『Starfield』がプレイヤーに突きつけた“究極の問いかけ”と強烈なSF体験

『Starfield』が突きつけた“究極の問いかけ”

 『Starfield』が発売されて1か月ほどがたった。これまでのベセスダ・ゲームスタジオ(以下、BGS)の作品がそうであったように、本作は単なる「オープンワールドRPG」という枠を超えて、宇宙船のカスタムや拠点開拓、何よりメインクエストのボリュームを遥かに凌駕する、もはやどこまでが手作りでどこまでがランダムイベントなのかも判別できないほどの大量のサブクエストが用意されている。まったくメインクエストに手を付けることのないまま膨大な時間を費やしているというプレイヤーも、少なくないのではないだろうか。

 本稿ではメインクエストや一部のサブクエストに触れながら、『Starfiled』という作品が描こうとした物語やテーマについて考察をめぐらせたいと思う。ただし、前述した通り、まだ発売されて間もないということもあり、重要と思われるネタバレ部分については伏せた状態で話を進めていく。とはいえ、内容の都合上、メインクエストの展開の全体像や重要な場面の存在について言及する箇所を多く含むため、「まっさらな状態でストーリーを楽しみたい!」という場合は、未読のまま、まずはストーリーの最後までたどり着いてから読むことをオススメしたい。

 ちなみに本稿執筆時点での筆者のプレイ状況は、プレイ時間は約75時間でメインストーリーをクリアして2周目に突入、複数の派閥クエストをクリアし、まだまだやりたいことは山積みといった感じである(最近は月面の拠点作りに精を出している)。

「アーティファクトへの好奇心」のみをモチベーションとした『Starfield』の物語

 『The Elder Scrolls V: Skyrim』(2011年)が神によりドラゴンの力を与えられた主人公(ドラゴンボーン)による(物語の舞台となる)タムリエル全土を守るための壮大な戦いを描き、『Fallout 4』(2015年)では何者かに誘拐された最愛の子どもを見つけるためにさまざまな勢力と協力しながら核戦争後の荒廃したボストンを冒険する物語が繰り広げられたのに対して、『Starfiled』のメインクエストは宇宙を舞台とした壮大なスケールの世界観のわりには、意外にもシンプルなつくりとなっている。簡単にまとめると、次のような感じだ。

 アルゴス・エクストラクターズという会社の鉱員として働いていた主人公は、あるとき、採掘中に「アーティファクト」という謎の物体の断片を発見する。この出来事をきっかけに、主人公は宇宙の謎を探求・解明する組織「コンステレーション」に所属することになり、組織の仲間たちとともに宇宙に散らばった残りのアーティファクトの断片を集め、その謎に迫りつつ、アーティファクトの完成を目指す。

 要するに、宇宙に散らばる謎の物体のパーツを集めて完成させることが『Starfield』のメインクエストの全容である。ここで重要なのは、世界を救う使命を与えられる『Skyrim』や自らの子どもを探す『Fallout 4』といった過去の作品と比較して、『Starfield』の主人公にはメインクエストを進めるうえでの明確な動機が存在しないということだ。そこにあるのは「未知の物体の謎が気になる」という純粋な好奇心のみであり、それはサラ・モーガンやバレットといったコンステレーションの仲間たちが抱くモチベーションとまったく変わらない。

 さらに言えば、主人公は(基本的に)物語の最後まで特別な存在になることもない。『Skyrim』のように「実はドラゴンボーンでした」という運命的な展開があるわけでもなく、(ある程度の主人公補正はありつつも)あくまで一人の平凡な人類として、少なくともコンステレーションのメンバーと同等の存在として旅を続けることになる。

「もし、人類が宇宙進出の夢を実現したら?」を現実的に描く『Starfield』

 一方で、メインクエストから『Starfield』全体へと視点を移すと、本作がかなり「人類」という存在に重きを置いた内容であることに気付く。最も象徴的なのは、広大な宇宙を舞台としたスペース・オペラRPGであるにも関わらず、本作には基本的に人類以外の知的生命体が登場しないという点だ。たとえば『Mass Effect』や『Destiny 2』、原作の世界観をゲームに落とし込んだ『Star Wars: Knights of the Old Republic』、『Marvel's Guardians of the Galaxy』といった、宇宙を舞台としたRPG/アドベンチャー作品の多くが、人類以外のさまざまな知的生命体を含めた世界観を構築し、異なる種族同士の共存・共闘、あるいは対立を描いているのに対して、『Starfield』に出てくる人類以外の存在というと、(基本的には)各惑星で生態系を構築している架空の生物くらいであり、襲撃されることはありつつもコミュニケーションの対象になることはない(ちなみに、アーティファクトが示唆する知的生命体の存在の有無については、ここでは書かないことにする)。

