『The Games Awards』開催直前 「プレイヤーに影響や変化を与えたゲーム」のノミネート作品は?

 すっかり年末の風物詩となった、ビデオゲーム業界最大のアワード『The Game Awards』。昨年の開催時には8,500万回以上もの累計視聴数を記録するなど、その規模は拡大していく一方だ。グラミー賞やアカデミー賞がそうであるように、その関心はいわゆる“最優秀賞”に該当する“Game of the Year”に集中しており、大本命である『ELDEN RING』と『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を筆頭に、果たしてどの作品が受賞するのかという予想合戦や、アワードにからめた「個人的GOTY」を語り合うなど、多くのゲーム好きがそれぞれの楽しみ方を満喫している。

 一方で、“Game of the Year”以外の部門については、なかなか注目が集まりづらいというのも事実だろう。『The Game Awards』には合計で31の部門が用意されており、さまざまなジャンルや基準に基づいて幅広いゲームやクリエイターが表彰されている。どの部門においてもノミネート自体が栄誉であり、その年を代表する作品・人物として表彰されることに変わりはない。

 今回、本稿でピックアップしたいのは、初開催となった2014年度から存在している“Games for Impact”部門だ。2014年時点では”Games for Change”という部門であったことが示すとおり、この部門における基準となるのは「プレイヤーになにかしらの影響や変化をもたらす作品であること」。アワードの公式サイトの説明文には、「社会的な意味やメッセージを持った、考えさせられる作品(FOR A THOUGHT-PROVOKING GAME WITH A PRO-SOCIAL MEANING OR MESSAGE.)」とある。

 これまでに受賞した作品で著名なタイトルとしては、2015年の『ライフ イズ ストレンジ』や、2018年の『Celeste』が挙げられるだろう。『Hellblade: Senua's Sacrifice』や『Tell Me Why』のような作品が受賞しているという点も、特筆するべきポイントだ。AAA作品のような大規模で総合的な娯楽としての大作ではなく、クリエイターが描きたい物語や、ゲームを通して表現したいメッセージに注力した作品に光を当てる。そのような意図が“Games for Impact”部門に込められているように思える。

 それでは、今年の“Games for Impact”にノミネートされた作品を紹介していきたい。6作品すべてがユニークな個性をもつ傑作であるため、気になった作品があればぜひチェックしていただきたい。

『A Memoir Blue』

(開発 : Cloisters Interactive / パブリッシング : Annapurna)(PC / PlayStation / Xbox / Nintendo Swtich)

A MEMOIR BLUE | Launch Trailer

 若くして水泳のトップアスリートとなったミリアム。どれほど大会で活躍しても、常に浮かない表情をする彼女は、ある時、何年も前に聴いた楽曲を耳にしたことをきっかけに、幼少期からの記憶がまるで水流のようにあふれ出てくるという感覚に誘われる。本作は、そんなミリアムと共に、彼女の記憶を追想しながら、「彼女に何があったのか?」という問いの答えへと向かっていく、ポイント&クリック型のアドベンチャー・ゲームだ。

 手書きのアニメーションと3Dアートの混ざったビジュアルは、美しさと可愛らしさが同居したユニークな体験を味わわせてくれる。本作には台詞が一切存在しないが、丁寧な描写によって、ミリアムが成長するにつれてどのような変化があったのかを、手に取るように理解することができるだろう。そこにあるのは、かつては仲むつまじい関係にあった親子の切ない物語であり、深く水の底へと潜っていくにつれて、彼女が心の奥底に隠していた本当の想いが明らかになっていく。

『As Dusk Falls』

(開発 : Interior Night / パブリッシング : Xbox Game Studios)(PC / Xbox)

As Dusk Falls - 公式トレーラー

 『Detroit: Become Human』や『HEAVY RAIN 心の軋むとき』などで知られる〈Quantic Dream〉の元スタッフが集結した新スタジオ〈Interior Night〉のデビュー作となるインタラクティブ・アドベンチャー作品。これまでのQuantic Dream作品と同様に「選択による膨大な分岐」に重きをおいた作品となっており、あらゆる場面で提示される選択肢に対するプレイヤーの反応が、物語や登場人物の行く末を大きく左右する(従来の作品同様にQTEも用意されているが、アクセシビリティオプションによって大幅に簡易化することも可能だ)。

 本作の舞台となるのは、1998年のアリゾナ州の小さな町で起きた、とある強盗事件。たまたま事件現場に居合わせてしまった何の罪もない平凡な(ただしちょっとした事情をもつ)家族と、やむにやまれぬ事情で強盗に手を染め、戻れないところまで来てしまったもう一つの家族の偶然の出会いが、物語を思いもよらぬ方向へと動かしていく。プレイヤーは時系列に応じて異なる立場のキャラクターを操作することになるが、その都度、「誰を信じれば良いのか?」、「本当の悪人は誰なのか?」、「本当に守るべきものは何か?」といった価値観が揺らぎ、一つひとつの選択にさらなる重みを与え、物語は更に予測不可能な展開を迎えていく。

『Citizen Sleeper』

(開発 : Jump Over The Edge / パブリッシング : Fellow Traveller)(PC / Xbox ※日本語未対応)

Citizen Sleeper - Launch Trailer

 本作を一言で表現するなら「宇宙✕サイバーパンク✕TRPG✕生活シミュレーション」といったところだろうか。おぼろげな記憶と共に目覚めた主人公は、人工の肉体に人間の意識をデジタル化して宿す“Sleeper”という存在として、Erlin’s Eyeという名の辺境の宇宙ステーションで暮らすことになる。まずは生き延びるため、次に現状から抜け出すため、あるいは真実を暴いて未来を変えるために、手元にあるダイスを投げながら一日の行動を決めていく。そうして積み重ねた日々(と膨大なテキストによる濃密な描写)によって、この世界での物語がじっくりと動いていく。

 本作のゲームシステム自体はシンプルで、基本的には画面に映る選択肢を選ぶことによって物語が進んでいく。だが、右も左も分からないままで宇宙ステーションに放り出され、明日には飢えるか、身体が朽ち果てるかもしれないという不安の中で働きながら、やがて魅力的な登場人物たちとの出会いを経て、交流を重ね、生活が豊かになっていく感覚は、他の作品では味わえないほどにリアルなものだ。一方で本作は「サイバーパンク」であり、かつては企業に所有される立場であった主人公は、資本主義の脅威に追われるようになり、やがて自らの運命を決める選択に直面する。

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