『Weekly Virtual News』(2023年2月6日号)
聖夜の過ちは冷めない――1000万再生に届いた「刀ピークリスマス」と、Twitter大量凍結に揺れたVTuber界隈
聖夜の過ちが、とてつもない勢いで広まっている。『刀ピークリスマスのテーマソング2022』の話である。
「刀ピークリスマス」とはなにか? 説明するのはなかなか難しい。まず、VTuberのピーナッツくんと、「にじさんじ」所属のVTuber・剣持刀也が毎年クリスマスに実施している企画「刀ピークリスマス」というものがある。2018年から続く、伝統ある企画だ。この企画の中で、ピーナッツくんが剣持刀也へ捧げる曲が「刀ピークリスマスのテーマソング」である。
ピーナッツくんが剣持刀也への感情と関係性を歌うこのラブソングは、毎年曲調も歌詞も変えて発表されている。今年発表された『刀ピークリスマスのテーマソング2022』は、「にじさんじ」発グループ「ROF-MAO」にて躍進を続ける剣持刀也との距離を認めながらも、尽きぬ情念をねっとりと伝える、これまで以上に”湿度”の高い一曲となった。
@sara_hoshikawa Vtuber?🥺詳しくないけど踊りました🥹! #刀ピー #ピーナッツくん美味しそう ♬ 刀ピークリスマス2022 - サブ子🍃🥜
この『刀ピークリスマスのテーマソング2022』が、異常ともいえるバズを引き起こしている。最初の震源地は「TikTok」だ。楽曲がウケたのか、ピーナッツくんの動きがウケたのか、MV内の踊りを再現するショート動画が急増した。
@anovamos はちわれって猫への勧誘をかわしまくってる
「にじさんじ」の天宮こころや星川サラが踊った。「モーニング娘。’23」も踊った。ついには本田翼も踊った。数多くのインフルエンサーが踊ったことで、曲の知名度はすさまじい勢いで上昇している。「刀ピー」という言葉も知らない層にまで、そのメロディとリリックが波及している異常事態だ。
「踊ってみた」だけでなく、「歌ってみた」もにわかに投稿され始めている。歌い手の超学生は余すことなく圧倒的な歌唱力をぶつけてきた。ピーナッツくんや剣持刀也とデビュー時期の近いVTuber・田中ヒメも、7時間の長時間収録による本気すぎる歌声を叩きつけてきた。もはや一人から一人へのラブソングから、普遍的なラブソングへと羽化を始めている。
そして2月5日、『刀ピークリスマスのテーマソング2022』は1000万再生に到達した。投稿から約42日での達成となり、VTuber楽曲動画において最速の記録樹立となる。風のうわさによれば、Adoの『うっせぇわ』に匹敵するスピードのようだ。
あらゆる意味で、新たな伝説がVTuber史に刻まれることになる。アーティストとしての活躍もめざましいピーナッツくんにとっても、非常に意義深い記録となるだろう。それでも”たったひとり”にこの想いが伝わることはないというのが、この曲にさらなる価値を与えているのは、皮肉だろうか。
「刀ピークリスマス」が異常震域を生み出している最中、VTuber業界には別の衝撃がもたらされた。にわかに引き起こされたTwitterのアカウント大量凍結事件だ。数多くのアカウントが原因不明な凍結の憂き目を見たが、VTuberにも少なくない数の被害者が確認されている。
推測として立ち上がっている凍結理由には「同一文言の宣伝ツイートが多い」「外部サービス連携による自動ツイートが多い」といったものが挙げられている。しかし、これらを抑えたアカウントでも凍結されたという報告も見られ、これと断定できる要因は依然として不明だ。現時点では、異議申し立てによって解除された人も増えているが、対策しようのない凍結を前に困惑を隠せないVTuberも多い。
イーロン・マスク買収後、不安定な運営が続くTwitterに見切りをつけ、別のSNSへ移住する動きも(数年ぶりに)確認されている。しかし、多くのファンを獲得したいVTuberにとっては、多数の見込み顧客がいるTwitterを見限れない場合もあるだろう。今後「活動拠点の分散」が意識として広まるか、Twitter自体の動向も含めて注視していきたいところだ。