はじまりは“静と動の対比”だった サウンドディレクター・大谷智哉が語る、「ソニック」シリーズの音楽における新たな可能性

大谷智哉が語る、「ソニック」シリーズ音楽の可能性

――最後に、3曲存在するエンディングテーマについても聞かせてください。まずは、ONE OK ROCKによる楽曲「Vandalize」について教えていただけますか?

大谷:「ソニック」シリーズの場合、ゲームの主題歌も基本的にはサウンドチームが制作しているので、いわゆるタイアップ曲は「ソニック」15周年のタイミングで、1~2作目の音楽を担当されたDREAMS COME TRUEの中村正人さんの楽曲「SWEET SWEET SWEET」(『ソニック2』)にボーカルを乗せた「Sweet Sweet Sweet (06 Akon Mix)」としてリメイクしていただいたぐらいで、ほとんど取り入れたことはありませんでした。ですが今回、プロモーション施策でも新しい試みをしたいということで、ONE OK ROCKが起用されたんです。

僕らがエンディングテーマをつくると、当然すごく作品の内容に寄り添ったものになるのですが、一方で、アーティストのタイアップ曲となると、映画のエンドロールのような、作品が終わって現実の世界に戻るときの橋渡ししてくれるような存在ですよね。「Vandalize」も本作との絶妙な距離感に魅力があると感じています。

――ゲーム内のストーリーのエンディングテーマに当たる「Dear Father」はいかがでしょう?

大谷:この曲は、ストーリーの最後の結末を受けての曲です。セージという女の子のキャラクターの、お父さんへの気持ちを歌った曲ですね。セージはAIのプログラムですが、シナリオを進めると、ソニックとの関わりの中でだんだんと感情的なものが芽生えてきます。感情の発露となるシーンでかかっていたのが「Cutscene: Heart and Soul」という曲です。

この曲は今作の劇伴を担当している江口貴勅さんに書いてもらったのですが、そのモチーフがとてもよかったので、感情が芽生えた後のセージからのメッセージとして、ボーカル曲にしてエンドロールに流そう、というアイディアが浮かびました。そこで、江口さんがつくってくれた部分をサビにして、僕がそれ以外のパートを作って歌モノとしての構成を作り、また江口さんにアレンジをしてもらう、というキャッチボールをして完成しました。この曲は岸壁にドクター・エッグマンが立ちすくむ最後のシーンで流すことに決まっていたので、そこにどういうイントロがあって、江口さんがつくってくれたサビの部分に繋がるのがいいかをイメージしながらフルコーラスの楽曲としての構成を考えていきました。

――その結果、柔らかいピアノの音色で楽曲がはじまる構成になったのですね。あの部分は、涙なしでは見られない感動的なシーンでした。

大谷:やっぱり音楽の入り方ってすごく大切で、いい曲であっても、その曲に適した場面で流れないとそのよさを発揮できないですよね。ですから、いい曲をつくることと同じぐらい、いいタイミングで流すのは大切なことだと思っています。

――一方で、真エンドで流れるエンディングテーマ「One Way Dream」は、開発チームからのメッセージが込められた楽曲になっているそうですね。

大谷:この曲は、難易度「スリル」をクリアした際に「Dear Father」の後にもう一回カットシーンを挟んで流れる曲ですが、その場面はソニックたちがトルネード号に乗って次の冒険に向かっていくシーンなので、明るく希望を感じられる楽曲にするのはどうかとディレクターに提案しました。

今回は「寂寥感」がテーマで、いつものソニックっぽい楽曲がほぼほぼない状態だったので、「最後は明るい曲で終わらせるのが作品の後味として清々しいものになる」と思ったんです。それで「歌詞はどうしよう」という話になったときに、ディレクターの岸本が、このプロジェクトのミッションやビジョンを開発チームに共有するために言っていた言葉から、歌詞のアイディアを思いつきました。岸本は開発中、「『ソニックフロンティア』で、もう一度世界で輝くソニックチームを取り戻す!まずは今作を成功させて、月(世界の土俵)に向かうための3段ロケットの1段目の点火をさせる!」ということを何度も話していたんです。「その話、何度も聞きましたよ」と思うくらいに(笑)。

