なぜ自治体がメタバースに本格参入? 『メタバースヨコスカ』制作の裏側を聞いた
反響は外部へと広がる 「UGC(User Generated Content)」が創出するPRのかたち
――3Dアセットについてもう少しお話をうかがえればと思います。スカジャンをはじめとした3Dアセットを無料配布するというのは、かなり思い切った取り組みだと思います。この施策に至った経緯をお聞かせください。
小山田:リアルにおける観光地とも共通する課題なのですが、その場所へいろいろな方に来てもらうのが命題であると同時に、限界があるとも思っています。ですが、スカジャンをアバターの普段着として取り入れてもらえれば、それだけで横須賀市のPRにつながります。そう考えれば、じつはPRとしてかなりコストが安いんです。
本当はショッピングバッグのように、もっといろいろなアイテムをワールドに配置した上で無料配布したかったんですけど、今回は往来さんからの「ファッションでプッシュしよう」というアドバイスのもと、スカジャンをメインに仕掛けた次第です。
――横須賀グルメの3Dモデルもかなり品数がありましたよね。あれでも厳選した結果ということですか?
小山田:そうですね。実は当初、横須賀の3Dモデルで「いらすとや」さんのようなことをやりたかったんです(笑)。往来さんにも、最初はその方向でご相談させていただいてました。
私は『Fortnite』のクリエイティブモードが好きなんですが、あちらでもクリエイターの方々がアセットをたくさん使って、どんどんワールドを作成・公開しています。そうした活発な動きが起こるのも、フリーのアセットがあってこそだと思います。だからこそ、同じような動きを『VRChat』でもやってみよう、と考えたんですよ。
――今回公開されたアセットは、法人による商用利用が最初から許可されていたりと、利用規約が緩いのも特徴です。使用を促進することによるPRを狙っているということですか。
小山田:はい。『VRChat』だけでなく、ゲーム開発などにも自由に使っていただければと思っています。今回のワールド自体も、『VRChat』ユーザーの方にイベントなどでどんどん使っていただきたいなと思っていますね。
mehori:スカジャンを使われている方は「無料でスカジャンをもらえた!」と思われていると思いますが、我々のほうがもっと多くのものをいただいているんです。
スカジャンのリリース後、X(旧Twitter)で「スカジャン VR」などのキーワードを検索すると、非常によい構図で撮影された「スカジャンを着たユーザーの写真」や、MMDモデルによるダンス映像などがたくさん出てくるようになりました。その一つ一つが、多くの方に見ていただいている。PRとして考えたときに、これは本当に大きなことなんです。
――「UGC(User Generated Content)」の促進によってPRが成立するというのは、おもしろい状況ですね。同時に、ユーザーが文化を作っているメタバースならではの施策だと感じます。
mehori:まさに、ユーザーの自己表現と横須賀市のPRが、ギブ・アンド・ギブのように成り立っている状況がいま生まれています。それはすごく素晴らしいことだなと思っていますし、大変感謝しています。
――スカジャンも含めた『メタバースヨコスカ』の第1弾施策実施後、どのような反響がありましたか?
小山田:本当に、想定以上の反響をいただいています。ニュース記事もWEBメディアが主でしたが、記者会見のあとで新聞社にも2社、かなり大きめに取り上げていただきました。もう少し限られたコミュニティの中で盛り上がるものと思っていたので、これは想定外でしたね。
コミュニティの内側で盛り上がると同時に、コミュニティの外側でも「市役所がちょっと変わった、斬新な取り組みをしているぞ!」と注目していただけたのは、とてもよいPRになったと捉えています。
mehori:数値の面でも、現時点(取材日の2023年11月8日時点)でワールドの訪問数は約2万回、ワールドをお気に入り登録していただいた数が3700件に達しています。10月27日以前からプレオープンはしていたのですが、ほとんどは正式オープンからの数値なので、かなり好調です。
――2週間足らずで2万訪問は、『VRChat』ワールドの中でもかなり多いほうですね。どんな方が訪れているのでしょう?
