『SXSW Sydney 2023』を通して考えた「テクノロジーと人々の現在と未来」

 そして、最後に筆者が参加したセッションーー「Fireside Chat at Conference Mainstage: The Evolving Work Relationship」について触れていこう。これは先ほどの2セッションに登場したOliver氏とLeanne氏の対話も、良いテーマが次々に挙げられた。「失敗を認める企業文化」「家庭と仕事の両立」や「スタートアップと大企業の違い」「リーダーシップとは?」という主だったトピックから、興味深い会話をひとつだけ引用したい。

 「失敗を認め・成功を祝う企業文化」についてのパートで、Oliver氏は「みんな一生懸命働いて、何かを成し遂げたいと思っている。私たちは常に完璧な結果を求めているから、何か素晴らしいことを成し遂げても『まだ完璧ではない』と思いがちだが、95%のところまで到達したのだから、95%まで達したことを祝福する必要がある。リーダーはそれを認める必要がある」というコメントや、Leanne氏の「小さな勝利を祝うことは、大きな勝利を待って祝うのでは遅すぎる。チームとして祝おうじゃないか、と言える時間が必要。ただ一緒に挽回するだけでなく、物事がうまくいったときには、たとえそれが80%でも90%でも祝福するんだ」と語り、「昨晩、私たちのチームの一人が業界のイベントで賞を受賞しました。なぜ私たちが業界のイベントに色んな人を推薦するのかというと、彼らは家族のもとへ帰って『ほら、私がやったことを見て』と誇りに思うことができるから」と具体的なエピソードを話してくれた。

 これに対し、Leanne氏は「私が最近一番感動したのは、She Loves Techが『TIME』誌に掲載されたのを見たとき。飛行機の中で『TIME』を手に取り、開いてみたら『She Loves Tech』が載っていて涙が出た。というのも、私にとってはこれはチーム全体の成果で、彼らが懸命に取り組んできたことが称えられたから」と返した。この会話は会社という組織で仕事をする理由の核心を突いていたように思えて、思わず膝を打ってしまった。

 ここまで興味深いトピックが多すぎて、壮大に風呂敷を広げてしまった気もするので、そろそろまとめに入ろう。

 今回のツアーで筆者は「テクノロジーは現在、人に帰結しつつあるのではないか」ということを考えた。

 新型コロナウイルスのパンデミックはテクノロジーの発展を大きく促し、実際にさまざまな考え方を一変させた。デバイスやツールも変わりゆく世界や社会に合わせて大きく開発の目的が変化したわけだが、コロナ禍が終わって、再び様々な企業や人が“人間の幸福とは”ということについて思慮を巡らせている。日本ではまだそこまで議論が進んでいないように思えるが、こうしてシドニーに足を運び、『SXSW Sydney 2023』で上述した以外のカンファレンスから受け取ったのは「テクノロジーによって経済的弱者がクリエイターになれる」「さまざまな人にAIを使えるようにする」など「テクノロジーによって、より平等で幸福な社会を築く」というメッセージだ。

 それがスタートアップからも、HPのようなテクノロジーの大企業からも発信されていることは良い傾向だと思うし、実際に社会がそのように変化していくことを望む。みなさんもテクノロジードリブンではなくヒューマンドリブンで考えることで、改めてテクノロジーとの付き合い方を見直してみてはどうだろうか。

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