『スーパードンキーコング』への帰還、そして世界的な活躍へ デビッド・ワイズにとっての“ゲーム音楽”とは

和風サウンドへの接近──『Tengami』

 2014年2月19日に配信されたパズルアドベンチャー『Tengami』は、独立後のデビッドが最初に音楽を手がけたインディーゲームである。同作はレア社で『Kinect スポーツ』などの開発に参加したジェニファー・シュナイダーライトと、『スターフォックス アドベンチャー』『カメオ:エレメンツ オブ パワー』でリードソフトウェアエンジニアを務めたフィル・トセルが共同設立したインディーゲームスタジオ・Nyamyamのデビュー作にあたる。開発はジェニファー、フィル、アートワーク/エフェクト担当の東江亮(氏もレア社出身である)の3人を中心に進められた。

 日本神話をモチーフにした純和風の世界観や和紙で表現されるビジュアル、飛び出す絵本の仕掛けを取り入れたゲームシステムで幅広い年齢層の支持を獲得し、世界各国で好セールスを記録したことでも話題となった。「ゲームを初めて見たとき、サウンドトラックでどういった実験をしたいか直感的にわかった」というデビッドは、箏の音色を全面的にフィーチャーし、エレクトロ/アンビエント・ミュージックの曲想と侘び寂びの情緒が結びついた楽曲で新たな方向性を模索している。


Tengami Original Soundtrack

Whilst I've listened to a lot of Japanese and Chinese music, I have never really explored the instruments, such as the Koto, in any great depth. I'm fascinated with the way the musicians are able to bend the strings to add to the intrigue of the melodies. That's something I'd like to learn more about and develop more if I ever have the opportunity.

(日本や中国の音楽はよく聴いてきましたが、箏のような楽器をあまり深く追求したことがなかった。演奏者が弦を曲げてメロディを魅力的にする方法に魅了されました。機会があればより勉強して発展させたいですね)

If I were to do another game in a similar style to Tengami, I would at least get hold of a real Koto and have a few lessons to understand in more depth how the instrument works. For Tengami I merely watched and emulated as best as I could, so I’m still very much at the beginning of this journey.

(もし自分が『Tengami』と同スタイルのゲームを作るとするなら、本物の箏を入手して、楽器の仕組みを深く理解するためにレッスンを受けると思います。『Tengami』では見よう見まねで出来る限りのことをやっただけなので、この旅はまだ始まったばかりです)

★Feature Q&A: David Wise on composing music for Tengami
【The Ongaku|2014年6月11日】
https://www.theongaku.com/posts/david-wise-on-composing-music-for-tengami

かつての同僚たちが再集結した『Yooka-Laylee』『Tamarin』etc

 その後、デビッドはスティーブ・ジャクソンのゲームブック四部作『ソーサリー』の第1作『魔法使いの丘(シャムタンティの丘を越えて)』を原作とするアドベンチャーゲーム『Sorcery!』(開発:Inkle/2013年5月配信)、クラシックスタイルの横スクロールシューティングゲーム『Star Ghost』(開発:Squarehead Studios/2016年3月配信。2017年11月30日にNintendo Switch向け日本語版配信)、ヘビを操作する3Dアクションゲーム『スネークパス』(開発:Sumo Digital/2017年3月配信。2018年10月25日にPlayStation 4・Nintendo Switch向け日本語版配信)、オープンワールド型アクションゲーム『Yooka-Laylee』(開発:Playtonic Games/2017年4月配信。2018年6月14日にNintendo Switch向け日本語版、2021年7月17日にXbox One向け日本語版配信)の音楽を制作。Inkle、Squarehead Studios、Playtonic Gamesはいずれも元レア社のクリエイターがコアメンバーとして名を連ねている。

 『ソニック&セガ オールスターズ レーシング』『リトルビッグプラネット3』などの開発を手がけてきたSumo Digitalが自社オリジナルタイトルとして発表した『スネークパス』は、独自の物理エンジンを採用し、ヘビのうねる動きをゲーム性に落とし込んだユニークな一作。『Snake Rattle 'n' Roll』『バンジョーとカズーイの大冒険』など、往年のレア社の開発タイトルから多大な影響を受けたクリエイターたちによって開発が進められた。とりわけゲームデザインを手がけたセブ・リーゼは筋金入りのデビッド・ワイズファンでもあり、開発が本格化する前からデビッドによるサウンドトラックを熱望していたという。デビッドは熱帯地域と「天」「地」「火」「水」をモチーフとした各ワールドの有機的な風景やゲームの緩やかな操作感との調和を図るべく、竹製打楽器や木製管楽器をふんだんにフィーチャーしたラテン音楽スタイルの楽曲を制作し、セブの念願を叶えた。サウンドトラックは500枚限定のレコード盤としてリリースされた。

 カメレオンのユーカとコウモリのレイリーのコンビが活躍する『Yooka-Laylee(ユーカレイリー)』は、『バンジョーとカズーイの大冒険』の精神的後継作として開発された。ワーキングタイトルは『Project Ukulele』。ユーカとレイリーのネーミングもウクレレに由来している。ディレクターは『スーパードンキーコング』『バンジョーとカズーイの大冒険』などのメインプログラマーや『あつまれ!ピニャータ』のプロデューサーを務めたクリス・サザーランド。キャラクターアートディレクターは『バンジョーとカズーイの大冒険』のキャラクターデザインや『あつまれ!ピニャータ』などのアートを手がけたスティーブ・メイレス。キャラクターアーティストは『バトルトード』『キラーインスティンクト』『ディディーコングレーシング』などにグラフィックデザイナーとして関わったケビン・ベイリス。コンポーザーはグラント・カークホープ、スティーブ・バーク、デビッド・ワイズと、レア社黄金期メンバーのそろい踏みである。気心が知れた仲間たちとの制作は和気藹々と進められ、レア社時代の雰囲気が再び戻ってきたかのようであったという。それぞれの担当曲もすんなりと決まり、三者三様のスタイルを示しながらも相互補完的でまとまりを感じさせるサウンドトラックが自然と出来上がっていった。

