連載:作り方の作り方(第六回)
「漫画を読んでもらうことが優先」放送作家・白武ときお×『少年ジャンプ+』編集長・細野修平が考える“プラットフォームとしての戦略”
いま、エンタメが世の中に溢れすぎている。テレビやラジオはもちろんのこと、YouTubeも成長を続け、Podcastや音声配信アプリも盛り上がりを見せている。コロナ禍をきっかけに、いまではあらゆる公演を自宅で視聴できるようにもなった。では、クリエイターたちはこの群雄割拠の時代と、どのように向き合っているのだろうか?
プラットフォームを問わず縦横無尽にコンテンツを生み出し続ける、放送作家・白武ときお。彼が同じようにインディペンデントな活動をする人たちと、エンタメ業界における今後の仮説や制作のマイルールなどについて語り合う連載企画「作り方の作り方」。
第6回は、2017年から『少年ジャンプ+』二代目編集長を務める集英社の細野修平氏が登場。2014年から主にスマートフォン向けにウェブとアプリで始まった『少年ジャンプ+』は、近年『SPY×FAMILY』『怪獣8号』を始めとするオリジナル連載作品のヒットで注目を集めている。
そんな『少年ジャンプ+』は、どのような環境と体制、意識によってヒットを生み出しているのか。白武と語り合う中で、『少年ジャンプ+』が考える「面白さ」のヒントが見えた。
「どう稼ぐか」を意識しすぎない 漫画を読んでもらうことが最優先
白武:ここ数年、話題となっている漫画を読んでみると、大抵『少年ジャンプ+』に掲載されていることが多いなと感じていまして。
数々のヒット作を生み出し続けている媒体の編集部がどんなものなのか、その指揮を取る編集長の細野さんがどんな方なのか気になり、今回対談をお願いしました。よろしくお願いします。
細野:恐縮です、ありがとうございます。白武さんもテレビやYouTubeなど、面白いことをいろいろと仕掛けられている方だなと拝見しております。
白武:ありがとうございます。これまで『少年ジャンプ+』では数々のヒット作を出されてきたかと思いますが、一番大きな手応えを感じたのはいつごろですか?
細野:やはり一番インパクトが大きかったのは、2019年の『SPY×FAMILY』連載開始です。初速の時点で顕著な結果が出ていました。本当に大幅にユーザー数が増えまして。
白武:その結果って、コンテンツの力に加えて何かありますか? 面白さと合わせて、プラスアルファがあったりしたのか。
細野:読んでくださった方がSNSなどでシェアしてくれて、広く拡散されたことが要因だと思います。
あと、ちょうど2019年4月から、アプリならば連載中のオリジナル連載作品は、どの作品も初回は1話から最新話まで全話無料で読める施策を始めたんですよ。『SPY×FAMILY』の連載開始とほぼ同時期に始まった施策なので、その相乗効果もあると思います。
白武:初めて読む人は無料ってすごいですよね。無料にするか、購入してもらうかは議論にならなかったんですか?
細野:なりました。でも、まずはやってみようということになりました。
白武:まずは読んでもらってなんぼというところに賭けたと。
細野:そうですね。それこそ紙の『週刊少年ジャンプ』も、僕が子どものころって友だちから借りて読むこともありましたし。でも結局、作品を気に入ったら本誌やコミックスを買うじゃないですか。その流れと同じことかなと。
白武:実際、『少年ジャンプ+』でもその流れになりましたか?
細野:『SPY×FAMILY』が一番良い例で、まとまった話数を改めて読みたいとコミックス(単行本)をすぐに購入してくださる方が多いです。アイテムとして持っておきたいという方も多いですね。
白武:初回は無料、2回目以降読むには、コミックスを買うか、あとはコイン(サービス内で使用できるポイント)や「動画広告を見て読む」を利用する方法があると思います。細野さんとしてはどの手段で読んでもらうのが嬉しいですか?
細野:(『少年ジャンプ+』で)無料で読んでもらうことが優先です。やっぱり読んでもらわないことには始まらないので。
白武:潔いですね。ビジネスとしても成立させて、利益を生む方法についても考えないとですよね?
細野:編集部としては、あまり「どう稼ぐか」の意識はしていません。我々が編集部として重視すべきはまず、『少年ジャンプ+』で漫画を読んでもらうこと。直近3~4年は、毎曜日1日あたりの閲覧数100万を超える作品を作ることを目標に運営してきて、『SPY×FAMILY』『怪獣8号』『ダンダダン』『チェンソーマン』など閲覧数100万を超えるヒット作品が生まれました。これからは、最新話の更新時に閲覧数1000万を超える作品を生み出すことを目標に、方策を考えています。
白武:なるほど。漫画をつくるときに作品を海外へ展開していこうという意識はありますか? 日本以外の読者への配慮や、どの国の方でも読んで分かるような内容を意識するとか。
細野:海外市場自体は意識しています。でも、初めから海外の読者向けに作品を調整するようなことはあまりしていません。というのも、まずは日本の方々が熱狂してくれないことには、海外へ持っていっても人気にならないと思うので。
ちなみに「ウェブトゥーン」に関しては、『少年ジャンプ+』とはまた別の「ジャンプTOON」というチームがあり、そちらが始動していく予定です。
白武:ちなみに、細野さんは編集長として『少年ジャンプ+』に掲載される作品をご覧になってきているかと思うのですが、全て目を通されているんですか?
細野:作品の細部まで細かく口を出すようなことはしませんが、全ての作品を読んでいます。
白武:そもそもいまの『少年ジャンプ+』って、どれくらいの作品数が掲載されているのでしょう。
細野:大体70作品前後が連載されていて、読み切り作品などもあるので、ページ数にすると月に5000ページ以上。『週刊少年ジャンプ』が1冊500ページくらいなので、その10倍以上になりますね。
白武:5000ページ! そんなに読みながら、他誌の漫画も読まれるんですか?
細野:話題になっている作品は大体目を通すようにしていますね。仕事を意識せず、息抜きとして読むのは「なろう系」作品が多いです。あまり難しいことを考えずに読めて、主人公が難関をクリアしていく様子を見るのは、気分転換になるんですよ。
白武:漫画を読む気分転換に、漫画を読まれている……。そもそも編集長の立場で5000ページ以上も読まれている方は、他にいらっしゃるんでしょうか。
細野:もちろん他誌の編集長の方々も作品には目を通されていると思いますが、5000ページとなると、珍しいかもしれませんね(笑)。