MCU『ソー』作品でも題材になった終末の日“ラグナロク” 名作『ゴッド・オブ・ウォー』続編は、“北欧神話の最終戦争”を通して何を描いたか

 数百年以上に渡って世界中の人々を魅了し続け、いまなおさまざまな作品のモチーフとして使われる北欧神話。そのなかでも特に重要とされているのが、”ラグナロク”という出来事である。

 巨人族であるヨトゥンの血を引く、ロキという神がいた。ロキは、主神オーディンの息子である不死の神バルドルの死のきっかけを作り、その結果、世界は光を失い、フィンブルの冬と呼ばれる長きに渡る過酷な冬の季節が続くこととなる。

 やがてロキは多くの軍勢とともにアース神族の王国であり、この世界を構成する九つの世界、九界の一つであるアースガルズへと侵攻する。オーディンはもちろんのこと、その息子であるトールや、アースガルズの見張り番を務めるヘイムダル、軍神テュールといった神々や、巨大な蛇ヨルムンガンドもこの戦いに加わり、巨人と神々による壮絶な戦争が幕を開ける。

 この戦いのなかでオーディンは死に、ロキとヘイムダル、トールとヨルムンガンドがそれぞれ相打ちに倒れるなど多くの犠牲が生まれ、やがて炎の巨人・スルトが放った炎によって、世界中が焼き尽くされたことで終焉を迎える。

 これがラグナロクという、北欧神話における終末の日である。近年でラグナロクを描いた有名な作品としては、かのMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)のうち、タイカ・ワイティティ監督が手掛けた映画『マイティ・ソー バトルロイヤル(原題 : Thor: Ragnarok)』(2017年公開)が挙げられるだろう(ちなみに、トール=ソー、アースガルズ=アスガルドである)。

 同作がMCU全体でも特に高い評価を獲得している背景には、そもそもこのラグナロクという(一歩間違えれば全てが台無しになってしまうほどに)壮大かつ悲劇的な題材を見事に描いてみせたことにある。

 2022年11月9日に発売予定となる、サンタモニカスタジオが開発した最新作『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』(以下、『GOWラグナロク』)は、人気アクションゲーム「ゴッド・オブ・ウォー」シリーズの最新作であり、ラグナロクをタイトル通り、物語のメインに据えた作品だ。

 そもそも、「The Game Awards」を含む260以上ものゲーム・オブ・ザ・イヤーを獲得した前作『ゴッド・オブ・ウォー』(2018年)は、「果たして、これ以上の作品があるのだろうか」と思わせるほどの凄まじい傑作だった。

 ”母親を弔う旅”を軸に、壮絶な神々との血肉に塗れた戦いを繰り広げてきた父クレイトスと、その息子である幼きアトレウスの親子による、どこか不器用な関係性の変化を繊細かつ丁寧に描いた物語。技術の進歩が著しい現在においても全く見劣りしないほどに美しいグラフィック。カットシーンとゲームプレイの境目が判別出来ないほどの自然なアニメーション。シンプルでありながら奥の深い、手に汗握る生々しい戦闘アクション。

 なにより”オープニングからエンディングまで全編ワンカット、ロード時間無し”という現代のビデオゲームにおいて異例の表現手法が生み出す、親子の旅路を共に体感しているかのような驚くべき没入感。これらの要素が見事に噛み合い、ある美しい瞬間へと向かっていく同作の体験は、今なお忘れることができない。

 だが『GOWラグナロク』をプレイした今となっては、あの作品はあくまで準備運動であったかのような感覚すら覚える。この先行レビューのため、約30時間以上に及ぶプレイ時間を経てメインストーリーをクリアしたいま、サンタモニカスタジオが前作を遥かに凌ぐほどの金字塔を打ち立てたという事実に、ただただ驚嘆するばかりだ。

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