茶碗型デバイスで体験する”VR茶道アニメーション” 『ヴェネツィア国際映画祭』XR部門ノミネートの「Sen」体験レポート
「XRを通して自己を深く見つめる体験を作りたい」(監督・伊東ケイスケ)
監督を努めた伊東ケイスケ氏は、アニメーション作家・グラフィックデザイナーを経て現在はXRアーティストとして活躍する。日本の伝統文化である「茶道」をベースに、「XRを通して自己を深く見つめる体験を作りたい」という思いから「sen」の制作は始まったとのことだ。VRコンテンツの制作スタイルは従来のアニメーションとはまったく異なるものだが、伊東氏はむしろそれが性に合っていたと語る。
「元々は2Dアニメーションをつくっていたんですが、シーンをフレームで区切って見せていくことはあまりしっくりきていませんでした。VRの世界に触れたとき、自分はフレーミングがしたかったわけではなく、キャラクターを作りたかったのだと気づきました。VRコンテンツはコンテを切らずとも、そこにキャラクターを配置してアニメーションを作れるという点で画期的でした。これは僕にとって救世主のような表現技法で、自分が生きている間にこうした技法が生まれてよかったです」
特にアニメーションのような映像表現では、無いものをあるように見せたり、小さな物を大きく見せたり、映像で「嘘」をつく必要に迫られる。フレーミング、パースの付け方や作劇など、こうした嘘は技法として進化してきた。新しい表現であるVRの世界では、どんな技法が生まれているのだろうか。
「ライティング(光の配置)による視線誘導が大事だと考えています。VRコンテンツは体験者が360度、どこを見てもよいわけですが、すべての場所でいろんなことが起きていると、体験者も疲れてしまうんですよね。見てもらう場所をある程度絞るためにはライティングを駆使してさりげない視線誘導を行うのが大事です。没入感を出したければ空間すべてを細かく作り込んだほうがいいんですが、それだとストーリーが見えにくくなってしまうので、仕方がないという部分もあります」
伊東氏は今作『sen』によって、4年連続でヴェネツィア国際映画祭XR部門にノミネートされている。多くの人が体験できる機会はいまだないものの、非常に面白い作品なのでぜひ広く体験できるような機会が生まれてほしいと思う。
「日本の伝統文化である茶室の体験をメタバースに持ち込み、“みんなで集まってお茶を飲む”という体験をそのままVRに持ちこんでみたかった。茶道の世界を厳密に描いているわけではなく、ファンタジーを描いている部分も多分にありますが、ぜひこの体験を楽しんでほしいです」
映画祭は8月末から9月上旬まで催されるが、この結果も気にしつつ『Sen』にまつわる続報を待ちたい。