 エルフやオーク、カジート、さらには吸血鬼といった種族まで登場する「The Elder Scrolls」(以下、TES)シリーズはもちろん、「Fallout」シリーズにおいてもグールやスーパーミュータント、人造人間などが物語における重要な役割を担ってきたことを踏まえると、『Starfield』におけるBGSの人類への傾倒は意外な判断にも思える。この宇宙において、人類はほとんど他の知的生命体からの妨害を受けることなく、のびのびとさまざまな星で地球から受け継いだ文化を発展させている。

 それは結果として、サブクエストの大部分における「これって地球と同じことをやっているのではないか」というある種の既視感へとつながっていく。企業内での権力争いや、職場・コミュニティにおける人間関係のもつれ、金銭トラブル、信仰や出自をめぐる対立、書類選考・面接・実技試験を経ての企業への入社に、ギャングやならず者との揉め事、そして「本を買ってきてほしい」といった小さな頼み事など、これが地球以外の星での出来事で、時にはただ本を買うためだけにわざわざ宇宙船で他の星まで出向く必要があることさえ無視すれば、本作のサブクエストの多くは(銃撃戦やステルスなどゲーム的な要素はありつつ)現実世界とさほど変わらないタスクばかりである。また、有人星系の多くには法や規則が存在し、クエストを進める過程ではそうしたルールを遵守する必要がある。そもそもストーリー自体が炭鉱での採掘というブルーカラーの仕事から始まるというのも象徴的だ。

 また、景色に目を向けてみても、ウォルト・ディズニーのEPCOT構想を想起させるニュー・アトランティスや、サイバーパンクからの影響が色濃いネオン、炭鉱を拡張して一つの街にしたかのようなシドニア、西部時代の街並みを発展させたかのようなアキラ・シティ、果てはやや古びた観光地のリゾートホテルにしか見えないパラディソなど、さまざまな形での「人類の想像した未来」がそれぞれの都市に表現されていることに気付く。さらに、その歴史を辿れば、かつて人類が地球の滅亡というやむを得ない事態に直面したことによって宇宙への進出を余儀なくされ、辛うじて宇宙に移住したものの、やがて複数の勢力が戦争を繰り広げるようになり、多くの犠牲の果てに現在の宇宙における人類の生活が成立しているということが分かる。

 つまり、『Starfield』で描かれているのは、「宇宙にはこの地球のほかにも、もっとたくさんの生命や見たことのない世界が広がっているのではないか」という夢想的なモチベーションではなく、「もしいまの人類がもう少し高度な技術を手に入れ、宇宙へ進出し、文明を築いたらどうなるか」という仮説の元にある、どこか現実的なSFの世界である(グラブ・ジャンプといったテクノロジー周りはここでは無視する)。この問いに対して、BGSはここまでにまとめたように、いくつかの宇宙的エッセンスこそあれど、基本的には「地球と同じことを繰り返すのではないか」という、やはり現実的でシニカルともいえる回答を示唆する。戦争が残した結果を目の当たりにしていくなかで、「Fallout」シリーズを象徴する言葉、「War, war never changes.(人は過ちを繰り返す)」を想起するのは、きっと偶然ではないだろう。

 そんな世界のなかで、本作の主人公はゲームの大部分を数多くのNPCたちと同様にあくまで「一般的な人類の一人」として、仕事をこなしてお金を稼いだり、トラブルに巻き込まれたり、お気に入りの惑星を見つけるために宇宙を旅したり、自分だけの拠点を作ったりといった、「宇宙に進出した一般的な人類」としての生活を楽しむのだ。これが“メインクエストを進めなかった場合の”『Starfield』の全容である。

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