他人からタメ口で接客されるのは「逆に気軽」? 『友達がやってるカフェ』がZ世代に受け入れられた理由とは

『友達がやってるカフェ』がZ世代に受け入れられた理由

 「友達がやってるカフェ」がTikTokで流行している。誰の「友だち」かと疑問に思われただろうか。実は店名が「友達がやってるカフェ」なのだ。どんな店で、何が求められているのだろうか。TikTok上での広がりをもとに考察する。

 「友達がやってるカフェ」は2023年4月、原宿にオープンしたカフェのこと。TikTokを中心に話題が広がり、上半期のトレンドを称える各賞に選ばれるほど短期間でブームを巻き起こした。2023年6月にノミネートが発表された『TikTok上半期トレンド大賞2023』の「グルメ部門」に選ばれ、10代~20代女性向けトレンドメディア『Trepo』が選ぶ『2023年上半期Z世代トレンドランキング』でも「コト・モノ」部門で1位に選ばれている。

@wolf.0313 友達がやってるカフェ!っていうのは実はコンセプトで入店からずっと友達のように接してくれるカフェが楽しすぎた!#東京グルメ #japanesefood #tiktokfood ♬ アドベンチャー - YOASOBI

 どのような店なのだろうか。トレンドの発信元、TikTokの230万回以上再生されている投稿を見ると、店員が客を席に案内しながら「久しぶり」と声をかけている。客の「元気?」という問いかけに対しては「めっちゃ元気」と笑顔で返答。まるで付き合いの長い友人同士のようだ。しかし客も店員も初対面である。

@tokai12666 今話題の"初対面"だけど「友達がやってるカフェ」に行ってみたwww #原宿 #友達がやってるカフェ #話題 #カフェ #渋谷 ♬ オリジナル楽曲 - シャモジー

 会話は基本的にタメ口で「決まったら、教えて?」と、手渡されるメニューも独特だ。小さく書かれた「リンゴジュース」の上に「あの田中がいっつも飲んでたのなんだっけ?」と台詞のような一文が書かれている。実はこちらがメニュー名なのだ。客が先ほどのメニュー名を読み上げると、店員は「リンゴジュースじゃなかったっけ?」と返し、自然な会話が成り立つ。

 台詞がついているのはリンゴジュースだけではない。ドリップコーヒーを注文するには「大変そうだから簡単なので大丈夫だよ」と伝えると、「え、ほんまに? 今日混んでたからめっちゃ助かる〜」と反応があり、注文が通る。「いつも飲んでるやつ」と伝えると、ランダムでソフトドリンクが運ばれてくる。

 人気の秘密は何なのだろうか。筆者は「TikTok映え」する工夫と、2つの気楽さがZ世代を惹きつけていると考える。

 店内はお洒落な内装で、料理もおいしそう。グッズのデザインにも力が入れられている。まさに「インスタ映え」しそうな飲食店だ。しかしこの店の唯一の存在にたらしめている付加価値は「TikTok映え」する体験にあるだろう。店内には撮影の許可取りが不要な被写体となる人、会話の機会が用意されている。こちらから投げかけた会話に対して、何が返ってくるかはわからない。訪れる人や投げかける言葉によって違った体験ができ、「行ってみた」「検証してみた」動画を撮影するのにぴったりだ。

 客自身に役割が与えられているのも新しい体験だ。客は「友達がやってるカフェに行く人」として、店で立ち振る舞い、友人と筋書きのない会話をすることになる。無理やり既存のコンテンツに置き換えると「謎解きイベント」のように役割を演じられ、東京ディズニーシーのアトラクション「タートル・トーク」のように気の利いたやりとりを楽しめる。味わえるのは2つを組み合わせた体験、つまりこれまでにない目新しい体験だ。TikTokで紹介したいと感じる価値になるだろう。

 筆者は「人間関係の気楽さ」という別の価値もあると考える。2つの点で「気楽」であることも特筆したい。

 かねてより「気楽でフレンドリーなお店」というものは存在する。常連がフレンドリーな接客をする店員を友人のように扱う場面もあるだろう。また、その関係性に憧れる人も多いはずだ。しかし店員と客という関係上、客側は店員と友人のように仲が良いと思っていても、店員側がそう思っているとは限らない。あくまでサービスである場合も多い。

 「友達がやってるカフェ」は気楽でフレンドリーなお店だ。店員と客の双方が友人のようなフランクな会話ができる。前述のお店との違いは、客側も「友人を演じている」「フレンドリーさを演じている」ということだ。店員側も客側もどちらも演じている点で何かを担うという共通項が生まれる。このフラットな関係性から生まれる気楽さがZ世代に受けいれられているのではないだろうか。

 「友達がやってるカフェ」を仕掛けているクリエイティブディレクターの明円卓氏は、店の狙いについて「日本には『お客様は神様』って文化があるけど、目線を同じ高さにしてみたらどんな体験になるんだろう。そう思ってお店を作りました」と自身のTikTokチャンネル内の動画で語った。狙い通り、気楽で楽しい体験が実現されている。

 2つ目の気楽さに、気まずい空気が流れないことへの担保があるだろう。動画を見ていると、受け答えが自然なことに驚く。店員は客の言葉を受け止め、臨機応変に自然な言葉やリアクションを返してくれている。本来は関係値がない人同士の会話だが、気まずい瞬間がまるでない。体験に安心感をもたらしているのは、店員の会話力、いわゆるコミュニケーション能力だ。

 一体どのような人が働いているのだろうか。スタッフ募集の画像を見たところ、求める条件に「演技や芸能経験がある」と書いてある。

 プロが演じているのだ。プロの技量で、気まずい雰囲気にならないことがある程度、担保されている。人間関係において、特に初対面の人との間に気まずさがないのはかなり気楽だ。

 「友達がやってるカフェ」の魅力を要約すると、プロに身を任せて、気楽に「友達劇場」の一員になれる新しい体験ができる新感覚の飲食店だ。TikTokで発信したくなるのも納得できる。

 Z世代だけではなく、大人の客もいる。気になった方は、1人で訪れるもよし、友人を誘って行ってみるのもよし。誘うときには「友だちがやってるカフェがあるんだけど、今度行ってみない?」と言ってみるといい。その時点で新しい体験が始まっている。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる