『FGO』芳賀敬太に聞く、第2部クライマックスを彩る楽曲たちの制作秘話 「『物語の結末』に動き出したという実感がある」

 スマートフォン向けFateRPG『Fate/Grand Order』の楽曲をまとめたオリジナルサウンドトラックの第6弾『Fate/Grand Order Original Soundtrack VI』が7月26日にリリースされた。

 同作は2022年に配信された第2部(第2部 第6.5章「死想顕現界域 トラオム 或る幻想の生と死」、第2部 第7章「Lostbelt No.7 黄金樹海紀行 ナウイ・ミクトラン 惑星を統べるもの」)楽曲をはじめ、2021~22年の開催イベントのゲーム楽曲や、TVCMで使用されたボーカル楽曲「Sing My Heart ~魔法を奏でて~」、「伍越同舟」、「Torrid」、「陸劫輪廻 (feat. Yuriko Kaida)」などを全3枚組でまとめたもの。

 クライマックスへと向かう第2部の終盤を、同ゲームのメインコンポーザーである芳賀敬太はどのように音楽で彩ったのか。メインシナリオの楽曲を中心に話を聞いた。(編集部)

※『Fate/Grand Order』本編シナリオへの言及も含まれますのでご注意ください。

ーー前作となる『Fate/Grand Order Original Soundtrack V』は「妖精円卓領域 アヴァロン・ル・フェ 星の生まれる刻」の曲が入っていたということもあり、どこか芳賀さんのエネルギーを最後の一滴まで絞り出したような感覚がありました。そして今回の『Fate/Grand Order Original Soundtrack VI』に入っている楽曲は、次への布石というか、新たな芳賀さんの1面を見ることができて面白いと思える曲が多いように思えます。

芳賀:「妖精円卓領域 アヴァロン・ル・フェ 星の生まれる刻」を終えたあとは力尽きたような感覚になりましたが、とはいえ物語は容赦なく次に進んでいくわけです。そんななかで次への手がかりのようなものを掴めずにいたのですが、タイトル画面が新しくなるということで、そこでまたもう一段階スイッチが入りましたね。

『Fate/Grand Order Cosmos in the Lostbelt』タイトル画面

ーー「Cosmos in the Lostbelt II」を作ったことが、メインインタールードである『非霊長生存圏 ツングースカ・サンクチュアリ」』以降の楽曲において大きかったと。

芳賀:そうですね。第2部の途中でタイトル曲が変わると思っていなかったので、驚きもありましたが、いっそう気合も入るものです。

ーーこれまでのタイトル画面曲は壮大なオーケストラサウンドが特徴でしたが、今回の「Cosmos in the Lostbelt II」は不穏なシンセベースの音から始まり、その後にオーケストラサウンドが入ってくる構成になっていますね。

芳賀:物語のスケールが宇宙規模になっていることなども踏まえて、オーケストラだけでは表しきれないなと考えた結果、劇伴でいうところの「エピック系」のサウンドを入れることにしました。実は3〜4年くらい前からこういう音に辿り着くんだろうと思っていて、他の作品でも挑戦できるときにはエピック系のサウンドに取り組んでいました。

ーーそういう意味では『月姫 -A piece of blue glass moon-』や深澤秀行さんとの共作なども大きかったりするのでしょうか。深澤さんはこの手のエピック系サウンドを得意としているところもありますし。

芳賀:2人の日常会話として、そういうタイプの音楽の話をすることもありますし、深澤さんにエピック系の音楽をFGO7周年記念PVの「Re:Collection Movie 2022」で作ってもらったこともあるんですよ。その時には僕の中で先ほどお話しした構想もあったので、深澤さんならその辺りを踏まえていい感じにしてくれるだろうと思って依頼しました。

Fate/Grand Order Re:Collection Movie 2022

ーー本当ですね……! そこまで布石を打っていたとは鳥肌ものです。

芳賀:そうして色々な布石を打っていたことが「Cosmos in the Lostbelt II」でようやく形になって、僕のなかでも「よし、ここからだ」と決意を新たにすることができました。

ーー主に『第2部 第6.5章 死想顕現界域 トラオム』や『第2部 第7章 黄金樹海紀行 ナウイ・ミクトラン』で“宇宙”感がいっそう強まっていくわけですが、芳賀さんにとって“宇宙”というテーマやイメージが加わることは、曲を作るうえで新たな制約になったのか、むしろ自由度の高い題材が増えた感覚なのか、どちらでしょうか?

