『Talk About Virtual Talent』第六回:乾物ひもの
Live2Dモデラー・乾物ひものに聞く、VTuberの“パパ”としての幸せとクリエイター論
スランプを乗り越えて出会ったクリエイターたち
ーー現在はVTuber、そしてモデラーとしてもご活躍されているひものさんですが、一時期スランプにより活動休止をしていた時期がありましたよね。
ひもの:そうですね。心理学の用語で、「ダニング=クルーガー効果」ってご存知ですか?
平たくいうと、初心者のころは自分に自信を持てるけれど、上達したり、目が肥えたりしていくと自信を失っていく、というものなんです。
まさに私はその状態におちいっていました。始めたころは本当に楽しかったし、「私、天才じゃん!」くらいの自信を持っていたんです(笑)。でも、たくさんのプロの方の作品を見るうちに、自分の技術不足を痛感するようになってしまいました。
成長するにつれて、自分の作品に違和感や破綻があることに気づき始めたんです。ただ、気づいたとしてもそこからどうしたらいいのかが分からなかったんです。そのもどかしさから“技術の差”を感じるようになって、少しずつ自信をなくしていきました。
ーーそこから、どのようにしてその壁を乗り越えたのでしょうか?
ひもの:思い切って、2、3か月くらい制作から離れたんです。VTuberデビューしてから、現場を離れたのは初めての経験でした。そうして距離をとっているうちに、だんだん最初にこの世界に出会ったときの楽しさだったり、趣味でやっていたころのワクワクした気持ちを思い出してきたんです。時間をかけて、苦しい気持ちや自信の差を完全にリセットしました。それからは、初心の気持ちを取り戻して一から学び直すことで、ふたたび制作に向き合えるようになりました。
ーーそうして発表した復帰作第一弾が、“ASMR用のモデル”になるんですね。
ひもの:そうです。作ったはいいものの、あまり使っていないんですけどね(笑)。ですが、このモデルがきっかけでkson総長が私のことを知ってくれたんですよ。そこから実際にモデルを制作させていただくことになって、髪型の切り替えや顔の可動域など、たくさんこだわらせていただきました。発表後は本当に多くの方に見てもらえて、いま振り返ると活動のターニングポイントとなる出来事だったかなと感じています。
──復帰作が思わぬ出会いをもたらしてくれたんですね。そういった、ご自身にとってのターニングポイントとなった作品はほかにどんなものがありますか?
ひもの:歌衣イツミさんのモデルも、たくさん新しい挑戦をした作品なので印象に残っています。それまでのLive2Dモデルは、基本的に上半身の動きを見せることがメインでした。イツミさんのモデルは、下半身の重心移動をできるようにしたり、足を動かせるようにしたりと、初めてのことにたくさん取り組んだ作品だったんです。初めての『VTube Studio』用のモデルということもあって、新たなチャレンジをたくさんさせていただきました。
ーー足が動くとなると、3Dモデル的な使い方も含め使える幅も広がりそうですね。
ひもの:そうなんです。下半身が動けるようになると“歌ってみた動画”や、縦画面のショート動画でもLive2Dモデルを使えますし、現実の風景に溶け込んでいるような動画なんかも作れるので、すごく使いやすいと思います。
歌衣イツミさんには、完成した姿を見て「どうしよう可愛い!」と発狂するほど喜んでいただけたので、しっかり作り込んだ甲斐がありましたね。イツミさんもいろいろと新しいことに挑戦してくださって、話題になっていたので本当によかったです。私自身も、イツミさんの活躍を通じて名前を知ってもらえましたし、お仕事の幅が広がったりもしたので、機会をくれたイツミさんには本当に感謝しています。
乾物ひものが突き詰める、『Live2D』ならではのケレン味を活かした表現
ーー改めて、ひものさんの思う『Live2D』ならではの表現や良さについて教えてください。
ひもの:良さでいえば、やはりイラストの質感を残したまま、動かせるところですね。ならではの表現でいうと、『Live2D』は、あえてアニメのような表現ーーケレン味を出すことで、よりリアルかつダイナミックな動きを出すことができるんです。
たとえば横を向いたときの口のかたちですが、現実ではこんなアニメ的なかたちにはなりません。でも『Live2D』ではすこし極端に表現した方が、自然に感じるんですよね。
3Dでもこのアニメ的表現は可能なのですが、『Live2D』の方がある種のハッタリを効かせるのが得意なんですよね。私としても、このハッタリをどう効かせるかについてを考えるのが1番やっていて楽しい部分です。
ーー現在のモデルにもいろんな仕掛けがほどこされている?
ひもの:そうです! ほかの部位でいうと、体全体にも仕込みをいれていますよ。たとえば、人間って体を揺らしたり回転させたりすると、肩も一緒に動きますよね。私が制作したモデルでは、肩がすこし後からついてくるように動かしています。
人間は実際にこのように動くことはありませんが、人体の動きを完全に再現してしまうと逆に不自然になってしまうんです。なので、こういった表現を利用して「柔らかい動き」を意識しています。
ーーひものさんといえば、Live2Dへのハンドトラッキング搭載も話題になっていましたね。
ひもの:ありがとうございます。ただ、じつはハンドトラッキングについてはまだ試作段階なんです。いまは私の手のデザインにあわせて調整しているんですが、ほかのイラストレーターさんの絵柄になるとどのように見えるのか、そこがまだ分からないんですよね。
あと、自分のモデルなのでコストも度外視ですし(笑)。実際に依頼としてお受けするには、もう少し制作コストを下げていく必要があるかなと思っています。