空間演出ユニットhuez「3.5次元のライブ演出」第八回

帰ってきた観客たちの受容は変化し、パフォーマンス・アクトは密教化するーーhuez代表・としくにが語るコロナ禍を経た"ライブ演出”の現在地

“正解”が無限にある時代において大事なのは「ゴールを見失わないこと」

ーーここまで観客とアーティストがいずれも細分化・多様化している状況についてお話を伺ってきて、個人で活動する方、パフォーマンスをする方はこれからますます増えていくだろうと感じました。huezは幅広くライブ演出や照明演出を手掛けている制作集団だと思いますが、その目線から見て、としくにさんが思うこの時代のアーティストの「勝ち筋」や、あるいは「こういう活動をしていくと面白いかもよ」と思うことがあったら教えてください。

としくに:答えになっているかわからないですけど、自分にとっての「ゴール」とか「勝ち」が何なのかを設定するのが大事だと思います。ようは昔、メディアがまだテレビとラジオだけだった時代ってやっぱり「テレビに出ること」が一個のゴールになっていて、“正解”だったと思うんですけど、今はその正解自体が多様化しているから、別に「ゴール」とか「勝ち」は何だっていい。全部が“正解”だと思います。

 極論、食えてなくてもいい。やれていて満足ならそれが一番いいですよ。そのうえで大事なのは「腐らないこと」ですね。腐らないーーゴールを決めて、ゴールに向かうためのHow Toを設定して、それが合っているかどうかを検証して、修正して、また自分だけのゴールに向かっていくわけですが、そのHow Toを修正するときに、自分たちの作家性を変動させなきゃいけない瞬間も出てくる。そういうときにイヤイヤ修正してゴールに着いたとしても、それだと腐っちゃうんですよね、ひねくれちゃうし。ひねくれると続かないし、面白くならない。ひねくれるんだとしても、極論「お金がもらえるんだったらいい」みたいな振り切り方をしたほうがよっぽどいいと思う。

 インターネットのおかげで、いまは売れるのがものすごく早いじゃないですか。昔は「一発屋」なんて呼んだけど、もっとすごい短い速度で“バズ”が起きるし、しかもジャンルもあんまり関係ないんですよね。たとえば、昔の時代はミュージシャンは音楽でしかバズらなかったはずなんですよ。けど、今は喋りが面白いから売れるとか、キャラクターが面白いから売れちゃうみたいなことがたくさん起きてて、ミュージシャンもVTuberもシンガーもお笑い芸人も、自分のやっていることのジャンルと関係なく突然跳ねたりするわけですよ。

 それを「誰にでもチャンスがある」というのは良い言い方で、本人たちには、「ちょっと自分の方向性と違うんだよな」みたいな葛藤が出てきちゃうこともままあるだろうと思うんです。精神的な整理整頓ができないまま売れてしまっている人がいて、周りとかマネージャーとかから見たら全然悪くない状況に見えても、本人たちの自負としては複雑、みたいな。

 なので、すごく時代に逆行したことをいいますが、僕はいま、マネージャーやプロデューサー・ディレクターをとても大事にした方がいいと思っているんです。“正解”が大量にある時代だからこそ、こういう「方向性を決める人たち」というのはこれまで以上にアーティストに寄り添って話さなきゃいけないし、アーティストはいままで以上に信用できる人を見つけて、ちゃんとコミュニケーションを取りながら、腐らないでやっていくことが、ものすごく大事な時代になると思っています。

 そのコミュニケーションが噛み合わないとみんな独立しちゃうんですけど、アーティストが独立して活動を続けるのは相当大変だと思うんですよ。とくに会社を立ち上げる、法人格を持つなら、活動に関係のないこととたくさん向き合わなきゃいけない。

 huezでもそういう、部署の違いで起きるディスコミュニケーションはなるべく減らしたいから、意図的にチームマネジメントしている部分があります。たとえばレーザーや映像の担当者がディレクターに文句を持つのは“あるある"ですが、こういう担当者が今度ディレクターをやってみると「こんなにクリエイターの言語に合わせて喋らないといけないんだ」と気づいたりとか。

 逆に、お互いにリスペクトを持てる感覚の近い仲間が居て、同じゴールが見えていて、How Toも全部正解であれば、そのまますごい速度で売れるアーティストもいるわけです。こういう人たちは独立しようが事務所に入っていようが関係ない。腐っていないから。構造は全部一緒で、腐らないためには「相互理解」がとても大事ですね。腐ったらうまくいかないですから。

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