『FGO』芳賀敬太に聞く、第2部クライマックスを彩る楽曲たちの制作秘話 「『物語の結末』に動き出したという実感がある」

芳賀敬太に聞く『FGO』第2部終盤の楽曲制作秘話

ーーありがとうございます。ここからはバトル曲について伺います。個人的にハイライトはいくつもあるのですが、順番を考えて「Last Stand 〜FATAL BATTLE6〜」から伺わせてください。第2部後半のFATAL BATTLE曲として作られたものですが、展開的にもさらに発展させる曲がいくつも出てくるというなかで、FATAL BATTLEらしいスケールの大きさを持たせながら、ある意味落ち着かせているのがすごいなと感じました。

芳賀:その後にどう展開させるかは、FATAL BATTLEと銘打った曲を作るうえでは非常に気にしますね。通常戦闘曲をその章ごとに作るようになってから、結果として大きく展開しているケースも多いのですが、汎用FATAL BATTLEとなるとどれくらいに設定しておくかがすごく大事なんです。当初はFATAL BATTLE曲が洞窟の奥にいるボスくらいの気持ちで、GRAND BATTLEは城の最上階の玉座にいるボスみたいなイメージだったんですけど、ここまで来るとそんな考え方からはとっくに逸脱しているので(笑)。

ーーいまや玉座の上に空があって、空の上に宇宙があるみたいな感じですもんね。ツングースカで印象的だったバトル曲はビーストⅣ戦の「Innovation & Domination ~ビーストⅣ戦~」ですね。「Nine Drive 〜コヤンスカヤ異聞録〜」の発展というだけではなく、終盤で引用されている玉藻の前のモチーフ(「survant_extra(caster, extra life with anyone she wants)」)も素敵なのですが、ここではビースト戦の楽曲について聞かせてください。自分のなかでは各ビーストに当てられた楽曲にあまり共通点を感じておらず……。芳賀さんのなかで、その辺りは意識しているのかを聞きたいです。

芳賀:おっしゃる通りで、それぞれのビーストが個としてすごく立っているので、一体一体をまったく別のものとして用意するのがベストだと判断しました。僕のなかではその時々の人類悪と真っ向から向き合うイメージで作っています。

ーーなるほど。続いては「ミクトラン」のバトル曲についても聞きたいのですが、通常バトル曲「スペクタクル・エイジ ~BATTLE 16~」は最初からFATAL BATTLEのような飛ばしっぷりで驚きましたし、2曲が混在しているようなまるでクラシック曲のような作り方も面白いなと。

芳賀:ミクトランに関しては「通常戦闘と思わなくていい」というリクエストをもらってもいたので、勢いや力強さを意識しました。そのうえでカマソッソ戦でこの曲をモチーフに使いたいという話もあったので、そこでより活きるものを、と考えてもいました。この曲も先ほど話題に上げたエピック系サウンドを発展させる形で作っていて。宇宙的なエピックが「Cosmos in the Lostbelt II」だとしたら、「スペクタクル・エイジ ~BATTLE 16~」は原始的なエピックというか。

ーーすごくわかりやすい解説で助かります。続く「冥界の番人」は冥界のボス戦曲ですが、最初からずっと鳴っている音が気になっていて。滲んでいるような響き方でとても重く、最初はチェロをユニゾンさせた音かなと思っていたのですが、何度も聴いていくとシンセにも金管にも感じられるようになってしまったので、どのように作ったのかを伺いたく……。

芳賀:実際には普通に管弦の状態で作って、そこから管弦それぞれにユニゾンで重ねるためのシンセを作り、シンセの方を強めに出しているんです。なのでどれにも聴こえるというのはある意味正解ですね。

ーーなるほど。この音ひとつが「ミクトラン」における冥界を飽和しているようで、すごくいいなと思ったんです。

芳賀:ありがとうございます。この音ができて「冥界の番人」を作り上げたことで「ミクトラン」の音楽の全景がはっきり見えた感覚はありました。これを軸に展開していけるなと。とはいえ、スマートフォンで出せる音には限界があって、それをわかりつつどうしてもこういう音で作っておきたいと思ったので、ぜひイヤホン、ヘッドホン、そしてもちろんサウンドトラックで楽しんでもらえればと……(笑)。

