『ダンジョンズ&ドラゴンズ』『マジック:ザ・ギャザリング』『Mörk Borg』── テーブルゲームの「音楽的アプローチ」に注目
テキスト&ゲームデザインをペッレ・ニルソン (Ockult Örtmästare Games) 、グラフィックデザインをヨハン・ノール(Stockholm Kartell)が手がけ、kickstarterでのクラウドファンディングキャンペーンを経て2020年にFree League Publishingから出版されたスウェーデン発のテーブルトークRPG『Mörk Borg(モルクボリ)』は、まさに「異形」「規格外」という言葉がふさわしい、ドス黒い黙示録的世界観のドゥーム/エクストリーム・メタル系ゲーム。
たちまち世界中で話題となり、ファン選出によって優れた卓上RPGを表彰する世界的な賞である、エニー・アワード(ENnie Awards)の2020年度において優秀ゲーム賞(銀賞)、最優秀叙述賞(金賞)、最優秀レイアウト&デザイン賞(金賞)、年間最優秀作品賞(金賞)に輝いた。
『Mörk Borg』のイメージ楽曲集として、ノールの選曲によるSpotifyプレイリストも公開され、スラッシュ・メタル、ドゥーム・メタル、ノイズコア、ストーナー・メタル、ドローン・メタル、スラッジ・メタル、デスメタル、ゴシック・メタル、ブラック・メタル、アヴァンギャルド・メタルを網羅した内容となっている。
『Mörk Borg』にはサードパーティライセンスがあり、これによって二次創作作品をある程度自由に制作・販売できる点もファンの支持を集めた。世界各国の有志によってこれまでに1000以上のサードパーティ作品が制作され、その数は今もなお増え続けている。さらに、クリエイティビティを刺激されたミュージシャンたちが本家あるいはサードパーティ作品にインスパイアされたサウンドトラックを制作するという連鎖反応も起こっている。
ダンジョン・シンセと共鳴した公式サウンドトラック
2019年10月8日に配信され、少部数でカセットテープ版も制作された『Mörk Borg』公式サウンドトラックが、GNOLL『Mörk Borg』だ。リリース元は、ダンジョン・シンセ(ブラック・メタルから派生した電子音楽ジャンル)のカタログを数多く擁している、イタリア・ミラノを拠点とするHeimat Der Katastrophe(HDK)。奇妙で珍しい音楽を愛好する者たちのために門戸を開いている懐の深いレーベルである。
音楽を手がけたGNOLLは、クラシックなテーブルトークRPGやウォーゲーム、ゲームブックなどを題材としたイメージアルバムを制作し続ける謎多き人物(ネーミングの由来は、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』に登場する架空の種族ノールだろう)。わずか数日でつくりあげたという本作では、70年代ハード・ロック/ドゥーム・ロックのスモーキーで神秘的なムードにインスパイアされた、荒涼としたシンセサイザー・インストゥルメンタルでどこまでも深い闇を投げかけている。
クリエイター同士のヘヴィなコラボレーション『Putrescence Regnant』
ヘヴィ・メタルやオカルトをテーマとしたテーブルゲームを扱うスモールプレス Exalted Funeralから2020年に出版された『Putrescence Regnant』は、熱帯SFと音楽を結びつけたテーブルトークRPG『Death Robot Jungle』のクリエイターであるアンドレ・ノヴォアとマヌエル・ピニェイロ(デヴィッド・トゥープやクリス・ワトソンの指導を受けたサウンドエンジニア/電子音楽家でもある)が、『Mörk Borg』の世界観とコラボレーションしたアドベンチャー・モジュール。
『Death Robot Jungle』と同じくレコードジャケット型パッケージを踏襲し、見開きジャケットはゲームスクリーンの役割も果たすつくりとなっている。腐敗した沼地を巡る本作のサウンドトラックにはトライバルなビートと金属的な軋みが唸るインダストリアル/ドゥーム・メタルを収録し、アメリカの重鎮ドゥーム/ストーナー・バンド Sunn O)))のギタリストであるグレッグ・アンダーソンや、サイケ/フォーク/アヴァンギャルド系バンドに参加するコロンビア出身のクラリネット/サックス奏者マリア“マンジェ”ヴァレンシアがゲストミュージシャンとして参加している。2021年10月25日付でサウンドトラックが配信された。
和風ドゥーム・メタル的世界観で呼応した『信長の黒い城』
『Mörk Borg』に日本でいち早く反応し、漆黒の世界観に深く惚れ込んだゲームクリエイターが、30年以上に渡ってTRPGを中心とするテーブルゲームのデザイン・翻訳を手がけてきた朱鷺田祐介だ。朱鷺田が『Mörk Borg』のサードパーティライセンスに基づき、気鋭のクリエイターたちとともに製作した『信長の黒い城』は、本能寺の変が起こらず、織田信長が第六天魔王となり世界を破滅に導かんとする戦国時代を舞台とした一作。
プレイヤーは信長に殺された後に地獄から蘇った復讐の死人となり、破滅的未来を覆す(本能寺の変を起こす)ために闇の戦国の世を駆け巡る。2022年8月12日から9月9日にかけてkickstarterにてクラウドファンディングを行い、目標金額の300%以上を達成。11月中旬に一般販売が開始された。『黑怕合-クロユリ-』と題したイメージアルバムも制作されており、エレクトロ・ミュージックを得意とするコンポーザー るーく(neko.yanagii)による、和のエッセンスとメタルサウンドをミックスした楽曲を収録。アルバムブックレットには、朱鷺田による書き下ろしのシナリオも収められている。
【信長の黒い城 公式サイト】
https://nobuborg.jp/
【信長の黒い城 イメージCD「黑怕合-クロユリ-」】
https://conos.jp/product/nobuborg-cd/
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