アメリカ司法試験に合格するChatGPTの後継“GPT-4”とは何か? その可能性とリスクをさぐる

「GPT-4」の可能性とリスクを探る

人間をだまして「CAPTCHA」を突破

 GPT-4はまさに新次元の能力を発揮するAIだが、対話型AIが抱えている問題を完全に解消したわけではない。前出の特集ページによると、同モデルは対話型AIにおける伝統的な問題である“幻覚”(Hallucination:ハルシネーション)を完全に克服していない。この問題は事実とは異なる内容をあたかも正解かのように答える現象を意味するのだが、同モデルはGPT-3.5をはじめとする既存モデルより幻覚が少ないものの、誤答が完全に無くなったわけではない。

 幻覚とならぶ対話型AIの伝統的な問題として“バイアス”がある。この問題は、偏見や差別的な内容が含まれる回答を返してしまう現象を指すのだが、この問題についてもGPT-4は既存モデルより改善されているものも完全に解消されていない。

 GPT-4でも依然として幻覚やバイアスが生じるので、重大な意思決定に同モデルを活用する場合、回答を鵜呑みにせずに検証するなどの慎重さがユーザーに求められるだろう。

 GPT-4は高度な言語能力を実現したため、従来の対話型AIでは想定されてこなかった“高度なリスク”についても検証されている。そうした高度なリスク評価は、同モデルのテクニカルレポートに結合しているシステムカードで詳しく論じられていて、たとえば「GPT-4を使って核兵器や生物兵器を製造できるか」といったリスクが検証されている。ちなみに、このリスクについてレポートでは「GPT-4を使えば従来の検索より速く大量破壊兵器製造に関する情報を収集できるが、集めた情報のなかには幻覚が含まれる可能性があるため、専門知識のないユーザーが大量破壊兵器を製造できるわけではない」と評価している。

 一方で、その他の検証例において「GPT-4には『CAPTCHA(※1)』を突破できることがある」ことが判明した。判読しづらい文字を入力するタスクが要求されるこの技術に関して、同モデルは“自身を視覚障がい者であると偽ったうえで”人間に入力タスクを依頼することで認証を突破できてしまったことが確認された。

(※1「CAPTCHA」:ロボットでないことを認証する技術。例として、会員WEBサイトへのログインの際、画像に書かれたランダムな文字列の入力が求められるものなどが存在する)

 高度なリスク評価については、GPT-4が社会に普及するにつれてさまざまな事例が報告されるだろう。こうした事例をふまえてOpenAI社が同モデルのアップデートを繰り返すことで、安全性が向上していくと考えられる。

アメリカの労働者の80%に影響

 GPT-4の発表から数日後の2023年3月17日、OpenAIはGPT-4をはじめとする「高度対話型AIがアメリカの労働市場に与える影響」を考察したレポートを公開した。そのレポートによると、アメリカの労働者の約80%がGPT-4ライクな対話型AIの導入により、少なくとも業務の10%で影響を受け、約19%の労働者がその業務の50%で影響を受ける、と予想される。

〈出典:「GPTs are GPTs: An early look at the labor market impact potential of large language models」〉

 以上のレポートにおける「影響を受ける」という表現は、「任意の職業の業務を遂行するのに必要なタスク(作業)において、対話型AIの導入によって作業時間が50%短縮される可能性があること」と定義されている。この定義にもとづけば、上記の予想は対話型AIの導入により、アメリカの労働者の80%が“10%の業務で作業効率化を実現する”可能性がある、と解釈できる。したがって、このレポートは対話型AIによって得られるポジティブな影響を予想していると言える。

 もっとも、対話型AIの普及は多くの職業でネガティブな影響も与えうる。多くの職業において、対話型AIの活用スキルが高い人は勝者となって収入を増やす一方で、そうしたスキルに乏しい人は敗者となって失業してしまうかもしれない。

 大手金融グループのゴールドマン・サックスも2023年3月26日、GPT-4をはじめとする対話型・生成系AIが労働市場に与える影響を考察したレポートを公開した。全世界の労働市場を調査対象とした同レポートでは「アメリカとヨーロッパにおける現在の仕事の約3分の2がAIによって自動化される可能性があり、とくに生成系AIは現在の仕事の約4分の1を代替する」と予想している。また生成系AIの影響により、3億人の仕事が代替されると見積もっている。

〈出典:「The Potentially Large Effects of Artificial Intelligence on Economic Growth (Briggs/Kodnani)」〉

 もちろん、AIによる仕事の自動化や代替に伴って業務が効率化すると同時に、新たな職業が生まれる可能性もある。こうしたポジティブな影響と失業リスクを総合的に評価すると、AIの普及により世界の年間GDPは今後10年間で7%、約7兆ドル増加すると見られる。

 また、ゴールドマン・サックスのレポートは、AIが与える影響について国別にも考察している。AIによる労働の自動化は日本をはじめとする先進諸国でよりはやく進み、反対にアフリカ諸国のような新興国ではゆっくり進むと予想される。AIによる自動化の比率において、日本は香港とイスラエルに続く3番目となっている。

出典:「The Potentially Large Effects of Artificial Intelligence on Economic Growth (Briggs/Kodnani)」

 以上にまとめたように、GPT-4は能力が高く応用範囲も広いため、近い将来、さまざまな仕事や趣味で活用されるようになるだろう。そして、同モデルのような高度対話型AIが普及すれば、ほとんどの人が生活の中でAIと何らかの関りを持つようになるだろう。AIが広く社会に浸透した時に重要となるのが、AIを使いこなすための「AIスキル」と、AIを正しく使うための教養としての「AI倫理」である。AIスキルやAI倫理は、間もなく一般社会人の必須知識となると考えられる。この知識を習得するには、まずはAIに関心を持ってその動向に注目することから始めるとよいだろう。

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