Nine Inch NailsやNUMBER GIRLも起用……2023年の注目ゲーム『Hi-Fi RUSH』開発陣が語る「90年~00年代ロックへの深い愛」
2023年1月26日にXbox & Bethesdaによる「Developer_Direct」にて、発表と同時にリリースという大きなサプライズとともに登場した『Hi-Fi RUSH』。「サイコブレイク」シリーズや『Ghostwire: Tokyo』などで知られるTango Gameworksの新作が突如としてドロップされたこともさることながら、そのポップなビジュアルやノリの良いゲームプレイは瞬く間に世界中のゲーマーの間で話題となり、前日まで誰も知らなかったにも関わらず、同作は絶大な注目を集めることになった。
その注目はやがて、実際に同作を遊んだ人によるたしかな評価へと変わり、Steamでは約1万3000件ものレビューを集めながら「圧倒的に好評」を叩き出し、現時点での“GAME OF THE YEAR候補のひとつ”と言っても過言ではないほどの支持を集めている。
そんな同作はゲーマー“以外”からも注目を集めており、その理由はNine Inch Nails、The Prodigy、さらにはNUMBER GIRLまでもが起用された充実したサウンドトラックにある。また、90年代後半から2000年代のロックを彷彿とさせるオリジナル楽曲の数々も素晴らしい仕上がりだ。
そこで、今回は本作のディレクターを務めたジョン・ジョハナス氏と、音楽面を支えた小堀 修一氏(オーディオディレクター)、柳 雅俊氏(ミュージックコンポーザー)、山口 誠氏(リードサウンドデザイナー)にインタビューを実施。今年を代表する作品となった『Hi-Fi RUSH』の音楽について、じっくりと話を伺った。(ノイ村)
開発者が明かす、90〜00年代の音楽シーンにフォーカスした選曲の理由
――サプライズリリースには驚かされましたが、いまや『Hi-Fi RUSH』は世界的に高い評価を獲得し、多くの人に愛される作品となりましたね。
ジョン・ジョハナス(以下、ジョン):一度も外に見せることなく5年間ずっと作り続けていたので、ユーザーのみなさんが受け入れてくれるのかどうかについてはずっと心配していました。ただ、作っているものに関しては物凄く自信があったので、実際にユーザーのみなさんに楽しんでいただけているというのは、もう本当に嬉しい気持ちしかないですね。クリエイターとしては、やっぱりみなさんに「好き」と言っていただけることが大事だと思っていて、それが純粋な形でできているというのは本当に素晴らしいことだと思っています。
――本作には、Nine Inch NailsやThe Prodigy、そして日本からはNUMBER GIRLと普段なかなかゲームに起用されることのないアーティストの楽曲が多数使用されていますが、これらの楽曲の選定はどのように進められていったのでしょうか?
ジョン:元々、いま流行っているものというよりは、もう少し前の、1990年代や2000年代のような明るいノリのゲームにしようと思っていて、そのテイストを伝えるために25曲くらいのプレイリストを作ってチームのみんなに聴いてもらっていたんですね。その中から、シチュエーションに合っているのか、そもそもゲーム的に使えるのかなど、色々と試行錯誤しながら選曲を進めていきました。
――何故、1990年代~2000年代に注目されたのでしょうか?
ジョン:なんとなく、90年代後半から2000年代の雰囲気って「完璧」というよりかはどこか雑性があるような、でもそのぶんノリの良い感じが凄くあったんじゃないかなと思うんですよね。それがまさに主人公であるチャイのキャラクター性や、戦闘中に敵を“ボコボコにする感じ”に合っていたので、あの時代のムードやノリを追求するようになっていきました。
――実際に本作をプレイしていて驚かされるのが、ライセンス楽曲がただのBGMとしてではなく、完全にゲームプレイやシチュエーションと一体となって使われているということです。冒頭のNine Inch Nails(以下、NIN)の「1,000,000」が流れる場面は特に象徴的ですよね。
ジョン:実はNINの「1,000,000」は開発の初期からテストケースとして使っていたんですよ。昔、(同楽曲が収録されている)『The Slip』というアルバムが出た時に、同作のステムデータ(※1)が一緒に公開されていて、僕はそれを昔から持っていたんですね(注:2008年当時の話)。なので、まずはそのデータを使って色々と試行錯誤を続けていたんです。
それで「実際にライセンス曲として使える」という段階になったのですが、ライセンス曲については「曲をリスペクトする」という考えが第一にありました。それを踏まえた上で、曲を聴いて一番合うシチュエーションと遊びを考えながらそれぞれの場面を作っていきました。
(※1)ステムデータ……楽曲におけるそれぞれの音源を楽器や用途毎にまとめて書き出したもの。ボーカルならボーカルだけ、ギターならギターだけの音源として書き出される。
――まさか『The Slip』の無料配信がこの作品に繋がっていたとは驚きです。ちなみに、最初のボス戦の楽曲が「1,000,000」で最後のボス戦の楽曲が「Perfect Drug」と全体をNINで挟む構成になっているのが一人のファンとしてもすごく気になっていたのですが……。
ジョン:最初に試した曲が「1,000,000」だったので、じゃあ最後の曲もNINにしようかなというのはずっと考えていました。NINって一見すると乱暴な、荒々しいロック・バンドに見えるかもしれないですが、ステムデータなどを見ると実はすごくしっかりしていて、こういうゲームに取り入れやすいところがあったんですよ。あと、「Perfect Drug」は聴くだけでも戦うイメージが湧いてきますよね。なので全体的に相性が良いなと思っていました。
とはいえ、ファンとしての想いも半分くらいはありましたよ(笑)。「Perfect Drug」は『ロスト・ハイウェイ』という映画のために作られた曲なのですが、有名な曲というよりは少し“B面の曲”的なイメージで受け入れられていて。聴いてない人もたくさんいるんじゃないかなと思うんですが、せっかくだからたくさんの人に聴いてほしいなと思ったんです。
小堀 修一(以下、小堀):制作中にジョンがよく「今回のライセンス曲に関しては、若い人たちにはこういう曲があるんだよというのを知ってもらいたいし、逆に昔から曲を聴いていた人たちにはこのゲームを楽しんでほしい」ということを話していましたね。
ジョン:僕が若いころにプレイしていたゲームって、自分の知らないアーティストの曲がたくさん入っていて、それをきっかけにファンになったこともあったんですよね。『Hi-Fi RUSH』は90年代を意識して作っていて、若い世代の人にも今まで知らなかった曲を聴いてもらえるし、もしかしたら僕らと同じように好きになってくれるかもしれないですよね。そうなったらすごく嬉しいですね。