ジム・ライアンのCEO退任がゲーム市場に与える影響は? 最新動向から考えるプラットフォーマー勢力図の未来

 9月28日、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)は、社長兼CEOを務めるジム・ライアン氏が2024年3月31日付で退任・退職すると発表した。その後は、現ソニーグループ社長(COO兼CFO)の十時裕樹氏が暫定でCEOに就任するという。10月からは、経営体制の移行をサポートするため、同氏がSIEの会長職に就任することも明かされた。

 こうした人事によって、SIEの事業戦略はどのように変わっていくのか。業界動向を踏まえ、プラットフォーマー勢力図の未来を考察する。

PlayStation 5展開失敗の代名詞として語られたジム・ライアンの名前

 ジム・ライアン氏は1994年、ソニー・コンピュータエンタテインメントヨーロッパ(現ソニーインタラクティブエンタテインメントヨーロッパ)に入社して以降、同社の社長、SIEのグローバルセールス&マーケティング統括や副社長などの重職を歴任し、2019年4月に社長兼CEOへと就任した。

 2019年4月といえば、SIEの現行機・PlayStation 5(当時は名称が未公表)の存在が明らかになった時期と重なる。いま振り返ると、少なくとも日本国内において、ライアン氏の名前は、ローンチ期に同機の展開が失敗したこと(特に日本で供給が遅れたこと)の代名詞として、ユーザーの批判にさらされる機会が多かったように思う。

 そこで気になるのが、今後、SIEのCEOが十時氏に代わることで、同社の事業戦略がどのように変化していくかだ。先に述べたライアン氏への批判では、同氏が英国人であることから、(日本に十分な数のPlayStation 5が用意されないのは)海外偏重だと揶揄されることも少なくなかった。一部に日本のユーザーによるバイアスがあるとしても、海外にくらべ、日本でPlayStation 5の供給が遅れたことは事実ではある。はたして、SIEの戦略に今後、変化はあるのだろうか。

Xboxはその勢いを維持できるか。カギはXbox Game Passの運営に

 SIEの戦略転換と、その先にあるプラットフォーマーの勢力図の変化を考えるとき、押さえておかなければならないのが、競合であるMicrosoftの動向だ。日本国内では、SIEの“出遅れ”に乗じて台頭してきた印象のあるXboxだが、海外ではそれ以前から、十分にPlayStationのライバルと見なせるくらいのシェアを獲得していた。

 イギリスの検索エージェンシーであるRise at Sevenは、PlayStation 5とXbox Series X|Sがローンチされる直前の2020年11月、世界各国の両プラットフォームのシェアに関する興味深いデータを発表している。調査によると、対象となった161か国のうち、148か国の市場シェアでPlayStationが優勢だったという。

 しかしながら、具体的な数字を見ていくと、中国(主要経済大国のなかでは、唯一Xboxが優勢)では、PlayStation 45%/Xbox 55%、米国・英国では、PlayStation 57%/Xbox 43%と、両者のあいだにそれほど大きな差は見られなかった。ちなみに日本では、PlayStation 99%/Xbox 1%となっている。この格差は、主要経済大国のなかでもっとも顕著なものだ。繰り返しとなるが、同調査は現行機が発売となる直前に実施された。現在は(特に日本においては)そのバランスがXbox側に傾いていると見ていいだろう。

 PlayStation 5の供給の遅れとともに、シェアを獲得しつつあるXbox。一転攻勢となっている背景には「Xbox Game Pass」による影響もある。

 Xbox Game Passとは、Microsoftが展開するサブスクリプションサービス。月額1,000円前後で、ラインアップされているタイトルを無制限にプレイできる。SIEにも同様のサービス「PlayStation Plus ゲームカタログ」があるが、充実度では前者に分がある。同サービスを利用するため、Xboxへの乗り換えを検討する人もいるほどだ。最近では、Bethesda Softworksの新作『Starfield』が発売日から追加されたことも話題となった。今後も『Cities: Skylines II』や『ペルソナ5 タクティカ』、『ペルソナ3 リロード』、『百英雄伝』といった注目タイトルがラインアップされていく予定だ。

 たとえば、ある新発売のタイトルがXbox Game Passを含むマルチプラットフォームで展開される場合、サブスクリプション1か月分と比較してパッケージ/ダウンロード購入の価格は5〜10倍ほどにもなる。つまり、背後でその差を補って余りある金額が動いているということなのだろう。サービスを展開するMicrosoftが先行投資的にその費用を負担しているであろうことは、外部からも容易に推察できる。

 そこで気になるのが、Microsoftが今後も同様の規模でXbox Game Passを運営できるのかという点。ユーザー数や売上などが一定の目標に達すれば、現行の予算は減っていくのではないか。その先にあるのは、ラインアップの縮小、提供価格の見直しだ。実際に、Microsoftは2023年7月、当初8月に予定していた価格の改定を1か月以上前倒し、100円ほどの値上げに踏み切っている。

 同社がここ3年で獲得したシェアを守っていけるかは、Xbox Game Passの動向によるところも大きい。ラインアップの縮小、提供価格の見直しのどちらに舵を切るとしても、既存ユーザーの納得感が得られるかが肝となってくるだろう。もしその判断に失敗したとしたら。目の前にある轍は、SIEがPlayStation 5の供給で作ってしまったものと同じだ。勢力図を揺るがす大きなターニングポイントとなることは、まず間違いないだろう。

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