「バーチャルな在り方」のポップカルチャー化が進む 有識者が振り返る“2023年のバーチャル”

  バーチャルYouTuber(VTuber)が当たり前の存在となってはや数年が経つ。かつて「画面の向こう側の遠い存在」だった彼ら/彼女らは、我々の生活に浸透し、生活圏で目にすることも増えた。こうした中で、「バーチャルな存在」という在り方もまた変容を続けている。

 今回、リアルサウンドテックでは3人の有識者ーー草野虹氏、たまごまご氏、浅田カズラ氏が語り合う座談会を企画。2023年の振り返りを軸に、バーチャルタレント業界の現在について語り合ってもらった。(編集部)

■草野虹


福島、いわき、ロックの育ち。KAI-YOU.net、SPICE、indiegrabなどでライター/インタビュアーとして参加。音楽プレイリストメディアPlutoのプレイリストセレクターとしても活動中

■浅田カズラ


xRとVTuberを追いかけ続けるバーチャルライター。xR/VTuber関連のニュースをデイリーでまとめる業界情報ブログ「ぶいぶいているろぐ」を運営。

■たまごまご


マンガ、VTuber、VRの話題など書いているオタク・サブカル系ライター。活動媒体はMoguLive、コンプティーク、PASH!、ねとらぼ、QJwebなど。女の子が殴りあうゲームが好きです。

ーー今年もバーチャル業界は激動の一年でしたね。さっそくですが、まずはみなさんの「異業種・異分野からのVTuber/VRを使ったアプローチ」で記憶に残っているできごとについて伺っていきたいと思います。

たまごまご:今年でいうと、やっぱり『アイドルマスター(アイマス)』がバーチャル路線にも手を伸ばしはじめたのは大きかったなと思っています。『アイマス』はVTuberが盛んになってから相性がいいコンテンツだと言われていたんですけど、公式がずっとバーチャル路線の展開をぐっとためていたようなジャンルなんですよね。『アイマス』の星井美希が『SHOWROOM』で生配信をしたり、『DMM VR THEATER』でMRライブをやったことはありましたが、それくらいで。

 でも、今年になって爆発的に展開しましたね。MRプロジェクトとして『vα-liv(ヴイアライヴ)』が始まりましたし、「アイマス」の(天海)春香さんも最近は「実在する1人の人間」のように扱われている。『アイドルマスター』というコンテンツ・IPとバーチャルとを絡めて、本物の人間とキャラクターの“境界線”をなくしていこうという狙いを感じます。

草野:昨年の座談会の後編で、僕とたまごまごさんがまさにその話をしていて。ちょうどMRプロジェクトのデモンストレーションPVが夏に公開されていたこともあって、すごいアクションをしそうだなと思っていたんですよね。

浅田:僕、それこそ『vα-liv』などを含む「IP軸戦略」(「PROJECT IM@S 3.0 VISION」)のカンファレンスに行ったんですけど、そのとき、『アイマス』のキャラクターたちを「フィクションの登場人物」として扱うのではなく、「存在する人物」として扱っていて。そういうレイヤーに思い切って踏み込んでいるのが印象的だったんです。

【PROJECT IM@S vα-liv】<第一弾>ティザーPV

 これって、まさに今年始まった『ラブライブ』の「蓮ノ空女学院スクールアイドル」とか、先日デビューした『バンドリ!』の「夢限大みゅーたいぷ」と似ているなと。いってしまえばフォーマットはあきらかに「VTuber」なんだけれど、本質としてはキャラクターですよね。こういうレイヤーの扱い方に関するシフトが今年はあったなと感じています。

くさの:そうですね。僕らのような少し上の世代からすると、「これはキャラクターでこれは声優さんで」という風に分けて見るんだけれども、ダイレクトに刺さっている若い世代からすると、全部一緒の地平に見えているのかもしれません。だから平等に受け取られてるし、ファンも熱狂するのかなと。

浅田:草野さんのおっしゃる通り、見方がフラットになってきてるのかなとは思っています。VTuberも、見た目や出自をありのまま受け取る文化じゃないですか。そこには「今見ているものが目の前にあるんだから、真実として扱っていいじゃないか」という、ある種の共通見解みたいなのがあると個人的には思っていて。そういうフラットな見方が、今の10代、20代の間で当たり前になってきているのかなと思っています。

くさの:そもそも我々の世代でいうとClariSなどが該当しますが、「姿をあまり見せないようにしたいけどシンガーソングライターとかシンガーとして活動したい」という人自体は昔からいて、いまだとAdoさんがそこに入ってきますよね。そこにキャラクターのアバターを乗っけてみるとか、VTuber的なやり方を乗っけてみるとか、そういうやり方が少しずつ広まっている感じがします。

【LIVE映像】唱 日本武道館 2023.8.30【Ado】

 今年はソロシンガーやソロアーティストとしてバーチャルシーンで長く活動してきた方々が、リアルの姿を出して活動する動きがかなり活発でした。長瀬さんもそうですし、七海うららさん、奏みみさん、パン野実々美さんなどがそこに当たるかなと思いますこういった動きを、若い世代からすれば「どっちもその人でしょう」という受け取り方になるんでしょうね

たまごまご:表現者が、自分を表現するためにバーチャルの姿でやりたいことをやって、かつリアルの姿も出して、でも「どっちも自分です」という、みすみゆうかみたいなスタイルの方が最近増えてきたんですよね。

