音楽活動における「記録媒体」の重要性ーーMUCC・逹瑯を支える二人に聞く、“大容量ポータブルSSD”が起こした現場のイノベーション
「バックアップを取る作業への心持ちも軽くなって助かる」
ーー想像するのも怖いぐらい、全てが終わったような気持ちですよね(笑)。近年のSSDは大容量化も進み、1TB(テラバイト)以上のデータを持ち歩ける製品も増えてきました。お二人が使用されている『HDPD-SUTB8S』も8TBと大容量の製品になっていますよね。
冨岡:ちょっと前まではハードディスクのほうが大容量のものが多かったんですけど、この『HDPD-SUTB8S』は8TBのデータを持ち歩けちゃうという。
足立:昔は8TBといったら、RAID(※)みたいなシステムを組んでいましたからね(笑)。でも、『HDPD-SUTB8S』はこのサイズで8TB。脅威ですね。
(※編注:RAID=簡単に言えば、複数のハードディスクをひとつにまとめて運用する技術。データの割り振り方などの方式「レベル」により運用方法がそれぞれ異なる。複数のハードディスクへ同時に書き込み、あるいは読み出しを行うことで転送速度が向上したり、データの破損に強くなるといったメリットがある)
ーー普段ポータブルSSDを活用するシーンとしては、楽曲や映像データを記憶させて使うことが多いですか?
冨岡:基本的にはそうですね。
足立:会社や自宅にも、マスターとしてデータを保管するハードディスクはあるんです。けれど、それは持ち出さない本当のバックアップという意味で用意しています。ポータブルSSDは、現場とマスターとの間をつなぐハブという役割です。先ほどの話でも出ていましたが、データをコピーする際、ハードディスクだと転送速度がどうしてもボトルネックになってしまって、すさまじい時間が掛かるんです。けど、SSDはとてつもなく速い。
冨岡:転送速度も速いし、持ち歩くのにも軽いですからね。
足立:業務でデータを管理するとき、バックアップを取る作業への心持ちも軽くなって助かってます。深夜1時に帰ってきて、朝7時には起きなきゃいけない、というときに、バックアップする作業だけで3時間も掛かるのと、SSDを使うことでそれを30分に短縮できるのでは、翌日のパフォーマンスへの影響もまったく違います。そういった意味でもSSDはプロのデバイス。
冨岡:あと、ライブ録音した際に、書き込みの速度も速いので、パソコン本体を経由せずSSDに直で書き込んでも、遅延などの問題がまったく起こらないんです。
足立:48KHz/32bitで56chの音源をDante経由で録音して、SSDに直接データを書き込ませていたんですけど、まったく問題がなくて。
冨岡:ハードディスクの時代は、パソコンにそのデータ量を保存できる領域を確保しておく必要がありました。録音データを一度デスクトップに保存し、それをあとからハードディスクにコピーしてたんです。でもSSDを使い始めてからは、その手間もなくなったんですよ。
足立:現場でバックアップするにしても、56chで2時間録ったものが、SSDならたったの数十分で完了します。
ーー56chの2時間というのは、データ容量としてはどれぐらいになったんですか?
足立:ちょうどデータがあるので、ここにある『HDPD-SUTB8S』を接続してみます……。2時間のワンマン・ライブのデータで約150GBでしたね。現場ではよく、録音したデータを仮でミックス・ダウンをすることがあるんですが、『HDPD-SUTB8S』を導入する以前、別のポータブルSSDでバウンス時に欠損が出てしまったことが一度あったんです。何も音が入っていないブランク部分が存在していて。ミックスで使っている『Mac Studio』との相性なのか、原因は分からなかったんですが……。
冨岡:ええ〜ッ!? あっ、あのときの。データ欠損が理由だったんですか。締め切りギリギリで危なかったですよね(笑)。
足立:そう(苦笑)。原因不明のエラーで、1曲の3小節だけ無音になられちゃうと……怖いでしょ。実際にそういうことを経験したので、この『HDPD-SUTB8S』を導入するときは、事前にテストしたんです。2倍の速度ではレンダリングできないぐらい、大量のプラグインを立ち上げて、データを書き出してみたんですよ。そうしたら、まったく問題がなかったので、そのまま現場の即戦力になってくれています。
ーー足立さんの体験以外でも、周りでそういったトラブルを耳にしたことはありますか?
足立:ハードディスクのデータが飛んだという話はしょっちゅう耳にしますね。
冨岡:現場の“あるある”ですね。ライブハウスや会場によっては、本番でハードディスクが想定外の熱を持ってしまうこともあるんです。
足立:あと、音響の低周波でハードディスクが破損することもあって、マニピュレーターさんのポン出しが消えちゃったとか、そういう話も聞きます。とある現場でも「ハードディスク時代は大変だった……」という話をよく聞きましたよ。SSDは低周波にも強くて、ハードディスクのように熱でエラーが起こることはないですね。