Yooka-Laylee (Original Game Soundtrack)

 グラントはウクレレをフィーチャーしたメインテーマを皮切りに、陽気なアコースティックサウンドやユーモラスなシンフォニックスコアを中心に制作し、『バンジョーとカズーイの大冒険』の雰囲気の再現に注力した。スティーブはゲーム中のミニゲーム(80~90年代のアーケードゲームスタイル)の楽曲を担当し、ストリングスサウンドとチップチューンの鮮やかなミックスを聴かせる。デビッドはミニゲーム(トロッコ)の5つの楽曲、2体のボスBGM、エンディングテーマの計8曲を担当。『スーパードンキーコング』の「マインカートコースター【Mine Cart Madness】」と『ディディーコングレーシング』のスタイルをベースに躍動感を加味したトロッコの一連の楽曲は、きらびやかなシンセサウンドと爽やかなアコースティックサウンドの塩梅が絶妙だ。湿地帯ステージボス「トレブザテンテイクル」のテーマ「Armed and Dangerous」ではハードなパーカッションサウンドを全面に押し出し、都市部ステージボス「I.N.E.P.T.」のテーマ「Track Attack」では熱の入ったギターソロを聴かせるエレクトロ・ブラス・ロックに仕上げた。エンディングテーマ「Tropic Trials」ではメインテーマと同様にウクレレがフィーチャーされ、マリンバ、スティールパン、フルートがにぎやかに彩る。

 2019年10月8日にはスピンオフ作『Yooka-Layleeとインポッシブル迷宮』が配信。本作では一転して『スーパードンキーコング』を彷彿とさせる2Dアクション・アドベンチャーとなり、音楽面においても、『バンジョーとカズーイの大冒険』のイメージを念頭に置いていた前作の方向性を刷新する方針がとられた。元TT Gamesのマット・グリフィンがメインコンポーザーを務め、要所の楽曲をデビッド・ワイズ(13曲)、前作オーディオディレクターのダン・マードック(11曲)、グラント・カークホープ(5曲)が担当。デビッドが「2作目ではウクレレの意外な使い方を試すことのほうがはるかに多かった」と語るように、アイリッシュ・ミュージックやアンビエントテクノ、チェンバーポップスタイルの楽曲にウクレレを積極的に採り入れることで新味をもたらした。

Yooka-Laylee and the Impossible Lair (Original Game Soundtrack)

 「Capital Causeway」では中盤のフィドルのメロディが郷愁を誘い、口笛やトランペットも交えて楽しげな雰囲気にあふれた「Frantic Fountains」からは往年のブリティッシュ・ポップの空気も感じさせる。ロー・ホイッスルを交えたアコースティック・アンサンブル「Scareship Scroll」は、デビッドの一番のお気に入りだという。全5曲の「Impossible Lair」ではミクスチャー・ロックやプログレッシブ・メタル的な展開もみられ、ヘヴィでシリアスなアプローチで最終ステージの難易度の高さを印象づける。

 2020年9月10日に配信された『Tamarin』は、ロンドンに拠点を置くChameleon Gamesの開発デビュー作。自然環境と野生動物からのインスピレーションと、『スターツインズ』などのNINTENDO64時代のレア社の開発タイトルを彷彿とさせるレトロな雰囲気、そしてアクション・アドベンチャーとサードパーソン・シューティングを組み合わせたゲームデザインを特徴としている。ビジュアル面と音楽面で元レア社のクリエイターが関わり、コンセプトアートにケビン・ベイリスとリチャード・ボシェ(『ドンキーコング64』開発スタッフ)、キャラクターデザインにスティーブ・メイレスとリチャード、コンポーザーにデビッド・ワイズとグレーム・ノーゲート(サウンドデザイン&アンビエンス・トラックを担当)が名を連ねた。可愛らしい小猿の主人公タマリンが、美麗な大自然のフィールドを闊歩する毒々しい色合いの武装昆虫軍団を銃で殲滅していく絵面に面食らうかもしれないが、リスのコンカーが傍若無人の限りを尽くすブラックユーモア満載のアクションゲーム『Conker's Bad Fur Day』をかつてのレア社が発表していたことを思い返せば、はるかにマイルドな印象である。

Tamarin(Steam)

 Chameleon Gamesの創設者であり、本作のクリエイティブ・ディレクターを務めたオマー・サウィは一貫して実験的なスタンスで本作の制作に取り組んでおり、クリエイターにも従来とは異なるアプローチをとるよう提案したという。音楽面ではキャッチーなダンスミュージックをオーダーし、デビッドは昆虫軍団の脅威をソリッドなシンセサイザーサウンドで表現した「Insekt Faktory」「Insekt Industries」の2曲で応えている。ロボットボイス風のシンセフレーズを交え、醒めたグルーブ感でじわじわと押す展開が印象的だ。他方で、シンセサイザーでダイナミックに描きだされる「Fraena Forest」はメインテーマ級の存在感を放ち、故郷と家族を昆虫軍団に奪われたタマリンの心象風景をハープとフルートの旋律が物悲しく描く「Tamarins' Home - Burning」や、山々とフィヨルドの広大なイメージを喚起させる「Fraena Mountain」「Eyja Mountain」「Lyngna Fjord」ではアコースティック楽器を基調とした美しいアンサンブルを堪能できる。

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