キュートで天真爛漫な小悪魔のにじさんじ・夢月ロアの"これまでとこれから" シーンに一石を投じた誹謗中傷との戦い

 さて、ここまで読んでいただいた方には申し訳ないが、ここまでで彼女の物語については筆を止めなければいけない。夢月ロアが表立っての活動が2020年10月下旬から現在までピタリと止まっているのは、この頃からにじさんじを追っているファンならご存知であろう。

 2020年夏ごろに「夢月ロアが金魚坂めいろ(当時の新人ライバー)をいじめている」などの憶測が広がり、にじさんじ運営のいちから社(現:ANYCOLOR社)が対応に追われることになった。

 2020年秋には夢月ロアを名指しで批判する動画が公開され、これをキッカケにして夢月への誹謗中傷が過熱していくことになった。明らかに関係者しか知りえない内容が含まれたリーク動画であったがゆえ、その衝撃は計り知れず、後日に運営から経緯についての詳細な発表が行われた。

 金魚坂めいろは、秘密保持義務違反による契約上の禁止行為をしたとして契約終了、夢月ロアのTwitterは2020年10月20日を最後にピタリと止まり、当然YouTubeでの配信活動もおこなっていない。とはいえ、2022年7月には彼女の誕生日ボイスが発売されており、新規ボイスやグッズなどの製作が2つ発表・販売されている。

 さて問題は夢月ロアを罵った言葉とそれを煽った動画の責任についてだ。

 2021年12月30日に夢月ロアはインテグラル法律事務所の小沢一仁弁護士に依頼し、デマを流した人物に対して名誉棄損行為をはたらいたとして、訴訟手続き中であることを報告した。

 この場合、デマを流したのがリーク動画を流した人物になるのか、はたまた嘘・間違った情報を流布したまとめサイトも含めての訴訟になるかはハッキリとしていない。2023年1月現在、いまも係争中であると見られる。

 ネットでの誹謗中傷は根深い問題である。

 これまでの日本のネットカルチャーといえば、5ちゃんねる(旧:2ちゃんねる)やニコニコ動画を中心にした「2ちゃんねる圏」を中心にしつつ、ユーモアとノンデリカシーのラインを跨ぐ創作物・言葉で埋めつくされてきた。

 ひどく暴力的・煽情的な言葉遣いで相手を罵倒・侮辱するという行為は、昔と変わらず未だに生き延びている。その矛先は芸能人たちに向かい、お笑い芸人のスマイリーキクチに対する中傷被害事件を筆頭に、ここ数年では川崎希、木村花、春名風花などが大きな話題をさらった。

 「嘘を嘘と見抜けない人はインターネットを使うのは難しい」という言葉を傘にして、「画面の向こうに人がいる」ことをすっかりと忘れ(あるいは無視し)て罵詈雑言を吐き出す人々は、コロナ禍においてインターネットを使用する時間が爆増したこともあって、特に問題視されるようになってきた。

 コロナ禍真っ只中にあった2020年6月、大手Youtuber事務所のUUUMが「誹謗中傷および攻撃的投稿対策専門チーム」を設置し、インターネットと距離の近いバーチャルタレントに関する誹謗中傷対策に乗り出したことを踏まえれば、徐々にインターネットカルチャーの表通りから悪態や罵倒を取り除こうという動きが始まりだしている。

 折しも夢月ロアが活動を休止して裁判へと向かったのは、春名風花さんらの事件が明るみに出たり、UUUMが専門チームを設置した時期と被っている。世情が大きく揺らぐなかで、彼女が下した判断はANYCOLOR社だけでなく、VTuber/バーチャルタレントシーン全体へと徐々に繋がっていくことになった。筆者にはそのように見える。

 2022年12月5日、「ホロライブ」と「にじさんじ」を運営するカバー社とANYCOLOR社が誹謗中傷行為等に関する“共同声明”を発表した。

 所属バーチャルライバー/所属タレントの名誉又は信用を著しく貶め、VTuber活動を不当に妨害する意図をもった誹謗中傷行為に対し、2社共同で連携をとりながら一層厳しく対処していくという内容である。

 まだまだオープンなネット空間で誹謗中傷な言葉を書き連ねている場所が多々あるなかで、約20年間以上にわたって変わることがなかったものにメスをいれ、ノーを突き付けようというこの動きは、ユースカルチャーを引っ張るVTuberや、バーチャルタレントを好む10代~20代にとって大きなメッセージとなるだろう。無用な罵詈雑言や行き過ぎた言葉に関して「ノー」を突き付けるスタンスへの支持は、今後徐々に強固になっていくに違いない。

 夢月ロアが裁判を終えて、復帰するか、あるいはそのまま活動を止めてしまうか。そもそも無事に裁判を終えることができるかどうかすらも、安易な判断は一切できない。

 だがひとつ言えるのは、彼女が意を決して名誉棄損を主張した姿勢を多くのファンが支持していること。目に見えない敵と勇敢に戦う彼女には、帰ってこれる場所があるのだ。

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