連載:エンタメトップランナーの楽屋(第九回)
プリキュアは“破壊と挑戦”の繰り返し FIREBUG 佐藤詳悟×アニメプロデューサー鷲尾天対談
壊して、挑戦して、前に進んでいく
佐藤: 放送開始から20年という期間の中で、作品を取り巻く状況は大きく変わり、特にSNSが生まれたことは大きい出来事だと思います。プリキュアシリーズの制作においても、SNSの意見を意識することはありますか?
鷲尾:難しいですよね、SNSとの付き合い方って。ただ、プリキュアシリーズがターゲットとしている4〜6歳の子どもは(年齢制限的に)SNSで発信をしないじゃないですか。だから時代の空気感や、おもちゃ屋さんで子どもたちがなにを見ているのかといったことを大事にしているのは、いまでも変わっていません。
佐藤:そうなんですね。では、SNSの意見はあまり意識しませんか?
鷲尾: うーん、意識しないわけではないですがSNSでのリアクションを期待して作品を作るのは本意ではないというか……。
佐藤:と、言いますと?
鷲尾:今年、『Dancing☆Starプリキュア』The Stageという2.5次元ミュージカルを上演しました。主役のプリキュアが全員男の子という、初めての試みです。始まる前はSNSで炎上に近いような状態になっていたのですが、始まってみると割と好意的に見てくださる方が多かったんですよね。
佐藤:なるほど。
鷲尾:そういった状況を見ていると、発信する側はなにが起きるか分からないとしても勇気を持って前に進むことがやっぱり必要なのではないかと思ったのです。
自分のなかで思い描いていることが例え充分に伝わり切っていないとしても、批判を耐え抜くくらいの強い気持ちがなければ、なかなかできないなとは思いますけどね。
佐藤:この20年、SNSだけでなく視聴するためのハード面も変化してきたかと思います。テレビだけでなく、子どもがスマートフォンやタブレットを利用してコンテンツを楽しむことも珍しくない。そういった変化については、どうご覧になってきましたか?
鷲尾:子どもが触れるコンテンツや手段の選択肢は増えたとは思います。配信は手軽ですが、大海に小石を投げ込むように大変なことだというイメージを持っています。ただもちろん、そういった時代の変化は考えなければならないとも思います。
プリキュアシリーズは最初に2人で始まりましたが、5人になり、パティシエやプリンセスなどのモチーフを持ち、またバトルアクションをしないシリーズもあります。子どもたちが観ることを意識しながらも、その時代に合っていて、なおかつプリキュアとして成立するよう作ってきました。
佐藤:コンテンツが時代に合うように意識して制作したとしても、これだけコンテンツが多様化してしまうと、なかなかたくさんの人に観てもらい続けるのは難しいところもありますよね。
鷲尾:そうですね。いまの時代に育つ子どもたちがこの先どうなっていくのか、興味深いですよね。実際、プリキュアの認知率は徐々に下がってきているんです。それはYouTubeだったり、配信コンテンツだったり、違うものに興味を引かれているのだろうと思うので、もちろん課題ですよね。
佐藤:昔は、学校の教室の9割くらいが前の日に放送された人気テレビ番組のことを話していましたけど、いまはアニメ好き、K-POP好きといったように興味が細分化されたグループがいくつかあって、マス的な共通言語が少なくなっている傾向はあると思います。
ただ、グローバルで見てみると、プリキュアを好きな人たちが集まっている母数自体は増えているかもしれませんよね。
鷲尾:実際、海外のイベントに行って日本のアニメ作品の人気ぶりをみると、ストーリーやキャラクターが魅力的であれば、世界中の人が惹きつけられるのだと実感します。
コンテンツが多様化しただけでなく、技術の発達によって、同じコンテンツを世界中の人がリアルタイムで楽しめるようにもなりましたよね。だからコンテンツと人との距離は近くなったと思います。
佐藤:最後に、プリキュアシリーズが20年続いてきた理由はなんだと思いますか?
鷲尾:古いものを壊しながら新しいものを作ることに挑戦し続けてきたからかもしれません。「プリキュアは魔法使いではない」なんて別のインタビューで言っておきながら、魔法を使うプリキュアを生み出していますからね。
そうして、自分が言ったことですらも否定しながら前に進んできました。否定した先に新しい芽があるかもしれない。そういう意識と行動があったから、続けてこられたのかもしれません。
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