ーー制約はあるものの、サウンドトラックとして出るとなれば一旦無視して作りたくなるのがクリエイターの性ですよね。

芳賀:ですね(笑)。50kHzくらいが一番良い感じの音を入れてしまうと、本当にスマホで聞こえないですから。それでも、特にローの音に関してはどうしても妥協できない癖があるんですよね。

ーー続いては「最後の勇者」について聞かせてください。今回のOSTのなかでも特に大好きな曲で、儚さや美しさとカマソッソの気高さを表していると感じました。

芳賀:「最後の勇者」はカマソッソ戦の曲ですが、通常戦闘曲が発展してそれがカマソッソの曲になっていくというのはあらかじめ分かっていたので、先ほど質問していただいた動きがあるメロディというのも、この曲でオーケストラとして使うテンポ感を踏まえたものだったんです。

ーー全体のバランスも考えつつ、ここにある種のピークを持ってくるようなイメージだったんですね。

芳賀:もちろんORTシリーズを含めて大事な曲はたくさんあったのですが、「ミクトラン」において最も重要だと考えていたのはこの曲でした。

ーー「ミクトラン」はカマソッソ、テスカトリポカ、ORTという大きな3つの難関があって、それぞれに全然違うテイストの曲を当てているのは本当にすごいなと。

芳賀:改めて振り返ると、自分でもそう思えてきますね(笑)。でも、今回は本当に苦しんだ印象はなくて、当たり前に出し切れたような感覚だったんです。『Fate/Grand Order Original Soundtrack V』に収録されている「星の生まれる刻」と近い感覚かもしれません。

ーーテスカトリポカ戦はまさにマリアッチっぽい感じで「ミクトラン」の中でもめちゃくちゃ異質な曲ですよね。

芳賀:FGOの中でラテンテイストというと、これまではコントみたいな曲しか作ってこなかったので、こういった局面でラテンと向き合うとは思っていませんでした(笑)。明確なイメージがあったのでそこまで苦戦はしなかったのですが、あのストイックなギターストロークを本当にずっと続けるべきなのかは最後まで悩みました。でも、実際にゲーム内で聴いてみると、時間が淡々と止まっているようでもあり、一方で新しい物語が動いているような気がして。そこで変にコードが変わっていったり、上物をもっとダイナミックにしていたらこうはならなかったと思いますし、ストイックなフレーズの上で制限されたメロディが黎明な雰囲気を表現できたと思うので、必然的にこうなったのでしょうね。

ーー実際にプレイした印象でいえば、バトル的にも結構苦戦するうえに所要時間も長いので、あのストイックなギターストロークを聴き続けることでだんだんハイになってくる感覚を覚えました(笑)。

芳賀:そう言われてみると、元々僕は2000年代前後くらいのテクノやドラムンベースなどから得たものを『Fate/stay night』の劇伴に落とし込んでいたので、原点に立ち戻ったような気分にもなりました。ミニマルなループの上でピアノのメロディが鳴ってる、といったスタイルに結果的に回帰していると考えると面白いですね。

ーーFateシリーズの話にもなったので、ORT戦の話に移らせてください。TYPE-MOON作品においても圧倒的な存在として描かれているORTに立ち向かうことになり、そこに曲を書くことになったというのは、どんな感情だったのかなと。

芳賀:うーん……「やるしかないな」という感じですね(笑)。「ミクトラン」のBGMリストが出てきたときにORT戦があることを知って、他の曲を作りながら「このあとやるのか、どうしようかな……」という状態が続いていたんです。改めて第2部 第7章以前の曲を聴いてみると、どの曲の作り方を踏襲してもORT戦に耐えうる強度がないと思わされて。そんななかで先ほど褒めていただいた「冥界の番人」のあの音が完成して、この手法や音を軸にして組み立てれば、ORT戦も大丈夫だという確信がありました。

ーーそうして書き下ろした最初の楽曲が「膨張する太陽〜ORT1〜」。イーブンで入ってくるキメの音がグリッチっぽくなっていたり、キックの音がすごく籠っているように聴こえたりと“わけのわからない音色”を意図的にやっている感じが面白いなと感じました。

芳賀:ORTの曲は4つあるのですが、実際にORTそのものを表現したのはこの曲と「Invade Spider 〜ORT2〜」の2曲で。ストーリー上では戦ってもなにも通じず理解もできず、目覚めてからは絶滅という名のものがただ迫ってくるだけ、という恐ろしさを音楽としてどう表現しようかを悩んだ結果、今回のような曲になりました。得体の知れなさ、不気味さ、パワーを細やかな部分だけで表現するのはすごく難しいなと思い、サウンドや音色そのものに変化をつけないと厳しいなと考えたうえで独特な音色作りをしたんです。

