MicrosoftのAI技術『Copilot』が提示した「新時代のWEB検索」とWindowsの未来
11月21日、日本マイクロソフトによるメディア説明会が行われた。チャットAIを用いた『Copilot』サービスの解説を主題としたもので、先日開催されたMicrosoft主催のテクニカルカンファレンス「Microsoft Ignite 2023」での発表内容にも触れながら、現在同社が提供しているAIソリューションについて改めて詳細が語られた。
Microsoftが提供するチャットAIサービス群の名称になっている「コパイロット(Copilot)」とは「副操縦士」という意味で、AIが会話の中でユーザーの求める情報を提示したり、計算や処理を助けたりする姿を表す表現として広く使われている。先日行われた「Microsoft Ignite 2023」でCEOのサティア・ナデラ氏は「Microsoftは『コパイロット・カンパニー』である」と宣言した。これはユーザーの要望に応じて最適な方法・手段を提示するようなソフトウェアサービスを提供していく、という意思表示だろう。すでにMicrosoftの多くのサービスに『Copilot』が導入されており、強力なメンターとして機能している。今回の説明会では特に一般用途でコンピュータを利用するコンシューマ・ユーザーに『Copilot』がどのような恩恵をもたらすのかが多角的に語られることとなった。
はじめに登壇したのは日本マイクロソフト執行役員・コンシューマー事業本部長の竹内洋平氏。コロナ禍中に急増したコンピュータの需要は現在に至るまで持続しており、昨今業界を席巻するAIの台頭はコンピュータの役割をさらに強化するだろうと語った。
「すこし振り返りますが、ここ1、2ヶ月、本当にたくさんのことがありました。「ChatGPT」という名前がまだ出てきてからまだ1年しか経ってないことに驚きを感じます。弊社とOpen AIのパートナーシップ締結とBing Chatの発表、そしてMicrosoft製品にCopilotを順次採用していくということも発表しました。先日開催された「Microsoft Ignite 2023」で、私たちは「コパイロット・カンパニーである」という宣言をいたしました。これはユーザーのみなさんがコンピュータ上で行うことすべてに『Copilot』が貢献していくという意思表示です」
AIによるチャット機能を搭載した検索サービス「Bing Chat」は先週「Copilot in Windows」と名称を変更することが発表されたばかり。この機能は現在プレビューで提供されており、12月1日に正式にリリースを開始するという。この「Copilot in Windows」は一般のユーザーにどのような恩恵をもたらすのか?続いて登壇したマイクロソフトディベロップメント株式会社WWE Japan開発統括本部・プロダクトマネージャーの篠塚祐紀子氏がその恩恵について語ってくれた。マイクロソフトディベロップメント株式会社はマイクロソフトの研究・開発会社で、WWEJapanは日本語環境におけるWindows・MSN・Bingに関するWebのエコシステムの開発を担当する部署であるという。
篠塚氏は以前「Bing Chat」と呼ばれていたBing上で動作する「Copilot」の詳細から解説を始めた。
「WEBの入り口は検索ですが、『Copilot』はこれまでの検索サービスには無い体験を提供します。『Copilot』とこれまでの検索はどう違うのか?これは大きく4つ、『わかりやすい要約』『チャット形式』『画像作成』『創作作業』と挙げることができます」
これら4つの利点についてそれぞれ掘り下げると、
・わかりやすい要約
今までの検索というのは入力したキーワードに応じたリンクが出てきてユーザーはリンクをクリックして欲しい情報を探していくというスタイルだったが、『Copilot』が提供する情報はシンプルにまとまっており、リンクを辿って内容を確認する必要もない。また、ここではリンク先をソースとして示すため、表示される要約の正確性についてもある程度担保されている。
・チャット形式
キーワードベースの検索は「目的の明確な検索」は得意な一方で、ざっくりとした質問の回答を見つけることは苦手だ。チャット形式の検索ではこうした曖昧な情報を取得することも簡単になる。例えば「冬休みに、小さい子供を連れて行ける雪遊びスポットはどこですか?」といった問いかけにも答えてくれるため、複合的な要素を持つ複雑な検索も可能になる。
・画像作成
これは従来の検索サービスとは大きく異なる機能で、WEB上にあるものを見つけるのではなく、新しく画像を生成できるという機能だ。『Copilot』に自分が表現したい内容を伝えるとその通りの画像が生成でき、チャットの中で修正の指示を与えることもできる。
・創作作業
『Copilot』ではメールの文面やパンフレットの下書き(ドラフト)を生成できる。自分の状況と求めている形式を伝えると、柔軟にドラフトを作成してくれるのは、既存の検索体験ーー「メールご挨拶集」のようなWEBサイトにあるテンプレートを組み合わせて文面を作っていくような体験のことーーとは全く異なり、格段に便利に使えるはずだ。