――ははははは。

大谷:でも、それくらい何度も言うということは、それだけ想いが詰まっているということでもあります。そこで、もちろんそのままではないのですが、そのとき岸本が言っていたことを書き起こし、それらをキーワードに作詞家と一緒にソニックや我々ソニックチームが大きな夢に向かって進んでいくポジティブなメッセージソングとしての歌詞に仕上げていきました。

――「色々あったけれど、まぁ次に行こうぜ!」という雰囲気のこの楽曲が真エンドで流れること自体が、非常に「ソニック」シリーズらしいと感じました。

大谷:そうですね。僕自身も、「ソニック」シリーズで一番好きな場面は、ソニックがまた次の冒険に向かって走り出すラストシーンだったりするんですよ。未来への希望しかない、いいシーンですよね。

――また今回、Amazon.co.jp限定特典として、ホロライブの戌神ころねさんとコラボレーションしたDLC「SE:戌神ころね」も用意されました。ゲーム内SEがころねさんの声に変わるユニークな特典ですが、サウンドチームのみなさんが工夫したことを教えてください。

大谷:今回営業サイドから、Amazon.co.jpさんのDLCとして「(リング音など)ゲームの一部ボイスがころねさんの声に変わる施策をやりたい」と提案をもらったんですが、最初は「マジで!?」とビックリしました。というのも、ゲーム内で頻繁に聴くことになるリング音はソニックのトレードマークのようなものなので、普通そこ変えないですよね!(笑) でも、せっかく出てきたアイディアですから、まずは一度、実装のテストをしようと思って効果音を差し替えてもらいました。その時点で営業サイドは喜んでいました(笑)。

ただ、最初はリング音とココのボイスが変わる、という2点のみの提案だったので、「それだけじゃなぁ……」と思い、僕の方から6~7点の効果音をころねさんのボイスに変える提案をしました。岸本ディレクターからも、島上に配置されたスプリングやダッシュパネルといった色々なギミックのリズミカルな効果音がころねさんのボイスに変わったら、面白くなるんじゃないか」とOKをもらいました。あらためて、ころねさんの実況動画を見返して、「おらよ〜」や「ばびょ〜ん」などアクションゲームをプレイしている時に発する印象的なワードをメモして、ご本人とも「こんなセリフはどうですか?」とやりとりしながら録音させてもらいました。

――『ソニックフロンティア』は、「ソニック」シリーズにとってどんな作品になったと感じますか?

大谷:「30年以上続いてきたシリーズにも、まだまだ新しく開拓できる可能性がある」ことを示せたのが、このゲームの大きな成果だと思っています。「ソニック」はまだまだ可能性に満ちている。これは、僕らも一番ワクワクしている部分です。その中で、音楽は全方向にアプローチできるようなものに仕上げることができたかな、と思います。

過去に取り組んできたアプローチも踏まえながら、「歌モノはどんな場面で流れたら効果的なのか」「ジャンルはどう散りばめられていたらユニークなサウンドデザインになるか」など、もう一度考え直すことができました。ゲーム音楽という枠にとどまらず、世界に自信を持ってお届けできるクオリティの、最新の「ソニック」の音楽になったと思っています。

――今回の制作を経たことで、これからの「ソニック」の音楽も変わると思いますか?

大谷:自分の中では、「ソニック」の音楽にとっての新しい基準になったと思います。サウンドトラックとして発売された『ソニックフロンティア オリジナル サウンドトラック Stillness & Motion』も、発売初週にSpotifyのチャートの全世界のトップ10、アメリカの6位に入ることができました。ゲームのサウンドトラックが、そのようなチャートに食い込めたことに僕自身も驚きましたし、今回取り組んできたことに大きな手応えを感じることができました。

――サウンドトラックは全6枚組150曲という膨大な曲数で、ここからもみなさんが制作時に作品に込めた熱量が伝わってきそうです。

大谷:はじめからこの山がどれくらいの高さになるのかは分からずいたからこそ登ってこれた、という部分はあったかもしれません。すごく高い山に登ることを考えていたら、気持ち的にも大変な作業になっていたかもしれませんね。

――まるでソニックと一緒に未開の地を開拓していくような感覚だったんですね。

大谷:そうですね。そして気がついたら、この場所に辿り着いていた、という感じです。

■『ソニックフロンティア』オリジナルサウンドトラック配信ページ
https://lnk.to/sonicfrontiers_j

■『ソニックフロンティア』オリジナルサウンドトラック製品ページ
https://sonic.sega.jp/SonicChannel/topics/sound/20221007_003026/

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