクトへの眼差しに繋がる部分はありますか?

安生:僕も手探りでセルフプロデュースをしながら、「こうしたらお客さん来てくれるかな」なんて考えながら活動しているわけですが、だからクリエイターの方々から学ぶことが多いです。というより、話を聞くのが楽しいんですよね。この前もAdobeさんの「Adobe MAX」でインテルとしてブースを出展したんですが、クリエイターさんを20人ぐらいお招きして、1日かけて登壇していただいたんですけど、僕が全員とトークセッションをやったんです。1日中喋り通しでしたが、僕が一番に楽しんでいる。趣味も仕事も、それこそBCPも「面白いことがあったらとりあえずやってみよう」っていう気持ちで取り組んでいますし、特にBCPを立ち上げた3人にはこのマインドが共通しています。

ーーインテルの根幹であるプロセッサーの展開についてもお教えください。昨今は高性能なディスクリートGPUと、オールインワンのSoCがいずれも発展しており、プロセッサーの進化はその需要に応じて二極化しているように感じます。こういう状況をインテルはどう捉え、どんな戦略を打ち出していますか。

安生:私たちは「XPU戦略」という戦略を掲げています。これはCPU・GPUのようなプロセッサーを1チップに統合して、求められる処理に適したプロセッサーに計算処理を任せる仕組みを導入しています。

 先般、米国時間の2023年12月14日に発表したばかりの「インテル® Core™ Ultra プロセッサー」もこの戦略にのっとり、CPU・GPUに加えてNPU(Neural Processing Unit:AIの推論処理に適したプロセッサー)を内包しています。これはインテル製品に初めて搭載されるプロセッサーで、低消費電力でAIを実行できるものです。

Intel Core Ultra プロセッサーの概要とブランドロゴ

 特にノートパソコンにおいて重要なのは、処理速度と消費電力のバランスです。要は作業に対して必要なプロセッサーというのはケースバイケースで違うわけです。GPUは確かに速くて、AIを動かしてもゲームを動かしても速いけれど、消費電力がとても大きい。特にノートパソコンにおいてはバッテリー駆動時間が大事ですよね。加えて最近はAIを実行することも増えました。例えば『Microsoft Teams』や『Zoom』の周りの雑音を消すような機能はAIによるものですが、これは「少しの電力でずっと動いてほしい機能」です。こうした機能の実行にはNPUが役立ちます。

 ソフトウェアの開発者はこうした機能と消費電力のバランスを取りながらアプリケーションを作る必要があるのですが、違うプロセッサーで動かすからと言ってコードを書き換えたりいちいちやってられないじゃないですか。なのでインテルは「OpenVINO」というソフトウェア開発環境も用意し無償で配布しています (https://www.intel.co.jp/openvino-dl)。これを使えばソースコードを書き換えずとも、アプリケーション上の機能を最適なプロセッサーに振り分けてくれるので、合わせて使ってもらえればと思います。インテルプラットフォームのメリットは、「プラットフォームに載っているXPUリソースを、開発者が意識することなく全て使える」というところ。そんな発想で開発者に向き合っています。ソフトウェア開発者向けの取り組みとして、これはBCPとは少し異なりますが、「インテル® AI PC Garden」というAI開発者コミュニティも発足しました。ご興味ある方は是非お気軽にDiscordコミュニティに参加いただければと思います。

ーー最後にBCPの現在の課題や、今後の展望について教えてください。

安生:BCPに参画しているクリエイターの数は発足当時10人程度でしたが、現在は50人近くまで増え、さらに増やしていきたいと考えています。宮本我休さんという仏師の方や玉置ひかりさんという篠笛奏者の方、ダンサーのAsuka YAZAWAさん、など一般的なデジタルクリエイターの枠組みにとどまらないクリエイターさんにも参画していただいています。この輪をもっと広げて引き続きクリエイターを支援していきたいですし、ゆくゆくはこれをコミュニティーとして深化させたい。たとえば参画している皆さんが対話・交流して、全く違うジャンルの人々がコラボレーションしたり、新しいものを生み出したりしてもらえるような動きにも期待しています。また、AIをどう絡めていくかというあたりも考えています。

 1人で生み出すものはもちろんですが、複数の人がコラボレーションして作ったらとんでもない創造性に富んだものが生まれるのではないかと期待してしまいますし、すごくワクワクしています。そのためのに何をしたらいいんだろうといろいろ考えつつ、あとは経営的な側面でクリエイティブそのものを表出するだけではなく、アート的な視点で作品を展開できないかとか、あんなこと・こんなことをやってみたいよねっていうアイデアはとめどなく生まれているので、「インテル、カッコいいね」って言ってもらえるような施策を考えながら、引き続きチャレンジしていきたいと思っています。

■参考情報
https://www.intel.co.jp/content/www/jp/ja/events/blue-carpet-project.html

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