こうした特徴を持つ『Copilot』の基幹には、OpenAI社の開発した言語モデル『GPT-4』が活かされている。とはいえ、いわゆるChatGPTと『Copilot』はサービスの仕組み・特長のいずれもまったく異なるものだ。
「『Copilot』はBing独自の検索アルゴリズムによって信頼できる情報を検索対象にしています。また、常にWEBをクロールしていますので、最新の情報にアクセスできる、ということも大きな違いです。こうしたBingに採用されているMicrosoft独自の技術に『GPT-4』を組み合わせて成り立っているのが『Copilot』です」
この『Bing』で使える『Copilot』については「bing.com」にアクセスすること、またBingのモバイルアプリを使うことで利用できるほか、WindowsデバイスではEdgeのサイドバー、Windows検索ボックス、そして「Copilot in Windows」がインストールされたデバイスではメニューバーの右側に『Copilot』のアイコンが表示され、クリックするだけでアクセスできるということだ。また、「copilot.microsoft.com」というエントリーポイントも用意され、Edge・Chromeで利用できる(Safariにも今後対応予定)。
説明会では具体的な使い方のデモンストレーションも行われた。ユーザーが『Copilot』に「ホノルルマラソンに参加するのだけれど、開催日はいつ?」と質問すると、開催日が出力される。続いて「完走するためにはどんなペースで走るのが良い?」といった質問をすると、前段の質問を記憶したままホノルルマラソンの参加時の勘所を伝えてくれる。さらに日本の電源プラグの写真をアップロードして、「これはアメリカのコンセントに刺さる?」と質問すると、『Copilot』はそのプラグがアメリカでは使えないことを返答した。これは画像を使ったマルチモーダル検索と呼ばれるものだ。
その他にも「語学学習に『Copilot』を活用するデモ」ではPDFファイルをアップロードしたうえで「この記事からTOEIC730点レベルの単語を抽出して単語帳を作って」という質問にも『Copilot』は流暢に答えた。
続いて、日本マイクロソフトモダンワークビジネス本部・Sr.GTMマネージャーの春日井良隆氏が登壇し、Windowsで動作するCopilot、『Copilot in Windows』についての説明が行われた。
現在、Windows 11のバージョン22H2・23H2には『Copilot in Windows』が提供されており、前述のメニューバーに『Copilot』のアイコンが表示されている。また、先日のアナウンスによればすでにアップデートを終えたWindows 10に向けても『Copilot in Windows』のプレビュー版が提供されるという発表がされており、これについては「より多くのユーザーに『Copilot』を体験してほしい」という意図から実施されたという。春日井氏は『Copilot in Windows』の利点として、Windowsの機能や設定とのシームレスな連携を紹介した。
「たとえば『壁紙を変えてください』と伝えれば、設定画面が表示されて瞬時にデスクトップピクチャを変更することができます。Bingの『Copilot』と同様に画像での検索もできるほか、音声入力やペン入力も可能です。また、自然言語に強いので『”コンパネ”を開いて』と伝えればコントロールパネルを開いてくれます。さらに、Windows上で動くさまざまなアプリケーションとの連携もあり、たとえば『リラックスできる音楽を聞きたい』と伝えればSpotifyが起動します」
春日井氏が行ったデモではSpotifyの起動後、「サウンドが流れない」といったトラブルに遭遇したシチュエーションが提示され、ここで『Copilot in Windows』に「音が流れない」と伝えることで、トラブルシューティングを開く様子が披露された。こうしたトラブルに遭遇した際、かつての検索機能では一つひとつの症例を見つけながら対処する必要があったが、『Copilot』を使えば会話をしながらユーザーがトラブルに対処できるようになるということだ。
冒頭の竹内氏の言葉にもあるように、この1年でAIはあらゆるソフトウェア・サービスに影響を与えており、その恩恵は計り知れない。『Copilot』もその例に漏れず強力な機能、というよりもはや「新時代のOS」とも呼べる技術だ。Windowsを中心としたMicrosoftソフトウェア文化圏がAIの力を表出させて今後どのように発展していくのかが楽しみだ。
生成AIをそのままレポートに使ってもOK? 世界の教育現場における生成AI活用ガイドラインの現状
依然として頻繁にニュースで耳にする「生成AI」に関して、教育現場での活用が議論されている。普及しつつある生成AIの使い方について…