ドットエスティ初の「リアル・バーチャル融合ライブショッピング」から、メタバース事業への”本気”を見る
アパレルECサイト「ドットエスティ」を運営するアダストリアが、メタバース事業へ参入してまもなく1年が経つ。数多くの『VRChat』向けアイテムを展開してきた同社だが、9月5日に興味深い取り組みを実施した。同社が毎日おこなう配信番組「ライブショッピング」に、アバター姿のクリエイターを出演させ、『VRChat』向けアイテムを紹介する、というものだ。
「リアルとバーチャルが融合する」というふれこみで実施されたこの配信のキャッチコピー自体は、バーチャルな存在が広まった2023年ではめずらしいものではない。しかし、取り組みの目的は非常に筋が通っており、収録現場も相当な安定感があった。「流行りでやってみた」ではなく、同社のメタバース事業の一貫性を示すような、本気の取り組みだったと言えよう。
本記事では、ドットエスティ初の「リアル・バーチャル融合ライブショッピング」について、筆者が取材した現場の様子も合わせてお伝えしていく。
新規ブランドがメタバースアイテムを同時展開
まず、ドットエスティより9月1日に発表された新ブランド「Anui」について説明しておこう。
「Anui」は「ジェンダーフリー」をコンセプトに掲げ、ジェンダーをはっきりさせない曖昧な世界観を発信するブランドである。そのあらわれとして、体型ではなく着用バランスを基準とした、「G(ガールズ)サイズ」「R(レギュラー)サイズ」「M(メガ)サイズ」を採用しているのが大きな特徴だ。
そして、ブランド発表と合わせて、メタバースアイテムとしての展開も発表された。ソーシャルVR『VRChat』向けの3Dモデルに対応した衣装(スキン)として、クリエイターズECサービスの「BOOTH」にて3種類のアイテムが発売されている。
ドットエスティは2022年10月から『VRChat』にフォーカスした展開を進めており、オリジナル3Dモデル『枡花 蒼』『一色 晴』や、同社が扱う実在の洋服の3Dモデル向け衣装を次々に発売している。ユーザーを対象にした交流イベントも開催しており、いまや『VRChat』ユーザーにとってはおなじみの存在となっている。
収録現場に潜入! ライブショッピングにアバター姿のクリエイターが登場
今回、前述した「Anui」のメタバースアイテム展開と合わせて、ドットエスティでも初となる試みがおこなわれた。定期的に実施している配信「ライブショッピング」にて、リアルアイテムに加えてメタバースアイテムの紹介をおこなうというものだ。
筆者は今回、「ライブショッピング」配信の収録現場を拝見した。収録は株式会社アダストリア内にあるスタジオのひとつだ。
「ライブショッピング」は、ドットエスティのスマートフォンアプリなどから視聴が可能で、毎日なにかしらの商品が紹介されている。取り扱われるのはその大多数が現実の洋服であり、その枠で「3Dアバター向けの衣装」を紹介する……と書くと、この取り組みの特殊性が伝わるだろう。
出演者は、ドットエスティ運営企業である株式会社アダストリアより、ライブショッピングのMCを務めるよぴ氏と、「Anui」のブランドプレス(=広報担当)のshiba氏、そしてドットエスティのメタバースプロジェクトにて3Dデザイナーとして参画中のenu.氏が参加する。このうち、enu.氏が3Dアバターの姿で出演するというのも、今回のライブショッピングの特異的なポイントだ。
3Dアバターで登場したenu.氏の重要な役割は「メタバースアイテムの提示」である。『VRChat』において、アバターの衣装を着替えるのは文字通り一瞬だ。1クリックで装いがパッと切り替わる。いくつかのバリエーションを瞬時に提示できるのはもちろん、着替えの手間も、メタバースであれば一切かからない、という点を視覚的に示していたのはインパクトがあるなと感じられた。
そしてもうひとつ、衣装だけでなく「身体(アバター)」も自在に切り替えることができるのもポイントだ。女性アバター『森羅』で登場したenu.氏は、その後男性アバターの『杏里』、ドットエスティ初のオリジナルアバター『枡花 蒼』へと着替え、アバターごとのコーディネートの違いも披露した。これも、メタバースならではの“着替え”である。ブランドのコンセプトに沿いつつも、独特なメタバースのカルチャーを実物提示するわかりやすい仕掛け方だが、同時にアバター制作者のクレジットも行っており、クリエイターへの敬意が見られたのも好印象である。
配信映像は、スタジオの映像に、グリーンバックで切り抜いたenu.氏の姿を合成することで作成されていた。「リアルとバーチャルの合成」としてはスタンダードな撮影構図だったが、画作りに相応の力を注いでいるのか、配信画面はかなり違和感のないつくりになっていた。
ライブショッピング本番では、メタバースに関する簡単なクイズコーナーも挟みつつ、リアルの「Anui」アイテムも紹介された。shiba氏からの解説と試着も合わせた丁寧な商品紹介は、元来の視聴者はもちろん、今回の配信を目的にやってきたバーチャル側の視聴者にもわかりやすいものだった。その意味で、このライブショッピングは確実に「顧客開拓」の場として機能していただろう。アバターファッションを楽しむ人は、現実でのファッションも楽しむ傾向にあることも追い風だ。
配信は1時間以内で、大きなトラブルもなく終了した。初の取り組みながら、ここまでスムーズに実施できていたのは、毎日リアルタイム配信を行っているアダストリアの経験値が活きた結果だろう。