mehori:多くの方が、『メタバースヨコスカ』のスカジャンを着て撮影する場所として訪れているみたいなんです。我々もきちんと想定していなかったのですが、スカジャンを着て行く先や、映える場所はどこかといえば、よくよく考えるとこのワールドが一番なんですよね(笑)。うまいこと相乗効果が生まれていると思います。
小山田:意識してフォトスポットを作ったのも大きいですね。『VRChat』はフレンドと一緒に写真を撮る文化がとても人気なので、「ここで撮影したい!」と思ってもらえる雰囲気はすごく大事だなと思います。
その意味で、やはり「DOBUITA」のロゴが入ったシャッターアートは作ってよかったですね。世界的なアーティストに描いてもらった、現実の「ドブ板通り商店街」にもあるものなんですが、それをフォトグラメトリ化して持ってきたものなんです。やはりその前で撮影されている方がとても多いです。
ぴちきょ:スカジャンの方も、『BOOTH』だけで、男女それぞれのバージョンを合計して13200弱のダウンロードを記録しています。『VRoid Studio』向けのアバターも含めると、プラスで1900体ほど(2023年11月8日時点)。こちらもかなりダウンロードされたなと思います。
――かなりのダウンロード数ですね。実際、体感でもあのスカジャンを着ているユーザーが増えている印象です。
ぴちきょ:ファッションはコミュニティからコミュニティへと伝播しやすいのも大きいですね。私も、ファッションコミュニティにいるユーザーが、VRアイドルのライブイベントへ着ていき、そこからアイドルコミュニティにも広まる、という流れを観測しています。
mehori:スカジャンをダウンロードされた方の中には、『VRChat』ユーザーだけでなくゲームクリエイターや、VTuberのプロデューサーなど、我々も想像できないような人がいるのではと思います。気がついたらゲームの中で使われていたとか、VTuberの動画に登場していたとか、そうしたさらなる広がりにも期待していますね。
ぴちきょ:実際、ゆいぴさんからは、あの「EXTENSION CLOTHING」が手掛けているハイクオリティなアバター衣装ということもあり、CGクリエイターさんが勉強のためにダウンロードしているようだ、という話も聞いていますね。
――『VRChat』の外へと広がり得ると。無料というだけでなく、規約面のゆるさも活きてきそうですね。
小山田:あと、反響という意味では、先日「三笠保存会」にお邪魔した際、実際にVRヘッドセットを被って『DOBUITA & MIKASA WORLD』を体験していただく機会がありました。ワールド公開後、「三笠保存会」の方にもメタバースに関する問い合わせが増えたそうで、「そうやって興味を持っていただけた方を、ちゃんと我々も理解した上でお迎えしたい」ということで、VR・メタバースに関する勉強会を行なうことになったんです。
それから、11月には『メタバースヨコスカEDUCATION』という教育プログラムも始動する予定です。市内在住の学生や社会人を対象に、『Blender』や『Unity』を勉強してもらい、それこそ『BOOTH』に出品できるようなものを作れるような人を増やしていこう、という取り組みです。
mehori:これ、本当にすごい話なんです。高校生に「パソコンを教える」と言ったら、普通は「ワードの使い方」や「プログラミング」あたりを教えると思うんです。だけど横須賀では「3Dアセットの作り方」という、高付加価値なクリエイティブを教えようとしている。他の自治体でもあまり聞いたことのない、とても未来志向な取り組みだと思います。
小山田:なにせ私も受講したいくらいなので(笑)。
――自分もです(笑)。「未来の3Dアセットクリエイター」が横須賀市の教育プログラムから生まれて、『BOOTH』でヒット商品を生み出すようになったら、とてもおもしろいことになるでしょうね! 最後に、『メタバースヨコスカ』の今後の展開についても教えていただけますか?
小山田:12月に、第2弾ワールドとして、猿島をモチーフにしたワールドを公開予定です。こちらでは、ギミックをフル活用した遊びを取り入れた、『DOBUITA & MIKASA WORLD』ともまた異なるワールドになる予定です。
そこから先も、年度内にまだまだアップデートを予定しています。今後に期待に乞うご期待、ということでお願いいたします!
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