【特集】AIと創作(Vol.3)

執筆AIの発展が開発者と作家にもたらした変化 『AI BunCho』大曽根宏幸と作家・葦沢かもめが語り合う"AI創作論"

『AI BunCho』を使うためのTIPS

ーー葦沢さんは『AI BunCho』を普段どんなふうに使われていますか?

葦沢:まず、展開につまったときには「AIリレー小説」機能を使いますね。これは、文章を入力すると、その続きを生成してくれる機能なのですが、思ってもみなかった方向に話が発展していってくれます。そこからまた物語を書き進めていくことが多いですね。興味深いことに、後から振り返ると、どこからが自分の文章で、どこからがAIに書いてもらった文章だったのか見分けがつかないことがあるんです。AIに選択肢を提示してもらってはいても、選んでいるのは自分なので、やはり自分の思っているものが反映されるのかもしれない、と感じています。

大曽根:実際に使っていただいている様子をお聞きすると感慨深いものがあります。たとえば、自分が考えていた物語の筋から逸れるアイデアを提示されたときに、葦沢さんはどう軌道修正しているのでしょうか?

葦沢:そうですね。あらすじを指定できるので、自分のプロットに沿った文章を出しやすくなっているのですが、思い通りにいかないときは、いくつかこの方向で進めたいと思う文章を入力してから自動生成してもらえるといいですね。

大曽根:プロットづくりのときには使いますか?

葦沢:はい。さいきん書いたものだと、新しく実装された「プロット生成」機能を使ってみていますね。12個の枠がありますが、最初の3、4個を入れてみると、自分の思ったようなプロットになってきます。実際、星新一賞に応募した作品を制作しているときは、使うたびに新しい発見があるな、と思い使っていました。意外な組み合わせが生まれるときに、AI執筆を行うおもしろさを感じますね。

ーーさっそく使ってみたくなりました。

葦沢:すごく具体的なTIPSをご紹介すると、キャラクターの人物名を「田中」「鈴木」といった、よくある名前にして書くとやりやすいですよ。特殊な名前を入れてしまうと人名として認識してくれないことがあります。

大曽根:自分の使い方だと、自分が考えた物語の各場面がつながらないときに、AIに場面がどうつながるのか、その理由を作ってもらうと、意外な流れが見つかったりします。自分で実際に本文を作ってもらったりして、どんな文章が生成されるのか見てみると楽しいと思います。

AI小説家に人は何を求めるのか?

ーーAI執筆の話題になると、ときおり、「AIではなく、人間の書いた小説じゃないと嫌だ」という意見が見受けられます。こうした考えに対して、葦沢さんはどう感じますか?

葦沢:私は作者が誰か、どんな人なのかは気にしないタイプですね。この人が書いた作品だからおもしろみを感じるというよりは、作品それ自体の世界観、メッセージに面白みを感じます。たとえば、文章がなめらかで生々しさがある伊藤計劃さんの『虐殺器官』、ジュール・ヴェルヌの作品は『神秘の島』をはじめ、子ども心をくすぐられるような未来のヴィジョンに満ちた冒険譚に惹かれます。レイ・ブラッドベリは幻想的でホラー的な語り口の短編が魅力的ですし、バラードは終末の破滅へとひたひたと歩いている感じが『結晶世界』などにみられて好きですね。周囲の小説を書いている人は、「作家性」こそが小説の醍醐味だと言う人が多いのですが、そう述べる人が考えている作家性とは何か、気になっています。「村上春樹の作家性が好き」という人が好きなのは、文体なのか、展開なのか、調査してみたいです。

ーー葦沢さん自身は自分に作家性があると思いますか?

葦沢:例えば、私がAIを使って書いている、ということから、「葦沢さん自身がSF的な存在だ」といったご感想をいただくことがあります。しかし、私自身、作家性はそこにはないと考えています。あくまで、みんながAIを使って書いてくれたらおもしろいだろうな、と思いAI執筆の宣伝をしているんですね。

ーーAIで書いていることにアイデンティティを持っていない、と。

葦沢:はい。そうではなく、さきほどお話したように、自分の足りないところを書くために書いていること、そして、未来に実現しうるテクノロジーと世界を予言して書くことに自分の作家性を見出しています。実際、自身のSFの原体験は、到来するかもしれない未来の技術を描いたジュール・ヴェルヌでした。新しい技術の誕生とその技術が適用された世界を描く彼に憧れて作品を作っています。

ーーなるほど……。近年のSFでもっとも作家性を読み込まれるのは、大曽根さんもしばしば言及されている、34歳で夭折した伊藤計劃かもしれません。

大曽根:私は伊藤計劃さんに大きな影響を受けていて、いちばん衝撃を受けたのは『ハーモニー』でした。最初に読んだときは、単純に話のプロットがおもしろい、と感じていましたが、その後ブログを読んだりしているうちに、病床にいた伊藤計劃さんが、「自由意志がなくなることで人間は幸福になるのだろうか?」という問いを込めて物語を描いていた事実に心が動きました。そういう意味で、私は作家性に関心があるといえるかもしれません。

ーーもし伊藤計劃がAIを使って書いたということを聞いたとしたら、作品の印象は変わるでしょうか?

大曽根:うーん。AIを使うことで、自分の言葉では伝えられない部分を補おうとした、と考えると、執筆のどの段階で彼は執筆AIを使うのだろうか、と気になります。私にも想像がつかないような不思議な使い方を編み出しそうで、もしできるなら使っている姿を見たかったですね。

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