くさの:1人の配信者が自分のビジュアルを選ぶ選択肢のひとつとして、アニメのルックスがありますよ、ということですよね。

たまごまご:着替えのひとつですよね。もちろんファンの好みはわかれるでしょうけど、表現の幅が広がるのはいいことだとも思います。

浅田:でも、いま現在のバーチャルタレントのメインストリームが「ノンフィクション」だとすると、その反動で、「リアルタイムなフィクション」で盛り上がる動きが出てきても不思議ではないと思います。これは長期観測をして眺めていくしかないんだろうなと。

たまごまご:そうですね。たとえば「苺病くすり」みたいな、世界観を徹底して壊さないようにしながらやり続けてる方もいて。そういうところには固定ファンがついてるイメージはありますね。

浅田:ある意味その変形が『Project:;COLD』とかなんですかね。

不可逆性SNSミステリー 「Project:;COLD」 |公式PV

くさの:だと思いますね。世界観をしっかりした上で、キャラクターはキャラクターであるけどもあまり中心にしすぎない。もっと違う要素を置くことによって、そっちの方で面白みを出すっていう。

たまごまご:それこそ『アイマス』がぴったりなのでは?

くさの:そうなんですよ。ゲームメーカーでいえば、Cygamesはバーチャルをやらないのかな?と気になっています。

たまごまご:『グラブル』のライブは毎回すごいんですけどね。MR演出としてとんでもないことをやっているけれど、別にVR業界に殴り込みという雰囲気は感じないですよね。

【グラブルフェス2023】Day1生中継

――CygamesはどちらかといえばRiot Gamesが『リーグ・オブ・レジェンド』の世界大会でやっているようなMRパフォーマンス寄りですよね。会場と配信とで、まったく見え方が異なるという。ここ数年のホロライブのライブも近い印象です。

たまごまご:MRを使って実体があるかのようにライブを見せるのは、ホロライブが得意とするところですよね。ホロライブの話をすると、今年は特に強くキャラクターIPとして売り出している気がしていて。配信の方は実写カメラで手を出したりとアクター寄りになりつつあるんだけれども、IPコンテンツとしての扱いが濃くなっていった感じがします。

浅田:VTuberって、当初の構想は2次元がリアルにやってきたみたいなコンセプトだったと思うんですけど、もうその逆ですよね。リアルの存在が2次元へ行ってしまって、フィクションになってしまうっていう。

たまごまご:この流れで話しますけど、コンビニとかにホロライブやにじさんじのグッズが常時あるような状態が生まれてきたのと合わせて、去年か今年くらいから配信者グループのグッズがよく並ぶようになりましたよね。

浅田:増えましたね。

たまごまご:僕の体感では、ここ1、2年の流行だと思うんですけど、僕から見ると配信者もこんなになるんだという驚きがあって。でも若い子からしたらどっちも同じなんですかね。

くさの:そうだと思います。たとえば「すとぷり」って、今でもYouTubeでゲーム配信するしツイキャスで雑談することもあるし、その活動をつぶさに追いかけてみると、「これVTuberじゃん」と言いたくなるんですが、すとぷりの活動は2016年~2017年からスタートしているのである種VTuberの先輩的な見方もできるのかもしれません。

――まだ「ストリーマー」という言葉が浸透する以前、『FaceRig』がTwitchでめちゃくちゃ流行ってた時期もありましたね。

浅田:なるほど。VTuberも急に出てきたわけではなくて、ゆるやかに存在していたユーザーのトレンドが、ある日カタチを得てうまれたものなのかもしれないですね。

たまごまご:先ほどの話も含めて、今の配信者の方がアバターを身に着けるようになってきたのは、新しい衣装を身に着けるのと変わらないと思うんですよ。だけどやっぱり「VTuber」を名乗るとなると、かろうじて線引きがあるのかなっていう感じがしますけど、最近はそうでもないんですかね。

浅田:本人が自認しているかどうかでしかないんですよね。近い事例でいうと、いわゆる『VRChat』を初めとしたソーシャルVRの住人も日常的に3Dアバターを持って活動してるし、なんなら動画とか配信とか、TikTokでそのアバターの姿で活動することもあるんですけど、自認はVTuberではないという人も多いです。便宜上、相手にイメージが伝わりやすいのでVTuberという呼称を使うけれど、別にVTuberであるとは思っていない。そうなってくるとVTuberって、表現手法でありつつ“名乗った瞬間に成立する概念”になってきてるんだろうなと思います。

たまごまご:境界のない、ただの言葉になった気はしますね。いい意味で。

草野:『アイマス』のバーチャル化やMRプロジェクトも含めて、キャラクター/タレントのバーチャル化がすごく多かった年だとも思います。後藤真希さん、今井麻美さん、CMの一環ではありますが温水洋一さん、二宮和也さんも。広瀬香美さんも今年は自身のアバターを手に入れたんですよね?

たまごまご:ちょうど先日まで開催されていた『バーチャルマーケット 2023 Winter』でライブも披露していましたね。広瀬香美さんのバーチャル化は、本人がやる気満々なのがいいですね。それから、最近の事例は本人の持つキャラクター性をうまく活かしてバーチャル化しているのも素晴らしい。

浅田:そういった事例が増えるのも、ある種VTuberがポップカルチャーになった証拠なのかなと思いますね。

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