ーー2曲目となる「Invade Spider 〜ORT2〜」は、まさに襲いかかってくるイメージというか。先ほどもドラムンベースという単語が出ましたが、絶滅がただ迫ってくる中である種のどうしようもなさからハイになるみたいな感覚に結構近くて。レイド自体が大変で聴く時間が長いこともあり、プレイしていても「やるしかない!」感を覚えました。

芳賀:自分のサーヴァントが消え続けてしまう感覚は怖いでしょうし、「膨張する太陽 〜ORT1〜」との違いとしては「動き出している」ということと「倒せなければこちらの仲間がいなくなる」という恐ろしさを表現できるようにしました。

ーーそうした2曲があった一方で「Invade StarCell 〜ORT3〜」と「異説地球紀行 O・X 〜ORT4〜」はもう少し地に足が着いていて、どこか腹が据わっているような印象を受けました。

芳賀:おっしゃる通りで、「Invade StarCell 〜ORT3〜」と「異説地球紀行 O・X 〜ORT4〜」はORTを表すのではなく、ORTに抗うものたちをイメージして作った曲です。ORTにオーケストラサウンドは合わないと思っていたのですが、描く立場を変えることで、この2曲ではオーケストラサウンドで表現しても違和感がなくなったことは大きかったです。耳が「膨張する太陽 〜ORT1〜」と「Invade Spider 〜ORT2〜」の音に慣れてしまったところにオーケストラが出てきたことで、本来よりも強い効果を出すことができました。

ーー聴かせる順番で与える印象が違うというのはとても面白いですね。「異説地球紀行 O・X 〜ORT4〜」はORT戦としては最終段階にあたるオルト・シバルバー戦の曲となるわけですが、最も大きいスケールで表現しなければいけないということもあり、GRAND BATTLE曲のような印象を受けました。

芳賀:これもおっしゃる通り、曲調は完全に「GRAND BATTLE」ですよね。僕としても「GRAND BATTLE 4」を作るような気持ちでした。ここまでのORT戦の楽曲でもシンセは入っているのですが、この曲だけは「Cosmos in the Lostbelt II」とリンクするようなパートも入っているので、そのあたりもメインストーリーにおける重要性を意識しました。

ーーモチーフといえば「ミクトラン」後半のマップテーマである「空想樹海決戦:オルト・シバルバー」では「カルデア」「Grand Order」、「シャドウ・ボーダー」のモチーフが使われていますよね。ここまでの大きな戦いでは「カルデア」や「Grand Order」のモチーフを使うことが多かったのですが、それをマップ曲に使って「異説地球紀行 O・X 〜ORT4〜」で「Cosmos in the Lostbelt II」のモチーフを使うというのも面白いなと思いました。

芳賀:「空想樹海決戦:オルト・シバルバー」は、勝手にこれらの曲が乗っかってきたような感覚なんですよ。作っている間にだんだんこれらの曲を使うべきなんじゃないかと思えてきて、結果的に3曲が綺麗に乗っていたという。

ーー曲に導かれたということなんですね。FGOは第2部 第7章が終わり、現在は奏章「オーディール・コール」が始まっています。第2部がひとつ完結を迎えたということが、芳賀さんにとってどのような感覚なのかを伺いたいです。

芳賀:第2部 第7章からはある意味“最後の戦い”のようなイメージで、自分のなかでは「物語の結末」に動き出したという実感があります。奏章に関しては、重要でありつつもあくまでその流れの中にあるものという気持ちですね。そのために用意してきたのが「Cosmos in the Lostbelt II」であり、奏章近辺のタイミングで新しくなったBGMたちなんです。ターミナルのBGMについては「Cosmos in the Lostbelt II」とセットで考えていて、「Cosmos in the Lostbelt II」では何かが起こったことを予感させ、ターミナルのBGMではそれでも進んでいく決意のようなものを表しています。ちなみに、これまでのターミナルBGMはそれぞれ「カルデア」、「シャドウ・ボーダー」というタイトルを付けてきましたが、今回はおそらく「ストーム・ボーダー」という名前にはならないと思います。曲に込めたイメージ的にそれだと少しイージーな気がしていて。次のサウンドトラックを楽しみにしておいてください(笑)。

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