リリースから約2週間で約22億円を売り上げた『モンハンNow』 「モンハン」と位置情報ゲームの相性を考える

シリーズ伝統の狩りをコンパクトな世界で完全再現。しかし位置情報ゲームならではの課題も

 大きな注目のなか、サービスが開始となった『モンハンNow』。10月2日には、同タイトルが初週だけで500万ダウンロード、さらに初月の累計で1,500万ドル(約22億3000万円)の売上を達成していたことが、アメリカのリサーチ/コンサルティング会社・Naavikの調査から明らかとなった。この数字によって、『モンハンNow』はすでに、Nianticがこれまでリリースしたゲームのなかで4番目に大きな成果を出したタイトルになったのだという。上位にランクしている3つについて、詳しく言及はされていないが、肌感覚で推測するならば、『Ingress』『Pokémon GO』『ピクミン ブルーム』だろう。うち、もっとも直近にサービスが開始となった『ピクミン ブルーム』の累計売上は、約2,000万ドルだという。つまり、『モンハンNow』はリリースから2週間ほどで、その実績に迫っていることになる。

 ユーザーの評判も上々だ。2023年10月9日時点で、App Storeでは19.2万件の評価で星4.8、Google Playでは17.2万件の評価で星4.2と、多くのユーザーが好評にあたるレビューを投稿している。SNS上には、「レアモンスターの発見に夢中になる人」「それらを運よく発見・討伐し、その際のスクリーンショットや動画を投稿する人」「見ず知らずのほかのプレイヤーとリアルで待ち合わせし、狩りに勤しむ人」など、熱中するプレイヤーの姿も多く見受けられた。『モンハンNow』をプレイすることで外出する習慣が身についたという声も、なかにはあった。

 実際にプレイしてみると、シリーズ本編とはまた違った、コンパクトなハンティングができるタイトルだと感じられた。素材の収集や、モンスターの討伐といった「モンスターハンター」における根幹的なアクションはすべて、タップやフリックなど、人を選ばない簡単な操作でおこなえる。この点は、モバイルゲームであること、家の外でプレイすることを前提にデザインされた設計だろう。

 「モンスターハンター」は、アクションRPGというジャンルに分類されるため、決してプレイのハードルが低いシリーズではない。言ってみれば、複雑な操作を必要とする類のゲームだ。しかしながら、基本プレイ無料・アイテム課金型というマネタイズモデルで運営するからには、継続的にプレイする一定数のユーザーが必要になる。買い切り型のように、“リリース時の初速”が収益の中心となるわけではない。

 その意味において、先に述べたシンプルな操作設計には、門戸を広げるための施策という面もあるのだろう。『Pokémon GO』や『ピクミン ブルーム』、『ドラゴンクエストウォーク』など、成功してきた位置情報ゲームを振り返ると、そこにはIPとしての強さと並び、ファン層の広さ・深さという要素も存在していたように思う。どちらかというと、コア層に向けた性質を持つ「モンスターハンター」シリーズが、「基本プレイ無料・アイテム課金型の位置情報ゲーム」という分野で成功を収めるためには、ハードルのクリアが必須だったのではないだろうか。もしかすると、コアなシリーズファンには物足りないインプレッションだったかもしれないが、こうした点こそが、『モンハンNow』の成否に関わる重要な分岐点だったのだろう。

 一方で、改善点もないわけではない。『モンハンNow』が発表となった2023年4月、私は「ヒットのために越えるべき2つの課題」について書いた。その2つとは、「既存の位置情報ゲームとの住み分け」「ユーザーとの信頼関係の構築」だ。

 前者について、『モンハンNow』は、『Pokémon GO』『ピクミン ブルーム』といったNiantic発のほかの位置情報ゲームにくらべ、「歩いてモンスターを探し、それらをその場で討伐する」という面で、より能動的なプレイをユーザーに要求する。その点に関しては、シリーズと位置情報ゲームのそれぞれの特長をうまく昇華し、かつオリジナリティのあるゲーム設計となっているが、反面、同ジャンルがずっと課題としてきた“地域格差”は、解消されないままだ。

 先日、渋谷のハンターの多さに驚いた海外のプレイヤーの様子を取り上げた記事を読む機会があった。その内容によると、日本は人口が一極集中であり、かつ東京は公共交通機関が主要な移動手段であるため、海外と比較し、モバイルゲームのユーザーが見つかりやすい傾向にあると考えられるという。このことは、そっくりそのまま日本国内の地方と都市部のあいだに横たわる格差にも置き換えられる。人口がまばらな地方では、モンスター探しと同様、またはそれ以上に、ほかのハンター探しに没頭しなければならない。近くにいるプレイヤーと共闘できる仕組みを持ちながら、「バーチャルとリアルを接続する」という位置情報ゲームならではの特徴のせいで、都市部以外のユーザーの体験が相対的に悪くなっている実情があるのだ。

 「モンスターハンター」はかねてから、フレンドを含む他のプレイヤーとの共闘がひとつの大きな魅力とされてきた作品群だ。そのような背景を持つ同シリーズにおいて、地域格差によってマルチプレイしづらいユーザーが存在することは、“致命的”とも言える。位置情報ゲームとしての特色を維持しつつ、この点をどのように解決していくのかが、今後の重要なテーマとなっていくのではないだろうか。

 そこには、開発元であるNianticの舵取りも大きく影響するだろう。かつての対応でユーザーの批判にさらされることが少なくなかった同社。『モンハンNow』がモバイルゲーム史上でも稀に見る好スタートを切っただけに、そうした汚名を返上し、ユーザーの体験に寄り添っていけるかにも注目だ。

 とはいえ、『モンハンNow』はまだリリースされたばかり。順調にいけば、今後も明るい話題をたくさん聞かせてくれるのではないか。当初の話題性に恥じない好スタートを切った同タイトル。どのような道をたどり、どのような評価が下されていくのか。その行く先を見守りたい。

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