芳賀:これは圧倒的に後者ですね。「トラオム」は最初こそ中世的な世界観ですが、最後には科学的、SF的な結末になるわけで、宇宙っぽさのある音のほうが整合性が取れるだろうと思っていました。使える音が増えたというのは、楽しいことでもありましたよ。

ーーその解放された感じが『Fate/Grand Order Original Soundtrack VI』の収録曲には通底している気がします。ここからは「マップ曲」「ストーリー曲」「バトル曲」のなかから重要なもの、印象的だったものについて伺っていきます。ツングースカのマップ曲「非霊長生存圏 ツングースカ・サンクチュアリ」は、突き刺すようなピアノの音が印象的で、寒さ・冷たさと暑さ・激しさが同居したような印象を受けました。

『非霊長生存圏 ツングースカ・サンクチュアリ」』

芳賀:マップとして冷たさがあるエリアと熱いエリアという二面性をもっていたことは大きいですね。普段、TYPE-MOON楽曲で二面性を表すときはセクションごとに分けるのではなく、一つのフレーズに2つのイメージを同居させるような感覚なのですが、それって逆に言えば「あまりはっきりと分けた曲作りをしていない」ことでもあるので、今回はあえて1曲のなかにはっきり別れたパートを用意しました。ピアノを中心とした前半から、後半にさしかかると密度によって熱を帯びてくるような形を狙って作りました。

ーートラオムは「死想顕現界域:トラオムⅠ」「死想顕現界域:トラオムⅡ」の2曲に分かれていますが、これは先ほども話題に上がったように、前半と後半でストーリーのイメージが変わることも大きいわけですか。

『第2部 第6.5章 死想顕現界域 トラオム』

芳賀:いえ、タイトル曲との共通性はすでに「死想顕現界域:トラオムⅠ」からシンセの使い方などで持たせていて、「死想顕現界域:トラオムⅡ」はどちらかというと場の状況が強く戦いにかたむいたことを踏まえた曲というイメージで作りました。これはFGO楽曲でわりと使っている手法ですね。

『第2部 第7章 黄金樹海紀行 ナウイ・ミクトラン』

ーーそして「黄金樹海紀行:ナウイ・ミクトラン」は、なんというか細やかさや性急さのようなものを感じていて、ある意味マップ曲っぽくないなと思ったのですが。

芳賀:「ミクトラン」は壮大なストーリーが繰り広げられるので、マップ曲もそれに負けないようにしなければ、という考え方が前提としてありましたし、この曲をモチーフに使って何曲かを作るつもりでもいたので、サッパリしすぎないように心がけました。あと、雄大な自然であり本当に太古から積み重ねられた歴史を持った異聞帯でもあるのですが、そのうえで「それでもなにも生むことができなかった悲しさ」も持たせたいと思い、ディノスたちのことをイメージして作った曲でしたね。

ーーディノスたちに関しては、最初こそ賑やかなイメージがありつつ、ある場面からガラリと見方が変わりますからね。ストーリー曲の話にもなりますが、チチェン・イツァーの曲である「6600万年の夢」もまさにそのイメージの延長線上のように感じました。悠久に続くけど発展しない、繰り返すだけといったような……。

芳賀:街をイメージした曲はこれまでも色々と手がけてきたのですが、今回は街らしい喧噪のイメージではなく、ディノスという存在、歴史を表現したいということでした。同時に「物語の最後でも使いたい」と言われたんです。そういった結果として「ミクトラン」を代表する1曲にもなったと思います。

ーーマスターたちは後からものすごく重要な表現だったと気づくのは、ある意味でTYPE-MOONらしくもありますし、ニクい演出だなと思いました。ストーリー曲でいえばトラオムに戻るのですが、「ライヘンバッハに消ゆ」は使われた場面も含めてすごく大事な1曲ですよね。物語における重要人物の一人が舞台から降りるということで、芳賀さんのなかでも一度姿勢を正して作った曲のようにも思えたのですが。

芳賀:モチーフとしてのシャーロック・ホームズにそもそも思い入れがありますし、色んな映画や物語で取り上げられているキャラクターでもあるので、そういう“他のホームズを忘れる”という作業も含めて姿勢を正した感じはありますね。いまだとやっぱりベネディクト・カンバーバッチの顔が浮かぶじゃないですか(笑)。

ーーたしかに(笑)。そういった意味で1.5部『亜種特異点Ⅰ 悪性隔絶魔境 新宿 新宿幻霊事件』の楽曲である「その命題 〜GRAND BATTLE 2〜」をモチーフとして使ったというのは、正解に辿り着く一つの大きな手がかりでもあったのですか。

芳賀:そうですね。ホームズとモリアーティの関係性をFGOの中で辿っていくと、やはり1.5部の新宿に行き着きますし、みなさんにとっても納得がいくのかなと。

ーーまさか新宿をやっているときは、こんな形でモリアーティが効いてくると思いませんでしたからね……。

芳賀:僕自身もトラオムの楽曲制作に入る段階までは「ここでホームズがこうなる」みたいなことはまったく知りませんでしたから、ある意味ではみなさんに近いイメージをもって作れたのかもしれません。

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