連載:作り方の作り方(第四回)

「本当の怖さは、視聴者が再発見するもの」 放送作家・白武ときお×「フェイクドキュメンタリー「Q」』など手がける映画監督・寺内康太郎が語る"ホラーコンテンツの可能性”

視聴者を「誘導」するのではなく「信頼」する時代に

白武:寺内さんのこれから理想というか、こんな活動をしたいとか、理想的な形はありますか?

寺内:一番の理想は、これまでのスタイルと価値観のままで評価されることですかね。それが一番テンション上がると思います。

白武:これまで20年続けてきた心霊ドキュメンタリーの流儀ですね。

寺内:そうですね。それをやってるのが『Q』で、僕たちメンバーが共有している「このままであってほしい価値観」を大切にしながら制作しています。価値観をアップデートして、より多くの人に観てもらおう、みたいな方向性じゃないんですよ。それはもちろん自分たちで出資しているからこそできることではありますだから映画化のお話しとかがあっても、「この人とは価値観を共有できそうにないな」と思ったら、オファーを断っちゃいますね。

白武:この人に褒められたい、みたいなのはありますか?  この監督に自分の作品を認められたい、みたいな。ジョーダン・ピールとか。

寺内:それは嬉しいですね。現役でチャレンジしてる感のある人に認められたいのかもしれません。

白武:やっぱりジョーダン・ピールいいですよね。『ゲット・アウト』とか『アス』みたいな、ああいうカラっとした怖さのある映画を目指したいですね。

寺内:でも映画って、運も大事ですから。白武さんは持ってる人だと思うので、5年後とかにはきっとなにか形になっているんじゃないですか。

白武:だといいんですけどね。あとは理想を言うなら、ジョーダン・ピール的なカッコいいホラー映画だけじゃなくて、貞子やペニー・ワイズみたいなアイコンも手がけてみたいんですよ。それこそハロウィンでみんなが仮装するような世界的なキャラクターが作れたら最高だなって。寺内さんは、アイコンをつくりたいとは思わないんですか?

寺内:思わないことはないですけど、やろうと思ってできることじゃないですからね。一般的にホラー映画の多くって、その都度アイコンをつくろうと意気込んでるんですよ。でも、ほとんどがうまくいかない。あれこそ運の要素が大きいんじゃないですかね。もしも狙って当てられるなら、最高に気持ちいいんでしょうけど。

白武:それってなんで当たらないんですかね?  トライ&エラーを繰り返したら、どこかでドーンと当たる気もしないですか?

寺内:お笑いでも渾身のネタでスベって、逆にそうでもないネタでめっちゃウケた、みたいなことってあると思うんです。あれと一緒なんじゃないですかね。狙えば狙うほど、視野が狭くなって当たらなくなるっていう。ハリウッドだとそれを防ぐために、制作の途中で第三者に観てもらって、ガッツリ意見をもらったりもするみたいですね。

白武:お客さん目線で観てもらって、悪口を言ってもらう。

寺内:そうそう。それで編集も変えるんですよ。時間とお金があるからできることですけど、そうやって精度を上げていけば、狙ってアイコンを生み出せる確率も高くなるのかもしれないですね。

白武:採用するかどうかは別として人に意見を聞くのは大事ですよね。

寺内:なるべくいろんな目線があった方がいいですよ。たとえば100人に観てもらって、1人だけ「ちょっと違う」という人がいたら、その人の意見こそ深掘りしたい。99人は良いと感じるのに、1人だけ違う。その感性って、すごく貴重だと思うんです。

白武:『Q』をつくるときも、いろんな人に意見を聞いたりするんですか?

寺内:これがですね、『Q』は約束事として、メンバー4人以外には情報を出さないことにしています。4人の中でも意見を擦り合わせたり、「答え合わせ」はしないたりしないようにしているんです。いま話していたのとは真逆で、超個人主義的な制作方法ですね。

白武:それって4人が互いのセンスを信頼しあっているからこそできることですよね。

寺内:そうですね。でも、お互いがなにを考えているのかを完全に理解することは不可能だから、作品のなかには僕たち自身にもよくわからない部分が残っているんです。その空白を埋めてくれるのが視聴者さんたちなんですよ。

白武:考察を重ねて、ものすごい解釈を生み出してくれる人もいますしね。

寺内:あとは思いもよらぬ部分に注目してくれたり。たとえば「トラホンピータ」という単語だったり、「失敗や!」っていうセリフが、コメント欄で一種のバズワードになっていたことがありました。どっちも全然狙ってたわけじゃないんですよ。むしろ作品のすべてを精査しないからこそ、強烈な印象を与えるフレーズや映像が、なかば無意識として作品に残るんだと思います。それを視聴者が再発見してくれる。作品というのは受け手のみなさんが育ててくれるものなんだということを、改めて実感しています。

白武:コメント欄やSNSでお客さんの声が可視化されるので、作り手と受け手の関係性も変わりますよね。

寺内:変わりましたねえ。視聴者のコメントを、100%無視できる作者っていないですからね。無意識にせよ、なんらかの影響は受けている。だからあまりにもしつこく考察されると、「もう勘弁してくれよ」とも思うんですけど(笑)。でも、コメントを見ているとみんなすごくリテラシーが高いこともわかるので、お客さんを以前より信頼できるようになった気はしますね。

白武:信頼、大事ですよね。YouTubeとかでも、ちょっと前まではBGMとかテロップで「ここが笑うところですよ」ってポイントを示してあげる演出がセオリーでした。でも、最近それが変わってきているんじゃないかなと感じています。特に20〜30代くらいの視聴者がターゲットの場合、BGMやSEを控えめにしたほうが伸びやすい気がするんですよ。あくまで体感ですけど。視聴者が「感情を誘導されること」が嫌なんじゃないかなと。

寺内:たしかに映画でも、ひと昔前は音楽で感情を説明しちゃおうとする作品が多かったですよね。ああいうのも「観客を信頼していない表現」だったのかもしれないですね。

白武:「視聴者を馬鹿にしていないつくり方」は大切だと思うんですよね。視聴者のリテラシーが上がって、画面に映らない機微みたいなものまで読み解いてくれる。だからSEをどうするかみたいな小手先のテクニックより、現場の空気感を良くすることとかの方が、ずっと大事な気がします。こっちが楽しんでいるかとか、本気でやっているかどうかが伝わる。

寺内:そういう気持ちでつくった方が、クオリティも絶対に上がりますしね。

白武:なのでガツンと気合いの入った寺内さんの新作を楽しみにしています!

寺内:白武さんのホラー作品も待っていますね。これもせっかくの縁ですし、僕に協力できることがあれば、いつでも声をかけてください。

白武:嬉しい! ありがとうございます。近いうちにお声がけさせていただくと思います。

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